ゆらのと
銀時は黙っている。
無表情で、じっとこちらを見ている。
「なにがあったか新八君から聞いた。ふたりとも自分たちがなぜ解雇されたのかわからず、途方に暮れて、俺のところに来た。おまえとつき合いの長い俺ならなにかわかるかもしれないと考えたらしい」
話すうちに、新八と神楽が家を訪ねてきたときの様子が頭に浮かんだ。
「ふたりとも悩んでいたし、落ちこんでもいた。なにが悪かったのかって、どうしたらゆるしてもらえるのかって、俺に聞いてきた」
あのとき、神楽は泣いていた。
かわいそうだった。
足の横におろしている手をぐっと拳に握る。
「なァ、銀時」
無言のまま見ている眼を、鋭く見返す。
「あのふたりは、なにも悪いことはしていないし、おまえにゆるしてもらうことなんか、ないんじゃないのか」
切りこむように問いかけた。
銀時の閉じている口が横に強く引かれる。
表情は揺れた。けれど、返事をする気はないらしい。
桂はさらに言う。
「年端もいかぬ少女を泣かすな」
神楽が泣いていたことを伝えた。
すると、銀時は眼をそらした。
眉根が寄っている。
心苦しいのだろう。
それを感じ取って、桂は厳しく強張らせていた表情をゆるめた。
「……銀時」
穏やかな声で話しかける。
「あのふたりは、いい子たちだな」
それは桂の素直な感想だった。
「おまえのことを大切に想っているようだ。そんなこと、おまえもよくわかっているんだろう?」
銀時はなにも答えない。
横を向き、眼を伏せている。
「あのふたりはおまえのことを家族のように大切に想っている。それに、おまえだって、あのふたりのことを大切に想っているんだろう」
銀時にとっては今も家族は松陽ただひとりだとしても。
「しばらく新八君の家にいるそうだ」
桂の家を出るまえに新八がそう言っていた。
一時的に荒れているのだろうと桂が推測したので、ふたりは待つつもりなのだろう。
「会いに行ってやれ。そして、謝って、解雇を取り消せ」
銀時のそばには彼らがいたほうがいいと思う。
精神的に不安定になっているのなら、いっそうである。
大切に想ってくれる存在は、大切だ。
おそらく、銀時は戦の夢を見てそれが心をさいなんでいるときに、新八と神楽が死んだように横たわっている光景を見て、気が動転して、ふたりを突き放してしまったのだろう。
あのふたりのことだから、もし銀時が迎えに行って詫びれば、たいして詮索もせずにゆるしてくれるに違いない。
三人が元どおりになることを、桂は願う。
それが銀時にとって一番いいことだと思った。
しかし。
「……っせーよ」
ぼそっと銀時が言った。
え、と桂は戸惑う。
予想外の反応だった。
すると。
「うるせェんだよ」
今度は、はっきりと銀時は言った。