ゆらのと
こちらとしては長いあいだ溜めてきたものだ。
しかも外に出さないようにしていたのがここにきて出すことをゆるされ、気分は盛りあがっている。
それに対し、桂にしてみれば最近まで寝耳に水だったことであり、気分は盛りあがっているどころか、おそらく消去法でした選択にしかすぎない。
これまで溜めてきた想いを堰を切ったようにぶつけられれば、驚くだろう。
急激な変化に戸惑うばかりだろう。
ちょっと待て、と言いたくなって当然だ。
クソッ、と胸の中で悪態をつく。
自分に対して。
痛いのが嫌なのだろうと勝手に考えていた。
読み違えていた。
聞こうとしなかったから。
その口を強引にふさいだりして。
あせりすぎていた。
浮かれすぎていた。
大切にすると言ったのに。
「……すまねェ」
自然に謝罪の言葉が口から出ていた。
桂はこちらをじっと見ている。
その真っ直ぐな眼差しを受け止め、ふたたび口を開く。
「だが」
できるだけ穏やかに聞こえるように言う。
「俺ァ、おまえを女扱いしてるつもりはねェよ」
言い訳するための嘘ではなく、本当のことだ。
「頻繁に会いにくるのは会いたいからだ。会いたいって思うのは、自分の女だって思ってるからじゃねェ」
真正直な気持ちを伝える。
「その相手が、桂小太郎だからだ」
桂が眼を少し大きく開いた。
しかし、なにも言わない。
黙ったまま、見ている。
「それで会ったら、さわりてェって思うし、抱きてェって思う。正直、今もそうだ」
あぐらをかいた足の上にのせていた右手を、あげる。
それをゆっくりと桂の顔に近づける。
頬に、触れた。
どう言えば納得してもらえるかを考える。
だが。
「……すまねェが、やっぱり、慣れてくれとしか言えねェよ」
思いつかなかった。
手をおろす。
桂は口を閉ざしている。
見ていて、その唇に自分のそれを重ねたくなった。
しかし、その気持ちを抑える。
「なァ」
呼びかけ、問いかける。
「俺のこと、信用してるか」
「あたりまえだろう」
速攻で答えが返ってきた。
その眼差しは厳しいものになっている。
もし同じことを自分が桂から問われれば、少し腹が立ったかもしれない。
理由は桂が答えたのと同じだ。
あたりまえのことだからだ。
「それなら」
眼を見て、言う。
「俺を信じて、全部、預けてくれねーか」
強い眼差しが揺らぐ。
戸惑っているのを感じた。
だから。
「頼む」
そう続けた。
桂は口を引き結び、深く息を吸った。
無言で、ただ返事を待つ。
ふと、桂が今度は深く息を吐き出した。
けれども、なにも言わない。
なにも言わずに、その眼を閉じた。
まばたき、ではなかった。
深く息を吐いて肩の力が抜けた状態で、まぶたを閉じている。
それが桂の返事だと、気づいた。