ゆらのと
「アジン様に命じられるままに、この屋敷につれてこられた人々のお世話をしてきました。もうどうしようもないほどに壊れてしまった人や、死んでしまった人の始末を、アジン様が闇の世界の者たちに依頼するのも見てきました。私はずっと見殺しにしてきたのです。私には罪があります。その罰を受けなければならないでしょう。だから、やっと見つけた希望の光に、この命を賭けます」
トアラの眼にも意志があらわれる。
強い眼差しが桂を見据える。
「勝手なお願いをして申し訳ありませんが、どうか、私と一緒に戦ってください」
そうトアラは力強い声で訴えた。
桂は自室の寝台の上にいた。
トアラとともにこの部屋にもどり、トアラが去ったあとである。
夜具の中で、さっきまでのことを頭によみがえらせる。
桂はトアラの頼みを引き受けた。
頼まれなくても、あそこにいる者たちを放ってはおけない。
だから、頼まれたことで、トアラの協力が得られることになり、むしろ好都合だった。
味方ができて、良かった。
心からそう思う。
けれども。
喜べない。
重苦しい気分に満ちていて、心が晴れない。
強く眼をつむる。
眠ろうと思った。
眠って、ほんのひとときでも、この問題から離れてしまいたい。
だが。
やはり、頭にいろいろなことが浮かんできて、消し去っても、また浮かんでくる。
なにも考えたくないのに、意識は冴えて、つい考えてしまう。
考えるな。
自分に言い聞かせる。
どうしても眠れないとしても、身体を休めておきたい。
できるだけ気をゆるめて、眼を閉じて横たわっていれば、多少なりとも体力を養うことができるだろう。
ふと。
うっすらと人の気配を感じた。
だれかが部屋の中にいる。
扉が開けられたのを感じなかったので、おそらく、そのだれかは自分がもどってくるまえにこの部屋に入ったのではないだろうか。
そうなると、もちろん、トアラではない。
では、だれだ。
この屋敷に味方はトアラしかいない。
だからといって、残り全員が敵だというわけではないが、こっそり部屋に忍びこんでひそんでいる相手に不安を覚える。
桂は身体を起こした。
気配を感じたほうに、眼をやる。
薄闇の中、人が近づいてきていた。
男だ。
その顔を見て、桂は眼を見張った。
ありえない。
嘘だろう。
「銀時」
小声で、その名を呼んだ。
自分は夢を見ているのだろうか。



