ゆらのと
閉じた唇の向こうで歯を食いしばっているのがわかる。
それなのに。
「……名前、呼んでくれねェか」
そう頼んだ。
声が聞きたかった。
桂の声が自分の名を呼ぶのを聞きたかった。
この状態でそれを頼むのはひどいことかもしれない。
だが。
桂はその唇を開いた。
「ぎんとき」
息を吐き出すのと同時に、かすれた声で名前を呼んだ。
胸の中に強く大きく湧きあがってくるものがあった。
「愛してる」
湧きあがってきた想いを、そのまま口にする。
この世で一番大切な人。
その黒髪をなでる。
「おまえだけだ」
いとおしい。
心の底からそう思った。
その想いをぶつけるように打ちつける。
桂がこらえきれないといった様子で声をあげた。
苦痛に顔をゆがめている。
その声も、その表情も、いとしい。
胸に想いが満ちあふれる。
「小太郎」
名を呼ぶ。
そして、その口や首筋に唇を落とす。
身体が熱い。
つながっている部分が一番熱い。
自分にとっては、たったひとり。
こんなふうに想う相手は、たったひとりだ。
その相手と、今、ひとつになっている。
湧きあがってくる激情を、ぶつけ続ける。
桂は声をあげ、腰をしならせた。
熱く、しめつけてくる。
めちゃくちゃ、いい。
自分の中で心臓が早鐘のように打つのが聞こえる。
口で息をする、その間隔が短くなる。
絶頂に達する。
精を放つ。
やがて興奮がおさまってきた。
桂を見おろす。
まぶたは閉じたままで、眉根を寄せている。
いとしいと、また強く思う。
身を寄せてゆく。
肌が触れ合う。
その身体を抱きしめた。
道沿いの桜の樹の枝にはほんの少ししか葉が残っていない。
銀時は、ひとりで歩いていた。
仕事の帰りである。
といっても万事屋にまっすぐ帰るのではない。
桂の家に行く。
ただし、寄り道であり、泊まらない。
昨日は泊まったから、今夜は万事屋ですごすつもりだ。
神楽がいるので、さすがに毎晩泊まりにいくわけにはいかない。
ひとりでもぜんぜん平気アル、と神楽は言いそうだが、やはり心配だし、それに桂もいい顔をしないだろう。
桂は神楽と新八を銀時の家族のように思っているらしい。
銀時が家に来るのを嫌がっているわけではない。
関係は、ほぼ順調である。
桂が抵抗を感じることはなるべくしないようにして、この関係に慣れていってもらっている。