ゆらのと
どうしたらいいのか。
うつむいて、考える。
襟を握る手にぎゅっと力が入った。
その下にある胸の中でいろいろな想いが渦巻いている。
苦しい。
ソファから立ちあがった。
銀時のほうを向く。
その姿をじっと見る。
そして、言う。
「そんなことできるわけがないだろ」
胸が苦しい。
だから、吐き出した。
本音を。
「俺はおまえを捨ててはおけない。心配なんか、するに決まっている」
相変わらずこちらのほうを向こうとしない銀時に、言葉をぶつける。
ぶつけずにはいられない。
「あたりまえのことだろうが」
それでも銀時は黙ったままで、こちらを見ない。
拒否している。
そう感じた。
襟をつかんでいる拳を強く握る。
胸の中で感情が高波のように大きくうねっていた。
どうして、と思う。
どうして、伝わらない。
どうして、拒否をする。
「おまえは」
激しく揺れる感情に押されるように口を開いた。
「これまでのことを全部、おまえと過ごした日のことをすべて、俺に捨てろと言うのか」
頭に過去の記憶がよみがえってくる。
銀時とともに過ごしたときのことが、様々、浮かんでくる。
「俺の大切な記憶を捨てろと言うのか……!?」
思い出したのは良いものばかりではないが、自分にとってはどれも大切な過去だ。
つらいときに生きる支えになったこともある。
もう心配もしないというのは、それを捨てなければ無理だ。
捨てたくない。
そう強く思い、訴えるように銀時を見る。
だが、銀時は返事をしない。
こちらを見ない。
もう友人にはもどれないのだ。
もどらないと銀時が決めてしまっている。
自分は選ばなければならない。
「……今夜、うちに来い」
心を決めた。
「おまえのほしいものを、やる」
手ェ伸ばすんなら、覚悟しろ。
その覚悟をした。
「ただし、あとであのふたりに謝って解雇を取り消せ。それが条件だ」
失うものを比べて、どちらを失いたくないかを考えて、選んだ。
捨てることはできなかった。
どうしても。
一度は関係を断ち切ろうと考えた。
けれども今はあのときとは状況が違っている。
事態はより悪いほうへと進んでしまっている。
戦のあとに自ら命を絶った者や酒におぼれて転落していった者のことが頭に浮かんだ。
銀時があんなふうになったらと想像すると、正直、怖い。
そうなる可能性があるのに、なにもできないのは嫌だ。
なぐさめるために自分の身体を使うのも嫌だが、どちらのほうが嫌かを考えたら、まえとは違う結論になった。
銀時を失いたくない。
強くそう思う。
だからこそ。
苦渋の選択だった。
桂は歩きだす。
帰るつもりで、銀時の横を通り過ぎようとした。
しかし、そのまえに銀時の腕が行く手をふさぎ、抱き寄せられる。
間近で銀時が聞いてくる。
「本気なのか」