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ゆらのと

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「……水がほしい」
ぼそっと言った。
「は?」
桂が声をあげた。
そちらのほうを向く。
右隣にいた。
戸惑っているようだ。
隙だらけだ。
腕をあげる。
それに気づいたはずなのに桂は避けようとしない。
つかまえるのは、容易だ。
「ほしい」
「銀時……!?」
つかまえて、名を呼ぶ声ごと胸へと引き寄せる。
桂の身体を腕の中におさめる。
その身体に触れる。
自分がこの家に来て玄関の戸を打ち鳴らす直前まで、きっと桂は布団の中で眠っていたのだろう。
触れた身体にはやわらかな温もりがある。
冷え切った夜の町を歩いてきた自分とは真逆だ。
堅く乾いた身体に、その温もりがしみる。
抱きしめた。
よりいっそう強く伝わってくる。
その温もりは、優しく、甘くすら感じた。
もっと。
心の望むことを身体は実行しようとした。
しかし。
「放せ」
桂が暴れた。
「水がほしいのならくんできてやるから、放せ」
状況をよくわかっていないようだ。
桂らしい。
さっき水がほしいと言ったのは言葉のままの意味ではないのに。
戦の際は勘が鋭く状況判断も的確だが、こういったことにはあきれるほど鈍い。
苦笑する。
つい腕の力がゆるんだ。
あらがう桂の身体が離れていく。
今なら引き返せる。
だから引き返せ。
そう頭が告げる。
だが。
もう引き返すつもりはねェよ。
強く思った。
ふたたび桂をつかまえ、引き寄せる。
「銀時!」
とがめるように桂は名を呼び、押しもどそうとする。
けれど、押しもどされる気も、つかんだ腕を放す気もない。
力の差で桂は後ずさる。
それを追う。
逃すつもりはない。
これまで、何度も、伸ばした手を触れる直前でおろしてきた。
これまで、何度も、つかまえたのに本心を告げずに放してきた。
だが、もう無理だ。
心がカラカラに渇いて、硬直して、さらに刃でぐさりと深く斬りつけられたように痛い。
ひどく痛い。
渇きをいやす水がほしい。
痛みをやわらげる温もりがほしい。
なぜそれを望んではいけない。
なぜそれを告げてはならない。
抑えることは、もう無理だ。
なにかが自分の中でブチ切れたのを感じた。
作品名:ゆらのと 作家名:hujio