ゆらのと
桂はうつむいている。
迷っているように見える。
しばらくして、桂は顔をあげないまま言った。
「わかった」
翌日は臨時で大工の手伝いをする仕事が入っていたので、朝から日が暮れるまで建築現場で働いた。
夕飯は万事屋で食べ、それから新八が家に帰り、神楽が風呂に入ったあと、応接間兼居間でだらだらとテレビを見ていた銀時はソファを立った。
「ちょっと一杯ひっかけてくるわ」
「ホントに一杯ですむアルカ」
「いや、そりゃどーだろーな」
「きっとまた酒のにおいプンプンさせて、へろへろになって、朝に帰ってくるアル」
神楽はニヤと笑った。
しかし、銀時が出かけることを嫌がってはいないようだ。
そのことに少しほっとする。
「……戸締まり、ちゃんとして、寝ろよ」
宇宙最強部族にはいらぬ心配かもしれないが、自分の中ではやはり少女だという意識のほうが強い。
銀時は万事屋を出た。
すっかり夜は更けている。
だが、外は、あちらこちらの店から放たれる人工的な光で明るく、人が行き交い活気に満ちていた。
知り合いから声をかけられれば軽く応えて、ネオンサインの輝く界隈を通り過ぎる。
しばらくして、住宅の多いあたりまで来た。
さっきまでいたのと同じかぶき町とは思えないほど静かだ。
何気なく見上げると、黒々とした空に小さくてしかし強い光がいくつも散らばっていた。
あたりの空気の冷たさにときおり身を震わせながら歩く。
これから会う相手のことを考える。
その姿が頭に浮かぶ。
会いたい、と思う。
触れたい、と思う。
これから会う。
触れることもできるだろう。
けれど、足は弾まなかった。
昨日会ったときのことも思い出した。
浮かない様子、強張った表情、腕の中の堅い身体。
気にならないはずがない。
不安になる。
自分としてはどうしようもなかったのだが、桂には酷な選択を迫ったという自覚はある。
あの夜、桂の家に行くか行かないか、かなり迷った。
桂から言い出したこととはいえ、そうなることを桂が望んでいないのは明らかだった。
その家に行かないで、新八と神楽に詫びを入れて解雇も取り消すのが、桂にとっては一番だろうとは思った。
だが、やはり。
迷って、迷って、夜遅くなったが、その家に行き、その身体を抱いた。
どうしても、という想いが強かった。
感情が理性をなぎ倒した。
今もそうだ。
会いたい。
会いたい、会いたい。
結局、そればかりになる。
昨日の桂の様子を思い出して歩幅が狭くなっていた足が力強く速く動くようになる。
やがて、桂の家の門のまえで足を止めた。
ひっそりとしているが、灯りはついている。
玄関のほうへと進んだ。
戸を叩き、中に呼びかける。
そして待っていると、人の近づいてくる気配がして、玄関の戸が開けられた。
桂が敷居の向こうに立っている。
その表情は硬い。
だが。
「よォ」
銀時は軽く笑った。
返事をしなかったが、桂は身を退いた。
だから、敷居の向こうへと足を踏み入れる。