ゆらのと
張見世のような座敷の格子が途切れたところで、トアラは足を止めた。
桂も立ち止まる。
そして、口に当てていた右手をおろした。
トアラはいつもと同じ無表情で見ている。
「二年ほどまえに、アジン様は地球に、江戸に行き、しばらく滞在されました。そのときに日本人を好まれるようになり、また、日本の遊郭を気に入られました。だから、この屋敷の地下を改築して、このような場所を作られました」
そう淡々と説明した。
桂は口を開く。
「俺もここに入れられるのか」
あのような格好をさせられて、格子の向こうの畳の上に座らされることになるのか。
胸の中を苦いものが走った。
「おそらくそうはならないでしょう」
トアラは冷静な声で答えた。
「アジン様は江戸を訪れた際に、偶然、あなたを眼にして、気に入り、それから素性を知って、ますます気に入ったそうです。ですが、あなたを手に入れるのは非常に難しい。そのため、あなたにはかなりの高値をつけたのです」
高値をつけた。
それは桂本人の知らないところで、勝手にしたことだ。
腹がたつ。
「そして、宇宙海賊につれてこられたあなたと会い、アジン様は想像以上だと喜ばれています。あなたをつれてきた報酬として大金を支払われていますし、あなたのことをたいそう気に入られています。あなたを特別扱いされるでしょうから、この地下に閉じこめるようなことはないだろうと思います」
「だったら、なぜ、俺をここにつれてきたんだ」
桂はトアラの眼をじっと見る。
その瑠璃色の瞳は硬く、どんな感情も浮かんでいない。
「あなたに知っていただきたかったのです。あなたと同郷の人々がこの屋敷でどのような状況にあるのかを、知っていただきたかったのです」
だが、その声にはいつもと違う響きがある。
強い響きがある。
「そして、ここにいる人々を助けていただきたいのです」
その強い響きは、熱だ。
トアラの心だ。
そう桂は感じた。



