ゆらのと
結局のところ、銀時がこれまで言わなかったのは桂の気持ちを考えてのことだ。
それを考えなければもっと早くに言って楽になっていただろうし、ここにきて言ったことは、それまで言わなかった年数を考えれば、勝手だと非難することはできない。
桂はなにも言えなかった。
すると。
「まァ、それだけじゃねェんだけどな」
また銀時が話し始めた。
「テメーんちに行くまえに夢を見た。戦んときの夢だ」
戦、それはまちがいなく攘夷戦争中のころのことだろう。
そういえば、宇宙海賊春雨と戦って傷つき気を失った銀時を攘夷党の同志がつれてきて、潜伏先で寝かせたことがあったが、あのとき、銀時はうなされていた。
戦の夢を見ていたらしい。
そして、昨夜また見たということだろう。
だが、同じことだと簡単に片付けるわけにはいかない。
戦の夢がいいものであるわけがなく、それは心を傷つけるだろうし、それに、時が過ぎた今も繰り返し見るというのは問題だろう。
桂は眉を曇らせた。
「これまで何度も見たことあったんだが、昨日のはなんでだか、いつもより、こたえた」
あいかわらず銀時の声は淡々としていたが、桂の心には重く響いた。
昨日、万事屋から家に帰る道で松陽の話になり、詳しく話そうとしたら銀時に拒否された。
それで、よくわかった。
銀時は今も、たったひとりの家族である松陽を殺されたことに対して激しい怒りを抱いているということが。
それと同じで、戦から離れて年月が流れた今でも、戦で多くの仲間が亡くなった悲しみや後悔が胸の中に渦巻いているのだろう。
心配だ。
攘夷戦争中に心を病んで自ら命を絶った仲間がいた。
さらに、戦のあとにも、自殺した仲間がいた。
戦のときのことがどうしても忘れられない。
仲間が殺されたときのことがはっきりと頭によみがえってくる。
その記憶から自分は逃れられない。
苦しい。
生き残ったことが苦しい。
そう言い遺して、死んだ。
「銀時」
思わず桂は腕をあげた。
その手が触れる直前に、銀時がこちらのほうを見た。
「友情だったらいらねェよ。手ェ伸ばすんなら、覚悟しろ。つかんで放さねェからな」
向けた眼差しは鋭かった。