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とある世界の重力掌握

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「ほんとならこの姿で戦いたくはなかった......嫌な過去ばかり思い出すし......この力を振るえば.....護との約束を果たせなくなるから...... 」

護との約束とは『足止めすること』それが守れないというのが指すものは明白だ。

「それでももう止められない......傷つけられた私の血が.....本能が騒いでる......目の前の敵を『殺せ』と....... 」

哀歌の顔に苦悶が浮かぶ、木山を殺すことを後悔しているのではない、護との約束を守れないことを後悔しているのだ。

「さっき、舞台(ステージ)に立つには早すぎた.....そう言いましたよね? 」

木山をまっすぐ見つめつつ哀歌は告げる。

「そうでもないですよ......私も何度か踊ったことがあるんです......血まみれの舞台(ステージ)で 」

一機に振り下ろされた大剣は大気を切り裂き、同時にすさまじい衝撃波を放つ。そう、道路にたたずむ木山のもとに。

「く! 」慌てて空間移動(テレポート)し後方に下がる木山。先ほどまで自分がいた場所には月面に見られるようなクレ―ターができていた。

もし自分の反応が遅れていたらと戦慄する木山。しかもあれはただ剣を振っただけの余波にすぎない。

一方の哀歌は舌打ちしていた。

「やはり空間移動が厄介ですね......でも何度か見ているうちに対策を思いつきいました......」

再び衝撃波を飛ばす哀歌。当然木山は空間移動で避ける。

「同じ攻撃を繰り返しても無駄.....なに!?」

木山の驚愕も無理はない。いつの間に木山の前に哀歌が廻りこんでいたからだ。

「あなたの扱う空間移動(テレポート)は確かに厄介ですが.......『特徴』さえつかんでしまえば、
対処方が見えてきます。あなたはものを飛ばすことは自由自在のようですが........自らの移動に関しては縦か横にしか移動していませんよね?......そして私の一撃を避けたあなたは200メートルほど後方に下がった......表情から見てあれが全力のようなので......予想出現地点を予想して先回りさせてもらいました 」

とっさにふたたび空間移動を行おうとする木山の腕を哀歌はがっちりとつかんだ。

「逃がしませんよ?.......」

そのまま恐ろしい腕力で木山を投げ飛ばす哀歌。猛烈な勢いで宙を舞いながらも木山は再び空間移動を使う。だがそれは哀歌に先読みされている。

「同じ手は2度は通じないというのは.....常識ですよ? 」

哀歌の右手が大剣を振るい、そのすさまじい斬撃が道路の一部を崩落させる。

「くそ! 」

なにやら風をまとわせ、直接地面にたたきつけられるのを避けた木山だったが危機はまだ続く。

「古来の力よ現出せよ!『破壊炎撃(ファイラズ・デストロイヤー)』!」

声ともに振るわれた大剣から巨大な炎の斬撃が放たれる。

こんなものをまともに喰らえば木山は一撃で灰塵と化してしまう。

だが空間移動を行うには時間が足りない。木山は自らの運命を悟った。

「(もはや.....これまで.....か )」

覚悟を決め、目を閉じる木山。そこに容赦なく炎の斬撃が遅いかかる。



「?.......」

木山は首をかしげた。来るはずの衝撃がいつまでたっても来ない。まるで火炎が消えてしまったかのように先ほどまで感じていた熱波まで消えている。

「いったい、なにが....... 」

目を開けた木山はそこに信じられないものを見た。

炎の斬撃が止まっている。いや正確にはもはや斬撃ではなくただの炎の塊だ。何らかの力が360度すべての角度からかかり炎を押しとどめている。

「この力.....たしかデータにあった.....学園都市レベル5の第4位。『あの子たち』の協力者。『重力掌握(グラビティマスター)』! 」

驚愕の表情を浮かべ木山は前方、茫然と立ちつくす哀歌の肩に手を置く少年、古門 護に視線を向ける。


「哀歌。もう十分だ。後は僕に任せて 」

「私.....どうしても.....逆らえなくて.....護との約束まもれなくて.....バケモノになって......」

「分かってる!分かってるよ。でも哀歌忘れちゃいけない。君は『怪物(モンスター)』じゃない。僕たち『ウォール』の仲間で、僕の友人。そして優しい女の子だ。これ以上君に化け物になんてなってほしくない。」

護は一歩前に出る。

「だから.....決着は僕がつける。哀歌のためにも、佐天さんのためにも、そして...... 」

護は近くにある階段に視線を向ける。そこから上がってくるのは......

「美琴のためにも 」

「あんたに.....呼び捨てされるのも癪だけど。いまはそれどころじゃないわ。協力してもらうわよ『重力掌握』?」

「言われなくてもわかってる。元凶倒してすべてを終わらせよう 」

学園都市の頂点にたつレベル5。そのうちの2人による猛攻が始まった。
<章=第十一話 とある事件と遅れた英雄(ヒーロー)>


「ふ、『超電磁砲』と『重力掌握』か.......学園都市が誇るレベル5の2人と闘うことになるとはね。正直、不安になってきたよ 」

「だったらサッサと降伏したら? アンタが逃げ切れるわけないわ 」

「そうは、いかない。私にはまだやらねばならぬことがある。それが終わりさえすれば幻想御手(レベルアッパー)事件で巻き込んだ人たちは解放する。だれも傷つけるつもりはない 」

淡々と語る木山の言い草に美琴の中の怒りが爆発する。

「誰も傷つけない? こんだけたくさんの人を......佐天さんまで傷つけておいて傷つけてないとよく言えるわね! こんなひどいことを見逃せるわけないでしょうが! 」

「まて美琴! この人....木山にもどうしてもここまでしなきゃいけない理由(わけ)があるんだよ! 」

怪訝そうな表情で護を見る美琴。当たり前だ。今目の前にいる元凶をもっとも倒したいはずの護がその元凶を庇う発言をしたのだから。

「木山さん。あなたがここまでして......幻想御手事件まで起こして巨大な演算装置を必要としたのは、生徒たちを救うためなんでしょう? 」

木山の顔が驚愕に染められる。

「知ってます。あなたが所属していた研究機関で行われた実験。『暴走能力の法則解析用誘爆実験』......あなたが一時期担任として関わった『置き去り(チャイルドエラー)』の子供たちは.....その実験の影響で意識不明となり、いまも眠り続けている。あなたはその回復手段を探るために『樹形図の設計者 (ツリーダイアグラム)』を利用しようとしたが......その要求は23回にわたって拒絶され続けた......なんとしても生徒たちを助けるためにあなたが代替の演算装置とするために作ったのが『幻想御手(レベルアッパー)』......確かに無数の人間を利用して作り上げた脳波ネットワークなら、あなたの生徒は助けられるかもしれません。ですが......そのためにどれだけの人をあなたは傷つけてるか分かっています? 」
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン