ゆらのと
桂は口を真横に引き結ぶ。
友情だったらいらない。
しかし、自分はそれ以外のものは差し出せない。
銀時に限らず同性である男と、というのは、ありえないと思う。
手をおろした。
眼を伏せる。
そして、なにも言わないまま、桂はその場を去った。
机の上の湯飲みには綺麗な黄緑色の茶が八分目まで入っていて白い糸のような湯気があがっている。
その湯飲みを手に取った。
手のひらにじんわりと温もりが広がる。
桂は茶を半分ぐらい飲むと、湯飲みを机にもどした。
今日は午前中に攘夷党の仲間たちと情報交換をして、外で昼飯を食べて、この家に帰ってきた。
活動資金調達のための仕事は真選組に見つかりそうになって辞めて以来、していない。
思想に共鳴して、あるいは、もしもまた世がひっくり返ったときの先行投資として、ひそかに資金援助してくれる商人が何人かいるので、実は桂が働く必要はないのだが、頼りっぱなしなのも心苦しいので、情報収集もかねて仕事をするようにしている。
今は新しい仕事を探しているところであり、まだ決まっていないので、今日の午後は特にすることはない。
だから、桂は居間でくつろいでいた。
外は曇天である。
ここ数日は暖かい日が続いていたのだが、昨日までと比べて気温がかなり下がったようで、肌寒い。
ふと、呼び鈴が鳴った。
続けて、声が聞こえてくる。
「桂さん、いますかー?」
新八だ。
この家を訪ねてきたのは初めてだ。
桂は畳から立ちあがり、玄関のほうへと向かう。
やがて土間に行き着くと草履を引っかけて進み、玄関の戸をガラガラッと開けた。
外には、新八、そして、神楽が立っていた。
桂は驚く。
「どうしたんだ、一体」
神楽の眼は赤い。
ついさっきまで泣いていたのだろう。
「ヅラぁ」
神楽の顔がふにゃっとゆがんで、その眼に涙が浮かんだ。
「……中に入れ」
訪ねてきた目的を聞くより、まず落ち着かせたほうがいいと判断した。