とある世界の重力掌握
「そこの所を理解してもらうにはまず『魔術』というものについて理解してもらわなきゃいけないんだけどね......」護は哀歌に目で合図を送り、哀歌は頷いて右手を上げる。
「これから、私が『魔術』を見せる......みんなよく見ておいて」
その後、30分ほどに渡って哀歌の実演と護の説明が続いた。
宗兵は最後まで『魔術』について疑問視する立場を崩さなかったが、他のメンバーは協力の意思を表明したため、『ウォール』の総意として『迷子のインデックス捜索大作戦』(クリス命名)はスタートすることになった。
9時間後、護は喫茶店のベンチで突っ伏していた。
すでに時計の針は5時をさしている。『ウォール』総出で第7学区を総出で探しているのだか一向にインデックスは見つからない。
「インデックスは徒歩なうえに科学に疎いから、せいぜい第7学区内でうろちょろしてるだろうと甘く見たのが不味かったかな....まあ、それ以前にあの仲間(ばか)達にも原因がある気もするけど......」
実は護は『ウォール』メンバーに何度か状況把握の為に連絡をとっているのだが、その時のメンバーの返事はこんな感じだったのだ。
御坂美希の場合
「ええと.....とりあえずデパート関係はみてまわったわ。え?ファンシーグッズを見たかっただけじゃないかって?ははは、そんなわけないじゃ無い......ってあれはトラ次郎ストラップ!そういや今日限定販売があるとか広告にあったけ!これを逃す手は無いわよ! ドドドドド....(足音) 」
高杉宗兵の場合
「悪い!いまロクに話せる状況じゃねえんだ!は?敵かって?んなわけねえだろ!敵だったら応戦してるよ!クリスの馬鹿が俺の安眠を妨げた挙句に追いかけてきてんだよ!は?それはお前が悪い?うるせえな!眠って脳を休ませることも必要なんだよ。それをあいつは分かってね.....おい、うそだろ、いつからそこに? てやめろ!頼むから鉄骨浮かばせて脅すの止めろよ!普通なら死.....ぎゃああああ!! ブッ!ツー、ツー」
クリス・エバーフレイヤの場合
「あ!護くん?ごめん、今捜索を一時中止してるの。宗兵の馬鹿が昼間から堂々とサボってたもんで追撃中なのよ。え?そいつはいいから早く捜索に加われ?そうもいかないのよ!あいつここらでがツンとお仕置しないと習いぐせになってこれからも同じ事するに決まってるもん.....ん?あれは....また寝てやがる!逃走中に居眠りとかどんだけ余裕こいてんのよあの馬鹿は!ブッ!、ツー、ツー、ツー」
といった具合に護と共に捜索を行っている哀歌を除く3人は3人とも捜索というよりは自由行動状態であてになっていなかった。
「は?、仕方ない......こうなったら最終手段だ。できればこれは避けたかったんだけど.......」
「どうするつもりなの?」
「アパート周辺でインデックスを追っていた2人の内の日本刀の使い手を探す。インデックスを最初に襲うのはそっちのはずだ。そして俺の記憶が正しいなら夕方、インデックスは赤の他人の上条を戦いに巻き込まない為にわざと危険を冒して、フードをとりに戻ってきて、切られる 。それを止める方針に切り替えよう。できれば戦いは避けたかったけど仕方ない。全員に至急連絡を回そう 」
真っ赤な夕日が沈んで行くのを女は見ていた。昔、自分が友人である少女の記憶を初めて消した日もこんな日だった。自分は彼女を助ける為に最善の方法を実行し続けている。それは正しいはずだ間違っては無いはずだ。
それでも、心のどこかが、自分の考えを否定する。まだなにか方法はないのか、自分は可能性を否定していないのか?
首を振って、沸き起こる感情を打ち消す元天草式十字凄教女教皇(プリエステス)にしてイギリス清教所属の聖人である神裂火織は前方に建つアパートを眺めていた。魔術的なサーチを使って禁書目録を追っていた神裂だったが、ここまできて、禁書目録が備えている『歩く教会』の反応がこのアパートに出たのだ。
「部屋まで特定しましたが、他人がいた場合にどうするかが問題ですね......反応が弱いのが気がかりですが早めに済ますとしましょう 」
神裂は、自らが脇に構える日本刀を構え直す。『七天七刀』その巨大な刀を手に禁書目録の確保に向かおうとする神裂。だがその前に思いもしない障害が立ち塞がった。
「やっと見つけたぜ追跡者の魔術結社さんよ」神裂の前に立つのは高杉宗兵。
彼は護の連絡を受けたあと、瞬間移動(テレポーター)の利点を使って真っ先に現場に到着したのだ。
「なにが目的かは知らないが、ここで止めさしてもらうぜ日本刀ガール!」
宗兵の叫びに神裂は眉をすこし動かした。
「下がってください少年。私は余計な人死にを出したくはありません 」
「その自信は、行動で見せてみろ!」瞬間、宗兵の体は一瞬で神裂の前まで移動し、その蹴りが神裂に放たれる。
「舐めないでほしいものです....... 」放たれる蹴りを人間離れした反応で躱した神裂は鞘に収まったままの七天七刀を宗兵の腹にめり込む。
「がはぁ!? 」凄まじい速度でまっすぐ吹き飛び、瞬間移動する暇もなくそのままビルの壁に突っ込み気を失う宗兵。
そんな宗兵を見ながら、神裂は今の状態に考えをめぐらしていた。
「(能力者が、なぜ妨害をする? 学園都市側には探知されていないはずなのに.....) 」
疑問は尽きないが、いまはまだやるべきことがある。
確保を急ぐ為に、一気に宙を飛び目標の部屋の前に着地する神裂。その前に禁書目録がいた。
「!!」慌てて逃げようとする禁書目録に向けて神裂は鞘から抜いた刀を振り下ろそうとする。だが......
「止めろ! 」空気を切り裂くような声が一瞬神裂の手を止めた。声の方を向けば2人組の少年と少女。
だがその存在は、神裂にとって障害とはならない、いっぺんの迷いもなく振り下ろされた刀はインデックスを切り裂いた。驚愕し硬直する神裂の前で守ろうと誓った少女が血にまみれて倒れて行く。
自分が、守ると誓った少女。それを傷つけてしまうというありえない状況に立ち尽くす神裂に声がかけられる。
「やっちまったな神裂火織。サーチで探って気がつかなかったのか?今のインデックスの『歩く教会』は破壊されていることに 」
「そんな! 」
「知らなかったとは言え、傷つけてしまったことは変えられない。事情を洗いざらい聞かせてもおうか」
「あなたたちに話すことなど、ありません」
「そうかよ、だったら.....俺たち総出で聞きだしてやる! 」
瞬間、護と共にいる、哀歌、クリス、御坂の3人が神裂に向かっていく。
「さあ、始めようぜ聖人!あんたの実力がどんなもんか見せてみろ! 」
科学を象徴する暗部組織と、魔術を象徴する聖人。
巨大な力と力が1人の少女を巡って激突した。
<章=第十三話 とある組織の迷子捜索>
真っ先に飛びかかったのは、哀歌だった。
その人間離れした拳が神裂に向けて放たれる。
その拳をまともに受けた神裂の体が宙を舞う。「なに? この力は、いったい....... 」
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン