ゆらのと
どうしてと思う。
どうしてコイツはこんなにタチが悪いのか。
友情のくせに、なんでここまで。
こっちは、それが友情だとわかっていても、胸が揺さぶられる。
本当にタチが悪い。
身体を軽く退いた。
まわされていた腕はおろされる。
少し距離が空いた。
それでも間近にあるその頬に、また触れる。
「……銀時」
名を呼んだその唇に、くちづける。
ずっと求めていた。
たったひとりを、ずっと求めていた。
その相手が今ここにいて、自分のしていることを受け止めてくれている。
そう思うと、求める気持ちがいっそう強くなった。
感情が昂ぶり、胸の中で大波のように打ち寄せる。
想いが抑えきれずに外へとあふれ出る。
ささやく。
「愛してる」
触れている身体が少し揺れた。
長いまつげに縁取られたまぶたが開かれる。
向けられた瞳には堅さがあった。
その眼をじっと見て、言う。
「今は、なにも考えないでくれ」
自分は男だとかそういったことを考えないでほしい。
今だけでいいから、考えるのはやめてほしい。
「好きなんだ、おまえが。それだけ、知っといてくれ」
ふと、桂が眼を伏せた。
まぶたが閉じられる。
了承の合図のように。
そちらのほうに顔を寄せてゆく。
桂の顔が動いた。
退いたのではない。
少しだが、その顎があがった。
重ねやすくなった唇に、軽く触れる。
すると、また桂の顔がわずかに動いた。
そのせいで唇がぶつかる。
桂のほうから触れてきたように感じた。
たったそれだけ。
たったそれだけだが、充分だ。
ほんの一瞬押しつけられた唇の感触に、心臓が強く打った。
触れ返す。
触れてきたのよりも、ずっとずっと強く。
そうせずにはいられない。
深く、くちづける。
胸の中でなにかが発火したように感じる。
身体が熱い。
無意識のうちに手が動いて、桂の腰紐をほどいていた。
続けて、その襟をつかんで、きもののまえを大きく開けさせる。
桂は少し身体を退き、眼を開いた。
だが、空いた距離をすかさず詰める。
間近で、告げる。
「好きだ」
唇を奪う。
強引だった、けれど、桂は身体を退かなかった。
そのことに安心して、興奮して、行為に没頭する。
自分の鼓動をいつもよりも感じる。
そして、桂の鼓動も感じる。
こうして触れているうちに異なるふたつの鼓動が重なって同じように打つようになったらいいのにと思う。