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ゆらのと

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筋肉質の太い腕に押さえつけられ、厚い胸が覆い被さってくる。
見おろされる。
黙って、ただ、じっと見ている。
強い眼差し。
その眼差しに射抜かれた気がして、胸になにかが詰まったようになって、言葉が出てこなくなる。
どうして気づかなかったのだろうかと思う。
長い間ずっと、銀時に想いを打ち明けられるまで、気づかなかった。
それまで、はっきりと言われたことがなかったから。
いや。
そんなのは言い訳だ。
なにも言わなくても、その眼差しから伝わってくる。
こんなに伝わってくるのに。
どうして気づかなかったのか。
その手が頬に触れる。
無骨な手のひらだ。
けれど、温かくて優しい。
顔が近づいてくる。
すぐそばまで来たとき、眼を閉じた。
唇に柔らかいものが重ねられるのを感じる。
胸がざわめく。
嫌だからではなくて。
嫌だからではないから、困る。
こんなふうに胸の中でなにかが大きく揺れているから、困る。
自分はどうしてしまったのだろう。
困惑する。

今夜は新月だ。
月明かりがなくて空はいつもより黒く、下界の闇は濃い。
あたりの空気はひどく冷たくて、身体が震えそうになったが、どうにか抑える。
しかし、明日は天候が崩れ、もっと寒くなるらしい。
初雪が降るかもしれないとテレビの天気予報が伝えていたのを、桂は思い出した。
だから今夜が最適なのだ。
桂は建物の陰に身を隠しながら、道をはさんで向かいにある屋敷を観察する。
近くには攘夷党の同志たちがいる。
皆、緊張していて、その視線は屋敷に向けられている。
屋敷は武家屋敷だ。
しかし、住んでいるのは武士ではない。
かつて持ち主だった武士は攘夷戦争中にいろいろあって、屋敷を手放さなければらならなくなったらしい。
それから時はすぎ、今は幕府の要職に就いている天人があの屋敷に住んでいる。
あの屋敷に侵入し、現在の持ち主である天人のしている悪事を暴く。
それが今回の計画だ。
屋敷内にはすでに攘夷党の志士がふたり潜りこんでいる。
事前に決めた時刻に彼らが中から屋敷の門を開ける。
それを待っているところだ。
もう少しで、その時刻になる。
緊張が高まる。
同時に、不安が胸をよぎった。
しっかりと調べて、準備してきた計画である。
だが。
もしも今夜のこの計画がどこかから漏れていたら。
もしも屋敷内に潜入している仲間ふたりが捕まってしまっていたら。
それを考えると、正直、怖くなる。
作品名:ゆらのと 作家名:hujio