ゆらのと
「お気づきでしょうが、ここにいる人のほとんどが精神的におかしくなっています」
「薬のせいか」
「そのせいばかりだとは言い切れませんが、たいていがそうです。薬がきいているあいだは強い快楽を得られます。しかし、依存性がきわめて高く、服用を続けるうちに精神が崩壊してしまうという副作用があります。ですから、アジン様は自分のおもちゃにしたい相手に服用させても、ご自身が服用されることはありません」
トアラは眼を細めた。
「この屋敷の使用人も、見目の良い者は、アジン様の寝室に呼ばれることがあります。でも、その際に薬が使われることはありません。使用人が使えなくなったら、もったいないからです」
君もそうなのか。
そう問いかけて、桂は言葉を呑みこむ。
聞くまでもないことだろう。
「おそらく、あなたにも薬は使われないでしょう」
「大金を支払ったのに、薬のせいで壊れてしまったら、もったいないからか」
「ええ」
トアラはうなずいた。
そして、言う。
「それに、アジン様はあなたに自分の子供を産ませることも考えているようです」
「な」
なにをバカなことを。
桂は絶句した。
一方、トアラは冷静そのものだ。
「この国では、人工子宮を用いて男でも子供を産むことができます」
感情のにじまない声で説明する。
「自分の子供を産ませることで、あなたを母親にし、子供から、そして、その子供の父親である自分から離れられなくしようと考えているのではないかと思います。薬を使わず、あなたが正気のままの状態で、自分の支配下に置ける。そう考えているのではないかと思います」
男の自分が子供を産む?
それも、あの男の子供を?
なんの冗談かと、桂は思う。
冗談だと思いたい。
しかし、トアラが冗談を言うはずがない。
「自分の子供を産ませるつもりの身体に、母体に悪影響を与える薬を服用させることはないでしょう」
トアラは話を続ける。
「もっとも、これはまだ検討中のことのようですし、それに、実行するにしても、母体となるまえの身体を存分に楽しんでからのことで、しばらく先のことになるでしょう」
気分が悪い。
それも、ひどく悪い。
めまいがする。



