ゆらのと
ふいに、背後から抱きすくめられた。
びくっと身体を揺らす。
驚いたからだけではなく、触れた銀時の身体がひどく冷たかったからだ。
寒い外を歩いてきたのだから、しかたがない。
「……新八から話を聞いたんだよな」
銀時に問われて、なんのことだろうと一瞬考えた。
新八から最近聞いたこと。
ふたりが解雇されたときのことだ。
「ああ」
「あのとき、新八と神楽が瓦礫の下に倒れてるのを見て、ふたりとも死んじまったと思った」
感情のこもらない声で銀時は話した。
うしろから抱かれているので、その表情を見ることはできない。
「それで、思った。俺ァまた護りきれなかったんだ、ってな。そのあと、戦んときのことを思い出した。それから、……松陽のこともな」
その声の調子は徐々に強く厳しいものへと変化した。
荒れた感情を抑えきれないといったように。
「同じだ、それと同じだって思った。俺ァ大切なもん護りきれなかった。また、失ったって思った」
表情は見えないが、すぐそばから聞こえてくる声はつらそうだ。
「だが、新八も神楽も生きてた。それがわかったすぐは、単純に、良かったと思った。けどな、そのあとに思ったんだ。今は助かったが、これから先どうなるかわからねェって。俺ァこれまで何度も大切なもん護りきれずに失ってる。だから、また同じことを繰り返すんじゃねェかってな」
やりきれなさそうな声。
その声が、耳に、全身に響く。
それは胸にも届いて、感情を激しく揺さぶられる。
胸が痛い。
「だから、いつか護りきれずに失うぐれェなら、今、自分から縁を切ったほうがマシだって思った」
ふたりを解雇した理由がわかった。
攘夷戦争中のことを思い出して気が動転していたわけではなかった。
いつか失うことを恐れて、先に突き放したのだ。
悲しい、と思った。
それだけ大切なものを失い続け、そしてそのことで自分を責め続けてきたのだろうと思うと、悲しかった。
失うのを恐れることを臆病だとは思わない。
大切なものを失ったときの、身を引き裂かれるような痛みを知っているから。
その痛みを、銀時は何度も胸に刻みつけられたことがあるのを、自分は知っているから。
だれよりも、一番長く、一番そばにいて、それを見てきたと思っているから。
だからこそ。
今、こうして話を聞いていて、胸が痛い。
悲しい。