こらぼでほすと 解除10
ティエリアとフェルトが、そう尋ねるが、軽く首を傾げる仕草をして、「気分はいいよ。痛いとこもない。」 という返事だ。そして、側に座っている刹那に、「身体は大丈夫か? 」 なんておっしゃるので、刹那のほうが吹き出した。治療をしているのは、おまえだ、と、内心でツッコミ返しはする。
「俺は、何も問題はない。」
「・・・そうか、それならいいんだけど。」
「まだ、メディカルチェックは終わっていないが、今のところ、異常は検知されていない。」
「はいはい。」
そして、少し距離を置いて立っているアレルヤとロックオンにも気付いて、おいおいと声をかけた。
「おまえら全員が居るのは、どういうことだ? 休憩なら、ちゃんと身体を休めておけよ? 」
それには、アレルヤとロックオンも吹き出す。心配で付き添っているというのに、なんてことを言うんだよ、と、ロックオンがツッコミだ。だが、全員が、ニールのいつも通りな言葉に、ほっとした。騒ぎは何一つ、把握していないらしい。ハイネから事前に、緘口令が敷かれていたが、それでも気付いていないのかは気になっていた。
「ティエリア、今、何時だ? 」
「グリニッジ標準時間で、まもなく十二月九日午前零時になるところだ。正確には、十二月八日午後二十三時四十七分。」
「はあ? それなら、おまえさんたち、みんな、睡眠時間だろ? こんなところで遊んでないで、ちゃんと寝て来い。」
いつものように、親猫が叱るので、全員が、やれやれと笑ってしまう。どうあっても、親猫は自分でなく、子猫たちのほうが大切ならしい。
「さすが、ニール。」
「てか、兄さん? それ、あんたが注意するのはおかしいだろ? 」
「ニールの検査結果が出ないと寝られない。」
「ミッションの成果を知るために起きているので、睡眠時間ではありません。」
で、ラストに黒猫が、おかんの額をペチンと叩く。寝られるかっっ、という抗議だ。
「まだだろ? 時間がかかるって聞いてるぞ? 」
「だから、あなたの顔を眺めて、暇つぶしをしていたんだ。何か飲みませんか? ニール。」
「何がいい? お水? お茶? 用意してあるよ? ニール。」
「お腹減ってるなら、携帯食料も持ってくるけど? 」
「それより、身体を起こそうか? 兄さん。少しベッドを起こしたほうが楽じゃないか? 」
もう、みんな、ニャーニャーと楽しそうに騒ぐので、ニールのほうも笑い出した。本当に久しぶりに、みんなの顔を眺めたからだ。
「フェルト、水くれないか? 」
「はーいっっ、待っててね。ごはんは? 」
「それはいいや。まだ、身体が寝てる。」
ウニャと見えない耳をピンッと立てて、嬉しそうにフェルトが食堂に走る。ニールが来るから、飲めるものを、用意していた。忙しかろうが、親猫がやってくるなら、と、フェルトなりに張り切っていた。
「ライル、ちょっと起こしてくれ。ティエリア、背中擦ってくれ。アレルヤ、足も頼むよ。」
頼まれたほうは、はいはいと自分の担当をやり始める。黒猫は、何も命じられていないが、ベッドを少し起こしたら、親猫の身体を支えて背中とベッドに隙間を作る。すると、ティエリアが、さすさすと血流を良くするために、擦り始めた。
「なんなの? そのハーレムは? 」
「いいだろ? 久しぶりなんだからさ。後で、腰揉んでくれよ? ライル。」
「はいはい。・・・なんか、あんたがいると、寺に居るのと錯覚するよ。」
「そりゃ、おまえ、俺は、『吉祥富貴』の日常担当だからな。日常が宇宙まで遠征してるだけだ。」
「いや、治療だろうが? 気分は? 」
「いいよ。ていうか、俺は、本宅で寝てから、あっという間って感じだ。」
あーと、ニール以外は、うんうんと何気なく頷いている。その『あっという間』に、貧乏くじが炸裂していたことをニールは、まったく知らないのだ。それはそれでよかった、と、ニール以外は思っているので、笑って誤魔化す。医療ポッドから出ると、いつもニールは身体が固まって、ギシギシするというので、ティエリアも刹那も、これはいつものことだ。さすさすと背中を擦っていると、体温も上がってくる。
フェルトが戻って来る頃には、身体も解れて、うーんと背伸びなんかやらかせるほどになった。
「はい。」と、フェルトが手渡してくれた密閉容器に入れられた水を一口飲んで、ニールも、へらへらと笑っている。全員の顔が同時に見られるのは、何ヶ月かぶりだ。
「やっぱり人工重力って違うな。」
「そうかな? 」
「五年振りだからな、俺。低重力とか動けるか自信ないな。」
「あたしが誘導するよ? 」
「ああ、頼むよ、フェルト。たぶん、動けなくなってる。」
五年以上地上に居たニールは、すっかりこんと民間人だ。今の新しいトレミーのシステムは馴染みがないから困るだろう。刹那を抱き込んだままで話をしているので、桃色猫は黒猫を強引に引き剥がし、自分が親猫の懐に飛び込む。親猫のほうも、笑って、ぎゅうぎゅうと抱き締めてやる。
「フェルト、春ぐらいに降りて来いよ? みんなが予定してるぞ? 」
「うん、ラクスからも言われてる。今、予定を組んでるとこ。」
いちゃこらと会話しているので、黒猫は、ブスッとしてベッドと親猫の間の隙間に入り込んで背後から抱きつく。俺も可愛がれ、と、いう主張だ。あんまり圧し掛かると、親猫がつぶれるので、ロックオンが隙間をベッドのリクライニングで大きく調整した。
「いつも、こんなだったの? アレルヤ。」
「いや、ここまで甘えっ子じゃなかったんだけどね。でも、こんな感じかな。」
フェルトと刹那が、べたべたしていたのは、以前の通りだ。まあ、ここまで刹那はベタベタはしていなかったが、代わりにニールが刹那を構い倒していたので、プラマイゼロだとは思う。
「俺、こんなのは無理だぞ? 」
「ロックオンに、こういうのは求めないよ。安心して。」
これは、ニールだから子猫たちはベタベタするのだ。ロックオンにやろうと誰も思わない。姿形は瓜二つなディランディーズだが、雰囲気や立ち位置は、まったく違う。
「刹那、そろそろ代われっっ。」
「フェルトと代われ、ティエリア。」
「バカモノッッ、そっちはアレルヤの場所だ。」
「いや、僕は、どっちかと言うと刹那のところがいいな。」
「じゃあ、代わるよ、ティエリア。」
フェルトは素直に退いたのだが、刹那は動かない。アレルヤが、少し俯くと、ハレルヤに代わって刹那を持ち上げて、ロックオンに投げる。
「じじい、添い寝してやろうか? 」
「バーカァ、おまえじゃ窮屈だってーのっっ。ほい、ティエリア、おいで。」
ちょっと躊躇っているティエリアの腕を捕まえて、ぎゅうぎゅうと抱き締める。背後からは、アレハレが二人して意識を表に出して、ぎゃあぎゃあと言い募る。ニールにとっては、いつもの光景だ。
ハイネが戻って来ると、四匹が、ぺったりと親猫に纏わりついていた。まあ、いつものことだから気にしない。声をかけて、荷物をニールに見せる。それで、ニールのほうも気付いた。
「ティエリア、今何時だ? 」
「え? えーっと、そろそろ十二月九日の午前零時です。正確には、十二月八日午後二十三時五十八分です。」
作品名:こらぼでほすと 解除10 作家名:篠義