ゆらのと
思わずびくっと身体を揺らし、眼を開けた。
耳に神経が集中する。
「桂」
呼びかける声も聞こえてきた。
桂は上体を起こす。
やはり、来たか。
胸から腹になにか重いものがずしりと落ちてきたような感覚があった。
けれど、あのときに自分はこれを選んで、そして、覚悟したのだ。
背筋を真っ直ぐに伸ばし、顎をあげた。
言い訳も後悔もしたくない。
立ちあがり、部屋の灯りをつけた。
寝ようとして布団に入ったときよりも夜は更け、気温はいっそう下がっている。
寒さが背筋を駆けあがってきて身を震わせた。
部屋を出て、静かな廊下を進んだ。
玄関に着く。
格子戸を開けた。
敷居が境界線のように横たわり、その向こうに銀時が立っている。
眼が合った。
だが、なにを言えばいいのかわからない。
黙ったまま身を退いた。
銀時も無言で、境界線を越えてくる。
横を銀時が通り過ぎていったあと、戸を閉め、鍵もかけた。
それから、廊下へともどる。
先に行っていた銀時は待つように廊下で足を止めていた。
その横に行く。
銀時はふたたび歩きだした。
少しだけ桂のほうがまえに出て、廊下を進む。
ふと、思いついて、それを口にする。
「茶はいるか」
「いや」
銀時は答える。
「いらねェ」
ならば居間に通す必要はない。
そう思い、寝室のほうに行った。
部屋に入る。
さっきまで寝ていた布団が、もちろんそこにある。
わかっていたはずのことだが、その畳に敷かれた布団を見て、どうしようもなくためらいを感じてしまい、足が止まる。
攘夷戦争中には何度も同じ部屋でふたりきりで寝た。
しかし、あのころと今では状況が違う。
胸の中に様々なことが去来する。
ふたりで過ごしたときのことをいくつも思い出した。
無二の親友だと思っていた。
少なくとも自分は。
一生このままの関係であり続けたいと思っていた。
その関係が、変わる。
今から、完全に変わってしまう。
それに、相手が銀時でなくても、自分が男と、ということにはどうしても抵抗がある。
足が進まなくなった。