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とある世界の重力掌握

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「なぜだ.....なぜ私の過去をそこまで知っている?だいたいあの実験のことを学生である君がなぜ知っている?  」

木山の顔に驚愕と困惑の色が浮かぶ。木山が隠している事情。それすべてをさらけ出していく目の前のレベル5に木山は恐怖していた。

「そうよ!だいたいアンタがなんでそんなこと知ってるのよ!? 」

驚愕している美琴の方にジェスチャーで後で教えるの合図を送る護。

「さあ? なぜでしょうね? 今あなたに話す義理はありません。 それより答えてくださいよ。どれだけの人をあなたが傷つけたかわかってるか 」

「さっき言っただろう。私は幻想御手にとりこんだ者たちを傷つけはしない。私の為さねばならぬことさえ終われば、全員解放すると..... 」

「それじゃあ、周りの人間は? 」

護は強引に木山の話に割りこむ。

「周りの人間? 」

「そうだ、周りの人間だ 」

護は木山をまっすぐ睨みつける。

「あなたは確かに幻想御手にとりこんだ人間は傷つけないで返せるかもしれない。でも周りにいる人間を傷つけているのを忘れてないか? こうしてる間にもあんたは幻想御手という凶器で倒れた奴らの心をえぐり続けてるんだぜ? 傷つけてないなんて言葉。堂々と言えるわけないだろ! それに今のあんたの姿をみて生徒たちが喜ぶとでも思ってんのかよ? 」

「なに?.....」

「木山春生(せんせい)が傷つけられた自分たちのために、身も心もボロボロにしてその手を汚して、人を外と内の両面から傷つけているなんて......生徒たちが認められると思うのかよ! 」

「く! 」 

「こんな方法で助けられたって生徒たちが苦しむだけだ! 生徒たちが望んでいるのはただ一つのはずだろ?木山せんせいと会うことだろ? あんたがこのまま突き進んで、結果として生徒たちを救えたとして、その生徒たちの前にアンタがいなきゃ意味がないんだよ! そして今のまま進んだらあんたは、生徒たちの前に立てない! 」

ここで木山を逃してしまえば、木山はみずからの目標を達成させようと動くだろう。だがそれは何としても止めなくてはならない。護は分かる。学園都市暗部に身を置いている今だから予想できる結末。

「(ツリーダイアグラムに23回拒否されている時点で、木山は学園都市上層部、統括理事会の一部に確実に目をつけられている。もしここで木山が目標を達成してしまえば間違いなく木山は邪魔者として消される。それを避けるためにもここで何としても止めなきゃならない! )」

「もう......おそいんだよ.....第4位。私の手は君の言うとおりすでに汚れきっている、すでに私にはあの子たちの前に立つ資格はない。ずっと昔のあのときですら、本来ならあの子たちの前に胸を張って立てるような人間ではなかった私にいまさらあの子たちの前に立つ資格など...... 」

「じゃあ、放棄するのか? あんたの役割を。あんたはすでに教師じゃない。俺と美琴にとっては元凶。警備員(アンチスキル)と風紀委員(ジャッジメント)にとっては犯罪者だ。それでも『あの子』たちにとってはあんたは昔も今も『せんせい』なんだよ! 肩書きとか資格とかそんなの関係ないんだよ! あの子たちにとってのあんたが『せんせい』ならあんたはその子たちの『せんせい』であり続けなきゃいけないんだよ! 自分が罪を犯すかわりに生徒を救う。たしかに理由は立派だ。だけどそれは結局、自分が負うべき責任を入れ替えてるだけだ。『せんせい』でありつづける責任を、犯罪を犯した責任に置き換えてるでけじゃないか! 」


「もう、いい。君の意見はもういい。いまさら後悔してももう遅い。たとえ私の選んだ方法が間違っていたとしてもいちど動き出した流れは止められない 」

木山は護の言葉を意見をすべて切り捨てた。その姿はこう告げていた。(もはや、私は止まらない)

「もう、話し合いは終わりだ第4位。ここからは殺しあいといこうか 」

瞬間、木山の右手からすさまじい水流が護に襲いかかる。

「く! 」とっさにGを横向きに変えて増幅させ護は水流を止める。

「第4位を、なめるな! 」

一機に重力を増大させ水流をはじき返す護。

水流を避けるためにいっきに後ろに空間移動(テレポート)する木山を美琴が追撃する。

「あんたに、そんな事情があるなんて知らなかった.....それでも、それが人を傷つける理由になんてならない! 」

雷撃の槍を放つ美琴だったが、木山が作った透明なバリアのようなもののせいで防がれてしまう。

「それは複数の能力を使用して構成された避雷針みたいなものだ! 木山に電撃は通用しないぞ! 」

驚愕する美琴にフォローを送る護。

「まったく.....あきれるほど私について知っているんだな? これはきみからつぶした方が早そうかな? 」

不穏な言葉に身構える護に向けて木山は巨大な火炎を放射する。

「なんど同じ手を使うんだ? 正面からぶつけたってはじき返されることは分かってるのに? 」

再び重力をくわえてはじき返そうとする護。


「ふん.....では、これははじき返せるかね? 」

瞬間護の周囲に大量に現れる空き缶、

「な?! 」


「君の能力『重力掌握』は文字通り重力を操る能力、たしかにその力は絶大だ。だがそれゆえに多方面への力の放出が君には難しいはずだ。なにしろ能力が発現したのがついこの間という話だ。そんな状態で多方面への力の放出のコントロールなど出来るのかね? 」


いま目の前に迫る火炎放射をはじき返すにはそちらに重力を受けるイメージが必要だ。

だが、強めの重力をぶつけるイメージを行うためにはそちらに集中する必要がある。

そんな状況で別の方向から攻撃が加えられた場合、護には手の施しようがない。

やろうと思えばできないことはないかもしれない。

要は全方向にGを放つイメージをしてみればいい話なのだ。だが、ここで無差別に全方向に火炎放射をはじき返すだけの力を持つGを放出してしまえば。

近くにいる美琴まで巻き込んでしまう。

「くそ! 」

歯噛みする護。木山はそんな護に向けてほほ笑みかけた。

「さらばだ、第4位 」奇しくも竜崎が陥った状況とおなじ状況の中、護は爆炎に飲み込まれた。

「古門! 」爆炎に飲み込まれる護を見て絶句する美琴。

その爆炎から飛び出るように衝撃で吹き飛んだ護の体が美琴のそばに飛んで、転がった。

「おや、体は吹き飛ばなかったのか。五体満足でいられるとはやはり第4位というところか......だが、もはや起き上がることはできないだろう。はやく病院に運ばないと手遅れになるぞ? 」

「あんたは......あんたは......いったいどれだけの人を苦しめたら気がすむのよ! 」

美琴の叫びに木山は唇をゆがめた。嘲笑(わらった)のだ。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン