こらぼでほすと 解除8
今は、復興途中で国力がないから無視された形だが、いずれプラントが元の状態に立ち戻れば、連邦も穏やかとはいかない。天上から監視するのが、ふたつに増えることになる。ソレスタルビーイングは必要悪として受け入れることになるだろうが、できればプラントは勘弁して欲しいと考えているのだ。以前の国力まで復興されたら、世界連邦に参加することになり、三大大国の思惑だけで動かせなくなるからだ、と、予想はついている。その頂点が、ラクス・クラインとなれば、なおさら厄介だ。
「キラが徹底的に三大大国は叩いた。この間に、連邦の樹立に手を加えればいい。その段取りは考えている。」
イザークは、ラクスの政務担当としての仕事も、こっそりしている。これから、ラクス・クラインがプラントのトップに立つまで、その地位を徐々に高めている段階だ。数年後に、デュランダルには退任を勧告する。その後、ひとりかふたり、評議会委員にトップを勤めさせてから、ラクスに席を譲らせるところまではシナリオを書いた。それを覆させるようなことはさせるつもりはない。
シャトルが成層圏を抜け、無事にエターナルへ収容されると、すぐに速度を上げてプラントへ向かう。ここで、オーヴの警護とも別れる。ハイネは、民間船にニールの医療ポッドが運ばれるまでの短時間に食事しつつ、エターナルのブリッジで事後報告と今後の予定の確認だ。
「周囲に、レーダー網がない場所で、民間船は射出する。そのまま、すぐに月の影に入れば、どこのレーダーにもひっかからない。」
「わかった。ランデブー地点のデータは入れてくれたか? ダコスタ。」
「もちろん、入ってます。暗号通信の周波数も、あちらと合わせてあるので、そのまま使えます。・・・・予定の練り直しをして、そのデータも入力してあるから、時間は、それで確認してください。」
民間船を飛ばすことは極秘なので、レーダーに察知されない場所でエターナルから離れる。そこからは、組織と連絡を取り合って、ランデブーポイントまで移動する。そちらには、刹那がダブルオーでスタンバイ状態で待機しているので、一気にトランザムバーストを仕掛ける予定になっている。もし、一度で完治させられなかったら、何度か試すつもりだから、一発勝負ということもない。その代わり、何度かやるために時間は、切り詰めて予定を立ててある。
「一度か二度で、どうにかなるだろう。ラッセの場合は一度で完治したらしいからな。」
「そう願いたいね。俺の駆け落ち計画も再考しなきゃならないんだからさ。」
「三蔵さんに殺される覚悟はできたのか? ハイネ。」
「プラントに逃げ込むさ。そのためにもママニャンの体調は万全が望ましい。」
「勝手に性転換なんかしたら、ニールに殺されるぞ? 」
「そうなんだよなあ。でも、やったもん勝ちっていうのはあるんじゃないか? 虎さん。」
冗談を交えつつ、打ち合わせをしているから和やかなものだ。バクバクと携帯食料を口に運びつつ、ハイネはダコスタと虎の説明を聞いている。
歌姫様のコンサートは三日間。リハーサルを加えて四日間の興行ということになっている。それが終わって、プラント政府の会議やらレセプションの出席で、合計六日間の滞在予定だ。その間に、ニールの治療をしておかなければならない。
「まあ、楽勝だ。ちゃんと起こして連れて帰ってくる。」
「そうしてくれ。だが、降下の前に、もう一度、冷凍処理はするんだろ? 」
「ああ、冷凍処理自体は二時間もあればできるから、エターナルに搭乗してからでも、十分に間に合う。解凍のほうが時間がかかるんだよ。」
解凍するには、倍以上の時間がかかる。すでに、ニールは解凍処理を始められている。宇宙に上がった時点から、ドクターが、つきっきりでチェックしている。それがあるから、ドクターも随行しているのだ。ドクターは以前にも、エターナルでティエリアたちの治療を担当したから、宇宙滞在も慣れている。
「本当に護衛は必要ないんですか? ハイネ。」
民間船には武器の搭載はない。もし、襲撃されたら、逃げるしかないのが、ダコスタは気になるところだ。エターナルはプラントとの往復だけだし、この艦を攻撃してくるのはいないから、もし、なんなら自分が、と、言う。
「いや、大丈夫だ。キラが言うには、紫猫もどきが、ずーっと、ママニャンを補足してるらしいんだ。だから、何かあったら、組織から救援が出てくるとさ。」
リジェネは、延々とヴェーダからママの動向をチェックしている。フルドライヴは解除しているが、そちらのチェックは継続しているのだそうだ。だから、襲撃前に、その情報は掴める。
「くくくくく・・・すっかり、ニールにたらされたな? 」
「そりゃ、虎さん。ママニャンにかかれば、どんなのだってたらされる。」
「おまえも、そのクチだな? 」
「たらされたって言うより、惚れちまったぐらいにしておいてくれ。」
「どっちでもいいがな。・・・・発進準備ができたら、機体のチェックをしてくれ。」
「オッケー、承りました。」
会話しつつ、携帯食を食べ終わると、ハイネも持ち場に赴く。ヘリでは遅れを取ったが、宇宙なら、こちらのものだ。民間船だが、足の速いのを用意してもらった。万が一の場合は、速度を利用して逃亡するつもりだし、船なら、ある程度の回避行動も可能だ。だから、ハイネも護衛は断った。
医療ルームには、歌姫様が赴いていた。ドクターと、こちらの看護士が医療ポッドのチェックをしているので、遠目に見ている。異常があったら、すかさず漢方薬を飲ませようと思っていたからだ。
「ラクス、見てご覧ナサイ。カワイイ眠り姫よ? 」
アイシャも、医療ルームで手伝っていて、医療ポッドの傍から手で招く。歌姫様が近寄ると、穏やかな寝顔のママが居る。
「データは問題ナシ。大丈夫。」
「そうですか。」
どこにも異常はなかった。今は、ゆっくりと解凍されているところだ。解凍が終わっても、医療ポッドが開かない限り、ニールは目を覚まさない。だから、眠り姫なんてからかっている。
「でかい眠り姫だけどねぇ、アイシャさん。」
ドクターも、アイシャのジョークに受けて笑っている。身長190オーバーの眠り姫は、笑える。キラやレイなら、納得のキャストだが、ニールでは、可愛さはあっても可憐さはない。
「大丈夫。ラクスもヤスミナサイ? これから忙しいワ。」
「いえ、出発までは、お傍にいたいんです、アイシャさん。」
「ダメダメ、ニールは眠っているんだカラ、意味がナイノ。帰ってきたら、キスで目を覚まさせてアゲるといい。」
ラクスは、プラントに着いたら、すぐにリハーサルが待っている。コンサートは長丁場だ。身体を休めておかなければ、三日間連続のコンサートは続かない。表の仕事が優先なのは、ラクスも承知している。
ほら、と、アイシャが背中を押して部屋を出る。外では、ヒルダが待っていた。
「コンサートの報告ハ、ヒルダから受けるワヨ? ミスがあったら、ニールに報告スルワ。」
作品名:こらぼでほすと 解除8 作家名:篠義