ゆらのと
「……あの色になったらもうすぐ刈り入れしなきゃならねェってことだろ。綺麗だとかそんなのんきなこと言ってられるかよ」
銀時は素っ気なく言った。
一緒に暮らしている松陽は兵学師範である。
しかし、天人が来襲した頃に江戸で事件を起こして士籍を剥奪され、それ以来、家で寺子屋のような塾を主宰するようになった。
塾の評判は良く、塾生は多い。
けれど、松陽は貧しい者からは月謝を取らないので、それだけでは生計が立たず、農民のように田畑を耕したりもしている。
「ちゃんと刈り入れを手伝う気があるのか」
桂の眼が銀時のほうに向けられた。
「あたりめェだろ」
「だが、みんなが農作業している最中におまえはよく姿を消す」
桂の言った、みんな、とは塾生のことだ。
塾生も松陽を手伝って農作業をする。
それは、近所から来ている者だけではなく、桂のように城下で暮らす高い身分の武家の子であっても同じだ。
松陽は自分の塾では身分というものを取り払ってしまっている。
身分の低い塾生も、松陽の塾では、身分の高い塾生に対等であるかのような口をきく。
それがあたりまえなのだ。
身分の高い武家の子で、評判を聞いて入塾したものの、そうした塾のあり方に腹をたてて、すぐにやめてしまった者が何人かいる。
「まったく手伝わないよりマシだろ」
銀時は言い返した。
勉学や農作業からこっそり抜け出すときは、ひとりとは限らない。
もちろん頭の堅い桂が一緒に来るわけはない。
他の塾生だ。
松陽が自分の塾では身分の違いなどにこだわらないので、最初は異端の者として桂以外の塾生たちから距離を置かれていた銀時も日がたつにつれ彼らとの距離は無くなっていった。
「マシとかそういう問題ではない」
桂はむっとした表情になった。
真面目なので、銀時のいい加減さが頭にくるらしい。
だが、それでも、よく桂のほうから話しかけてくる。
そして、銀時も、桂を見かければ声をかける。
性格はまるで正反対のようで、しかし、気が合わないようで気が合って、考えが驚くほど一致しているときもある。
くだらない話をして、気がつけば、ずいぶん時間がたっていたこともあった。
そういうときには、そのままずっと話をしていたくて、離れがたい気分になった。
もっとも、そんなことは、顔には出さなかったが。