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ゆらのと

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「よろしく頼む」
桂がそう言い、仕事の話は終わった。

夜の帳を背景に、けばけばしいぐらいに色とりどりのネオンサインが輝いている。
道には、店のまえで呼び込みをする者が立ち、あるいは好みの店を探す者が行き交っている。
かぶき町らしい光景だ。
銀時は桂と肩をならべて歩いていた。
話が終わって桂が帰ろうとしたとき、銀時はあることを思い出して声をあげた。
今日はジャンプの発売日だった。
すっかりそれを忘れていた。
だから買いに行くことにした。
ついでに、と新八と神楽からいろいろと買い物を頼まれてしまったが。
「あー、めんどくせーなァ」
それを思い出して銀時は言う。
「俺ひとりだったら、他のもん買わなくてすむのによー」
隣から、軽く吹く音が聞こえてきた。
銀時は桂のほうを見る。
桂の口元には笑みが浮かんでいる。
「めんどうだと言いながら、だがそれは彼らに頼まれた物を買うのが前提なんだな」
その切れ長の凜とした眼は真っ直ぐに銀時に向けられている。
幼い頃からのつきあいで、見慣れている。
けれど、とらえられた気がした。
「まるで家族のようだな」
そう告げた声は、温かく、優しい。
「……そんなんじゃねーよ」
銀時は眼をそらした。
「なんだ、照れているのか」
「ちげーよ」
否定する。
「そんなんじゃねェんだよ」
声が荒れた。
胸の中の強いイラ立ちが出てしまった。
「銀時」
「……家族じゃねーよ」
吐き捨てた。
みっともない。
それがわかっていて、それでも口に出さずにいられなかった。
お互い無言のまま歩く。
まわりにいる者たちの声がまるで波のように聞こえて、やけに耳についた。
「……なァ、銀時」
しばらくして、桂が言う。
「おまえにとって家族は、今も、松陽先生ひとりなんだな」
その名を聞いて、心臓が一度強く打った。
打たれた胸が痛い。
一瞬にしてその姿が頭に浮かんだ。
思い出したくなかった。
「立ち入った話をしてもいいか」
「断る」
桂の問いかけを、即座に拒否する。
みっともない。
そんなのわかっている。
しかし、どうしようもない。
触れられたくない。
思い出さないことと忘れていることは違う。
忘れてなんかいない。
思い出さないようにしているだけだ。
「……そうか、わかった」
ぽつりと桂は言った。
それから店のまえで別れるまで、お互いなにも喋らなかった。

夢を見た。
戦の夢を見た。
作品名:ゆらのと 作家名:hujio