ゆらのと
白夜叉と呼ばれていた頃なら、こんなことは起きなかったかもしれない。
もしかすると、白夜叉と呼ばれていた頃があるからこそ、今も戦い続けている彼らからしてみれば、自分は戦から逃げた腰抜けで、だから、いっそう腹がたつのかもしれない。
しかし、このことを桂が知れば、どんな反応をするだろう。
手紙の差出人が同志である可能性がきわめて高い。
その事実に、衝撃を受けるのではないか。
だから、知らせたくない。
いや、理由はそれだけではない。
大きな理由はそれではない。
桂が別れを選択するかもしれなくて、自分はそれを避けたがっている。
別れたくない。
関係が変わって、ようやく落ち着いてきて、飽きるどころか、気持ちはいっそう強くなっている。
これ以上ないと思っていたのに、想いは以前よりも増している。
それに、面と向かって言うのではなく、名乗りもせずに一方的に手紙を送りつけてくるのは、卑怯だ。
そんな相手に非難されたくはない。
そんな相手の要求に従うつもりはない。
桂を強く抱きしめる。
ここまでくるのに、二十年以上かかった。
絶対に離したくないと思った。
万事屋はのんびりとした空気に満ちていた。
昼は過ぎたが、まだ日は暮れていない。
外は寒いものの、天気は良い。
だが、仕事はない。
エリザベス捜しは手がかりを失ってから時間が経っている状態であるし、銀時はソファに寝ころんでだらだらしていた。
神楽は向かいのソファに座ってテレビを見ている。
ふと、玄関のほうから物音が聞こえてきた。
戸がガラガラッと開けられる音がした。
「ただいま帰りましたー」
続けて、新八の声が聞こえてきた。
新八は買い物に出かけていたのだった。
しばらくして、新八が銀時と神楽のいる応接間兼居間にやってくる。
「新八、酢昆布は買ってきたアルか」
「特売のトイレットペーパーは買ってきたけど、酢昆布は買ってないよ」
「ひどいアル!」
「酢昆布は銀さんに買ってもらってね、神楽ちゃん」
「銀ちゃんをアテにしてたら、そのうち酢昆布の味、忘れちゃうアル」
「って言ってますよ、銀さん。あっ、寝たフリはダメですよ」
新八が近づいてくる。
「そういえば、銀さん、手紙が来てましたよ」
そう言われて、銀時は眼を開けて上体を起こした。
新八が差しだした手紙を受け取る。
封筒の表に書かれた自分の名、その筆跡に見覚えがあった。
しかし、表情は変えずに何気ない様子でソファから立ちあがり、窓の近くにある自分の机のほうに行く。
新八や神楽から離れたところで、改めて手紙を見た。
封筒の裏には、やはり、差し出し人の名は書かれていない。