ゆらのと
ただし、会いたくなったというのは嘘ではない。
こんなふうに突然やってくることも、いきなり抱きしめることも、めずらしくないので、桂はそれで納得したようだ。
腕の中の身体から緊張が消え去るのを感じた。
「……冷たいな、おまえの身体」
桂はさっきまでの話からは離れたことを言った。
自分が触れている桂の身体は温かいが、そのぶん、桂が触れている自分の身体は冷たい。
きっと髪の先まで冷たい。
「そりゃ、外、歩いてきたからな」
「まったく、もっと早い時刻にくればいいものを」
「いや、そりゃーまァ、なかなか、な」
歯切れの悪い返事になった。
今夜ここにくる予定ではなかったので、予定どおり新八の家で寄せ鍋を食べてから神楽と一緒に万事屋に帰り、神楽が寝てから家を出た。
「まァ、しかたがなかったんだろうが、しかし、おまえの身体は頑丈だが病気にならないわけではないんだ。それをちゃんと自覚して行動しろ」
「なんだ、心配してくれてるわけか」
「あたりまえだろう」
茶化すと、桂はむっとしたような声で言い返してきた。
その背中を軽くなでる。
心配されたいわけではないが、心配してくれるのは、なんだか嬉しい気がした。
自然に頬がゆるむ。
どうせ桂からは見えないだろうし。
桂は黙り、腕の中でおとなしくしている。
ほっとする。
どうやら桂のほうにはあの手紙は届いていないらしい。
しかし、自分にあの手紙が届いたことを桂に知らせたほうがいいだろう。
とは思う。
だが、言う気にはならない。
我らの暁の星、と書かれているので、書いたのはおそらく攘夷志士側の者だろう。
攘夷志士側の者を装っている可能性もあるが、攘夷志士側の者ではなくて敵意があって桂の家を知っているなら、真選組に情報を流したほうが早い。
そうせずに、桂は避けて銀時だけに手紙を送って別れるよう迫ってきた。
桂は天然な言動をしたりするが、頭は良く、武勇にも富んでいる。
大勢の人の心を惹きつけるところがあり、その頂点に立つにふさわしい気質も兼ね備えている。
攘夷戦争中は英雄と讃えられ、今は穏健派に属してはいるが、数々の活動を成功させ、攘夷志士側ではない層からも人気がある。
藩体制はつぶされ、将軍は傀儡と化し、幕府はほぼ天人の支配下にある今、攘夷志士側の者にしてみれば、桂はまさしく暗闇の中で強く光る星のような存在なのだろう。
その輝ける星が、自分のような男と恋人関係にある。
不快に思うのも無理はない気がする。