ゆらのと
新八と神楽が振り返る。
「一時的に荒れているだけなんですよね」
「私もムカつくことがあったら、銀ちゃんや新八にやつあたりするアル」
ふたりともニッと陽気に笑ってみせ、桂の返事を待たずに廊下のほうを向き、歩き出した。
桂はそんなふたりの後ろ姿を眼を細めて見る。
自然と頬に笑みが浮かんでいた。
空のほとんどを灰色がかった雲が覆い隠している。
そのわずかな隙間からときおり薄黄色い光を放ちつつ太陽がゆらゆらと渡っていく。
冷たい水のような風に顔を洗われながら、桂は道を歩いた。
同じかぶき町でも桂が住んでいるのとは異なり、あたりに店が多い。
やがて目指している二階家が見えてきた。
その近くまで行くと、二階へと続く階段をのぼった。
階段をのぼりきり、万事屋の玄関のまえに立つ。
おまえのことがずっと好きだった。
手ェ伸ばすんなら、覚悟しろ。
銀時に言われたことを思い出した。
それを振り切るように呼び鈴を押す。
「桂だ」
戸の向こうに呼びかけた。
「銀時、いるんだろう?」
しばらくして、家の中から戸のほうへと近づいてくる気配がした。
桂は待つ。
戸がガラガラッと開けられた。
敷居の向こうの正面に銀時が立っている。
距離はあまりない。
銀時は無表情で桂を見る。
黙ったままだ。
桂は口を開く。
「さっき新八君たちが俺の家に来た」
そう低い声で告げると、銀時の表情が少し揺れた。
あのふたりのことを気にしていたのだろう。
「中で話をしてもいいか」
こんなところで立ち話をして済ませられることではない。
銀時は答えず、しかし身を退いた。
その銀時の身体でふさがれていた正面が空く。
中に入ってもいいということだろう。
桂は敷居をまたぐ。
土間を進んでいる途中、背後で戸が閉められる音がした。
草履を脱ぎ、上がり框をあがる。
何度か来たことのある家だから案内はいらない。
桂は応接間兼居間のほうへ行く。
銀時がついてきているのを背中に感じる。
そして、部屋に入った。
いつもは座るソファまでは行かずに立ち止まり、身体ごと銀時のほうを向く。
銀時も足を止めた。
近い。
距離がたいして空いていないことが気になった。
しかし、だからといって後じさりたくはない。
ここで退いてしまったら、対等に話ができなくなる。
桂は表情をいっそう引き締め、言う。
「ふたりを解雇したそうだな」