こらぼでほすと 解除10
「おー、間に合ったな。・・・はい、おめでとう。他のリクエストは地上に降りたら受けるけど、とりあえず、これ。」
両手に収まるサイズの白い包みを渡された。さすがに、ラッピングして崩さずに持ち込めるか不明だったので簡易包装にした。え? という顔をしたティエリアの額を、軽くピンと弾く。
「おまえさんの誕生日だろ? 」
「・・あ・・ニール、知ってたんですか? 」
アレルヤが戻ったら、教える、と、ティエリアは自分の誕生日をニールに教えなかった。九月に降りた時に、そんな話になって、その日を口にしたらしい。ティエリアが製造された日として記録されているのが、その日だった。たぶん、自我を持ったのは、もっと後のことだろうが、誕生という意味で、その日にした。アレルヤも、それがいい、と、同意してくれたからだ。
「教えてくれたのは、おまえさんだろ? 幸か不幸か、ちょうど逢えてよかったよ。リジェネ、居るのか? 」
ニールが声をかけたら、通信パネルが勝手に開いた。そこには、リジェネが大写しになっている。
「ママ、僕のはっっ? 」
「おまえさんのは、地上に降りてからだ。とりあえず、誕生日おめでとう、リジェネ、ティエリア。生まれてきてくれて、ありがとう。おまえさんたちに出会えたことに感謝する。」
そう言ってティエリアを抱き締めて、リジェネにはウインクをひとつだ。そうすると、リジェネが立体映像で、パネルから飛び出してきた。実像ではないから触れられないが、ニールの胸に飛び込んでくる。離れて見ていたロックオンは、びっくりするが、これもイノベイドの得意技だ。どこでも飛んでこられるのだ。
「僕、欲しいものがある。」
「はいはい、おまえさんは一緒に寺へ帰るから、戻ってから用意するよ。」
「ママ、大好きっっ。僕、こんなの初めてだけど、なんか嬉しくてふわふわする。」
ティエリアとリジェネが重なっているような状態だが、ニールは微笑んで頷く。そりゃそうなのだ。ティエリアですら、やったことがないのだから、リジェネだって知らないはずだ。
「ねーねー、ティエリア、何を貰ったの? 見せて見せて。」
リジェネにせっつかれて、ティエリアも包みを開けた。そこには、紫の淡い色のバラがいくつかケースに収められていた。実際に咲いているような瑞々しい紫のバラと、それを囲むように緑の葉がセットされている綺麗なものだった。
「これ。」
「うん、ナマモノは無理だから、保存処理されたバラにした。これなら、ここでも飾れるだろ? 一年くらいは色褪せないらしい。・・・・いつも、ティエリアが花をくれるから、俺からも花を贈りたかったんだ。」
何度か、ティエリアはニールに花を贈った。具合が悪い時の慰めになれば、と、綺麗な花を用意していた。そのことに対するお返しであるらしい。
「喜んでくれていたんですか。」
「ああ、あれは心が和んで嬉しかった。・・・てか、おまえさん、俺が喜んでないと思ってたのか? 」
「いえ、そういうわけでは・・・でも、ニールが覚えてくれていたのが意外でした。」
具合が悪い時だから、記憶されてはいないんだろうと、ティエリアは思っていた。だが、それが嬉しかったから、と、ニールが言うので、とても嬉しくて胸に温かいものが溢れていく。
「覚えてるよ。匂いが良くて、ほっとさせてもらった。これ、匂いはないんだ、ごめんな? 」
「僕も、これ、欲しい。」
「だから、地上に降りたら、同じのを探せばいいだろ? リジェネ。おまえさんと逢えるかどうか微妙だったから持ってこなかったんだ。」
双子というか同じ遺伝子搭載のリジェネも同日だろう、と、ニールも考えていたが、リジェネはヴェーダのほうに居るから逢えるかどうか不明だったから用意しなかった。どうせ、すぐに降りて来るだろうから、その時でいいだろうと思っていたのだ。
「あたしも、それ、欲しい。」
「フェルトは春に降りて来たらデートしようぜ? その時にナマモノの花束を用意する。アレハレも欲しいか? おまえら、ちゃんと考えておけ。好きなもの用意してやるからな。」
「俺、花はいらねぇーな。」
「僕は、同じので色違いが欲しいよ? ニール。」
「はいはい、了解だ。これなら種類がたくさんあったから、色違いもあったよ、アレルヤ。」
「俺は花はいらない。」
「うん、そうだろうな。」
「だが、俺の誕生日に、おかんの独占は要求する。」
「好きなだけ独占してください、刹那さんや。」
「俺は? 兄さん。」
「え? おまえはいらないだろ? ライル。」
「なんでだよっっ? 差別すんなよっっ。俺にも何か買えよっっ。」
「じゃあ、俺にも何か用意してくれるんだろうな? ライル。」
「あんた、みんなから貰うだろ? 俺なんか刹那からだけなんだぞっっ。」
大人気ない三十路の意見に、他の子猫たちは温い目を向ける。どう見ても、ニールとロックオンが同い年だとは認識できない。
「まあ、ライルには用意しないね。」と、ざっくりとアレルヤがツッコミだ。ついで、フェルトも、「うん、しないね。」 と、容赦なく切り捨てる。
「俺だけじゃ不満か? ロックオン。」
そして、最後に刹那に睨まれて、ロックオンは不貞腐れて明後日の方向を向く。オチがついたので、周囲は笑っているが、ティエリアは、なぜだか涙が止まらなくて、親猫の胸に顔を埋めていた。リジェネが、こっそりと、「よかったね? おめでとう、ティエリア。」 と、声をかけて姿を消した。誕生日を言わなかったことを、ティエリアは内心で後悔した。ちゃんと告げていれば、こうやってお祝いを言ってもらえたのだが、アレルヤとの約束があって言えなかった。ダウンして死に掛けていたはずの親猫が、ちゃんと覚えてくれていたことが嬉しくて、なかなか涙が止まらない。親猫は、それをわかっているから、わざとぎゅうぎゅうとティエリアの顔を隠すように自分の胸に抱いてくれている。みな、それに気付いているが気付かないふりはした。
ハイネも、その光景に微笑んでいた。親子猫たちは、本当に仲が良い。まあ、そりゃそうだろう。具合が悪くて外出もままならないニールは、忘れずに用意したのだ。どれだけ、子猫たちに心を砕いているか、わかろうというものだ。だからこそ、リジェネですら、ニールを慕って懐いているし、ニールのためならヴェーダのフルドライブだってやってしまうのだ。
「おまえさんたち、まだ解析結果が出るには二、三時間はかかるんだけど、このまま居座るつもりか? 」
場が静かになったので、ハイネが声をかける。ティエリアも、少し落着いたのか、顔は上げたが、ちょっと目が濡れている。
「居座るっていうか、ニールが動けるなら、ちょっとトレミーの散歩でも誘いたいかな。」
「スメラギさんもラッセも会いたがってたよ? ニール。」
アレルヤとフェルトの言葉に、ああ、と、ニールも頷く。当人は動けるかどうかが、よくわからないので、そこいらの判断は、ハイネの担当だ。
「ちょっと散歩してもいいか? ハイネ。」
「別に構わないぜ、ママニャン。あんま激しくは動かないほうがいいってぐらいだ。」
「それ、どの程度のこと? ハイネ。」
作品名:こらぼでほすと 解除10 作家名:篠義