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とある世界の重力掌握

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『そうよベネット。お父さまは元気にしてる? 』

『ええ、皆様が来るのを楽しみに待っておられます 』

一連の会話は、アイルランド語でかわされた為に護たちにはサッパリである。

「ああ、みんなごめん。紹介するわ。私の家に仕えてくれている執事長のベネット・ライヒンガルドよ 」

「始めまして皆様。わたくし、エバーフレイヤ家にて執事長を務めさせていただいています。ベネット・ライヒンガルドと申します。お見知りおきを 」

ベネットの流暢な日本語に、しばし唖然とした7人だったが、慌てて自己紹介をした。

「僕が古門 護です。こちらが竜崎哀歌。そっちが高杉宗兵で、こちらが上条当麻。そしてこの子が...... 」

そこまで言いかけて護はある重大な事実に気づいた。修道服を着込む少女、『禁書目録(インデックス)』には『名前がない』!

「(まずい、どうする! 素直にインデックスなんて言えないし! かといってすぐに偽名なんて思いつけないし! どうすれば良いんだあぁぁぁ!! )」

「この子は、テレジア・リースって言うんです 」

護が混乱してる間に、哀歌が助けに入った。

「じゃあ、みんな移動しましょう。私の家はここからすこし距離があるから、すこし車で寝るといいわ 」

という訳で、2台に分乗して(ベネットが運転するものとは別にもう1台来ていた )クリスの家に向かうことにした一行はそれぞれに車内での時間を満喫するはずだった。『その時』が来るまでは。

空港から出た2台には以下の振り分けで護たちが乗り込んでいた。

1台目、クリス、美姫、高杉

2台目、護、哀歌、上条、インデックス

という感じである。

そしてアイルランド到着そうそうに2台目に乗っていたメンバーは事件に巻きこまれることとなる。

それは、護たちの乗る2台目が山間にさしかかった時だった。

「おっかしいな...... 」2台目の運転手であるジェームズは焦っていた。

後ろでは今回のお客さんがたがスヤスヤと眠っているが、こっちはそれを気にしてはいられない。

明らかにガソリンの減る量が早いのだ。最初はそれ程でもなかったのだが、山間に入った辺りから急激に減り始めた。こんな山の中で、エンストはいくらなんでも避けたい。この減り方は明らかにガソリンが漏れ出していることを示している。なら確認するしかない。

ジェームズは即座に判断し、車両無線を使って1台目に連絡を送る。

『こちらジェームズ。車両に異常を感じるため、確認の為に一旦停止し、後で行きます 』

無線を送り終わったジェームズは運転席か、おり、給油口を調べ....凍り付いた。

予想どおりガソリンは漏れ出していた。だがその原因は、彼が予想していた蓋の閉め忘れなどではなかった。

「これは.....銃弾の跡.....まさか....!? 」慌てて警戒の目線を周りに向けるジェームズだが、気づくのが遅かった。

次の瞬間、ジェームズの脳天を7.62ミリのライフル弾が貫き、彼を絶命させたからだ。

「ん.......! 護! 起きて! 」いち早く、ジェームズが倒れたことによる衝撃に気づいた哀歌が警告の声を発したのと同時だった。

バラバラと突然、付近の木の上や草の影から覆面の男たちが近づいて来た。その手に握られるのは突撃銃(アサルトライフル)。

「いったい......護!早く起きて! 」

哀歌に揺さぶられ、ようやく目を覚ました護は、即座には状況を理解できなかった。だが窓に広がる血痕、倒れる運転手、窓に広がる銃痕になんとか事態を認識した。

「い....いったいこれは? ていうか、奴らはいったい?! 」

「そんなこと言ってる場合じゃない! 早く逃げないと...... 」

そう言いかけた哀歌の右肩を銃弾が貫いた。

「哀歌! くそぉ! 起きるんだ上条!インデックス! 」

そう叫ぶ護の首筋に銃口が突きつけられた。

「抵抗するな。動けば、引き金を引く 」

静かで感情を感じさせない声だった。わかる事は声が男性のものだということだけ。

「なんだよ、お前ら...... 」

ようやく目を覚まし、信じられない目でみる上条に向けて、覆面の男は簡潔で同時にこれ以上ないほど実態を指し示す言葉をはいた。

「IRAだ.....本来、わが国の土地たる北アイルランドを手にする為に戦い続ける、正統な共和国軍......君たちからいう『イギリスにおけるテロリスト』だ 」
<章=第十八話 とある山間の突発銃撃>


「(IRA.......アイルランド共和国軍.....『こちら側』にも存在してたのか..... )」

実は、護は軍事や歴史に興味があり、元からそれに関する知識は豊富だったりするのだ。

護は覆面の武装集団、IRAの構成員たちに銃口を突きつけられつつ考えていた。

「(だが、なぜIRAがこちらに関わってくる? 外部組織の掃討の役割をもつウォールでもIRAを相手にしたことはないし、僕達をさらってもなんの意味もない。狙う理由ができるとしたら、むしろ1台目の方だから、クリスを狙ってたのか? ) 」

「車から降りてもらおう。早く出るんだ 」

男に促され、仕方なく車を降りる護。能力を使ってこの場をしのぐことも不可能ではないがリスクが高すぎる。

上条とインデックスに関しては役に立たない。上条の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』は銃弾にはなんの意味も持たない。インデックスにはそもそも戦闘能力はない。

哀歌には人間離れした身体能力と魔術という武器があるが、先程の銃撃によって意識を失っている。

つまり現状は八方塞がりなのだ。

「これからお前たちをボスのところに連れて行く。くれぐれも抵抗するな。できれば無傷で連れてこいと言われてるんだらな 」

現状、対抗策はない。ここはおとなしく従うしかない。そう判断し頷く護に男は満足げに首を縦に振った。

護、哀歌、上条、インデックスの4人は全員目隠しされ両手を手錠で拘束された上で大型車 (見えないので正確には分からないが、上条、インデックスの声を確認したりしての予想 )に乗せられ運ばれた。

「(IRAが.....僕らを狙う理由はなんだ? 僕らを襲うメリットは? 僕らを人質にして学園都市に金を要求するとか? でもそれならわざわざボスの所に連れて行く必要がない........ いったいなんなんなんだ? ) 」

ひたすら答えの出ない問いを護は繰り返していた。


「さあ、着いたぞ 」男たちにどつかれながら降ろされ、目隠しをとられた護たちの前には、古びた砦の門らしきものがそびえ立っていた。

「ここが、ボスって奴のいるところなのかよ? あからさまに目立つ場所じゃねえか 」

上条が不審に思うのも当然で、城より規模は小さいものの城郭や櫓を備えた立派な砦であり、隠れ潜むテロリストたちの拠点としては明らかに不自然な場所になる。

「ここは古い魔術的な城塞なんだよ。でも、今は機能してないみたい 」

禁書目録(インデックス)の名をもつ彼女が言うのだから間違いはないだろうが、ではなぜこの場所に武装組織が拠点を構えているのだろうか?
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン