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とある世界の重力掌握

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「ここに、入れ 」護たちが通されたのは応接間のような場所だった。古びた外観とは裏腹に内部は意外に小綺麗にされており、折りたたみ椅子が5つと簡素な木製の机がおかれている。

そして、応接室にある窓の側に1人の女性が佇んでいた。

「ボス! 彼らを連れて来ました 」

ボス、そう呼ばれた女性はこちらに顔を向ける。

金髪でヨーロッパ系の顔立ちをした美女。

彼女は静かな口調で、日本語で語りかけた。

「始めまして。私がIRA.....アイルランド聖騎士団、団長のラミア・エバーフレイヤ。クリスが、娘が世話になってるそうね 」

護はたった今聞いた言葉を疑った。クリスを娘と言ったということは、彼女......ラミアはクリスの母親ということになる。だが、まさかクリスの母親がテロリストだなんて.......

「あなたたちをさらったのには、勿論、理由があります。私の娘........クリスを助けたい......その為にあなたたちの力を借りたいのです 」

ラミアの思わぬ言葉に護の思考が一瞬停止する。

「いったいどういうことだよ! あんたはエバーフレイヤ家の運転者を撃ち殺させてるじゃねえか! なのに力を借りたいってどんなつもりなんだよ! 」

「あの運転者は、クリスの父親が雇っている傭兵.......海外の元軍人です。あの子の父親はIRAから離脱した別組織.......通称リアルIRA.......私たちからいうところの『タラニス』という組織のリーダーなんです......あなたたちには理解しにくいかも知れませんが....... 『魔術結社(マジックキャバル) 』という組織の一種なんですよ 」

魔術結社という言葉にインデックスがいち早く反応する。

「まさか、その人が私たちをここに呼んだのは....... 」

哀歌の言葉に、ラミアは頷くことで肯定する。

「あの人は、『禁書目録(インデックス) 』。その子の中にある10万3千冊の魔導書のうちの1つ。アイルランド神話における伝説の書物である『侵略の書』を手に入れようとしている。私はそれを止める為に『アイルランド聖教』から依頼を受けて動いてるの。お願い、協力して 」

思わぬ流れに、護たちは顔を見合わせる。彼女を信じ、協力するか、それとも........

「お願い。あの人がインデックスから原典を取り出すために動き出したら、クリスが.....あの子が死ぬことになる! 」

瞬間、全員の目がラミアに注がれる。

護には、もうなにがなんだか分からなっていた。

クリスが死ぬって!?
<章=第十九話 とある女性の協力要請>

「クリスが死ぬって......どういうことですか?....... 」

哀歌の問いかけに対するラミアの答えは簡潔だった。

「能力者には魔術は使えない。それは知ってるかしら? 」

「それは......知ってます.......けど。それがどうしてクリスが死ぬことにつながるんです? 」

「あの子は学園都市の学生として『科学サイド』で暮らしているけども......それは彼女が望み、私が『逃がした』から。本来彼女は『女神の素質』という特性をもつ『魔術サイド』の人間なの 」

ラミアの言葉は護にとって衝撃的だった。ラミアの言葉が意味するのは........

「そうよ......あの人は、クリスの父親はクリスの3人の妹たちがもつ『運命の3女神』の特性。そしてクリスが生まれながらに持つ『主導神ダヌ』の特性を使って『禁書目録』の中に眠る『侵略の書』を手に入れようとしているの 」

その言葉は護を驚愕させたが同時に疑問も与えた。それは『禁書目録』からそう簡単に知識を奪えるだろうか?という疑問である。

確かに『禁書目録(インデックス)』の知識を守る『自動書記 ヨハネのペン』は上条の『幻想殺し(イマジンブレイカ―)』により破壊されている。

だが、これはこの世界における『未来』について知っている護だから分かることだが、禁書目録の知識を閲覧できたのは、日本神道系の魔術師である闇咲とインデックスの『遠隔制御霊装』を手にしたフィアンマだけである。

闇咲の場合は特殊だとして、インデックスの知識を閲覧するためにはイギリスにおける『清教派』と『王室派』がそれぞれ管理している『遠隔制御霊装』を使う必要があるはず.......そこまで考えて護は、はたと気づいた。

「まさか......クリスの父親はクリスの力を使ってイギリスを? 」

「ええ、『主導神ダヌ』の素質を持つクリスを『覚醒』させて、その強大な力で一気にイギリスの『王室派』の象徴『バッキンガム宮殿』を襲い、内部にある『禁書目録(インデックス)』の『遠隔制御霊装』を奪い取る。そしてクリスは『能力者』。あの子に『女神の素質』があるといっても、神話級の魔術を行えば、多少回復魔術で生きながらえさせられたとしても、確実に死んでしまう。万が一死の危機を免れても、一生廃人となってしまうの 」

「しかし、いきなりせめても、そう簡単に奪えないと思うけどな? 」上条の疑問にラミアは当然のように即答した。

「まず、リアルIRAとしての表の戦力がテロ活動を行うと同時にバッキンガム宮殿に攻撃を仕掛け、王室派の人間が避難するように仕向けるのよ。そしてわずかな使用人や魔術師しかいないバッキンガム宮殿に『人払い』をすませたうえで、裏の戦力が一斉攻撃をかけ、一気に『遠隔制御霊装』を奪う......それがあの人の考える計画よ 」

ラミアの言葉に護たち4人は沈黙した。

護は、選ばなければならなかった。ラミアの言葉を信じ協力するか。それとも彼女の言葉を嘘と決めつけ中立の立場をとるか。

少なくともラミアの言葉からラミアが『魔術サイド』の人間であることは間違いない。

だが、ラミアの話すことにはまったく確証がない。

「(せめて、彼女の言葉を証明する『何か』があれば.......) 」

そう思った矢先、思わぬ形でその願いはかなえられた。

突如、応接間が真っ二つに切り裂かれた。

比喩でもなんでもなく純粋に床がぱっくりと口を開け護たちをのみこもうとする。

「ウソだろぉぉぉぉ!! 」まっさかさまに下の階に向けて落ちていく護はパニックになりながらもなんとか重力を制御してゆっくりと着地する。

上では、哀歌が上条を、ラミアがインデックスをそれぞれ抱えて着地する。護のように『能力』を使うまでもなく平然と着地できるところはさすが『魔術サイド』の人間だけあると感心するところだが、いまはそれどころではない。

たった今、護たちがいた応接間。そこの床の裂け目を通って、護たちの前に一人の男が着地する。

肩にかかる程度の銀の長髪で顔には大きな十字の傷跡。なにより特徴的なのがその右手に握られるひと振りの剣。

「さあて.......『聖騎士団』に邪魔されちゃ厄介だから早めに潰しにやって来てやった。おとなしく死んでくれ? それとそこのお前たち......『禁書目録(インデックス)』の護衛者だったか? お前たちもついでに潰してやるよ 」

男の剣を見たインデックスの顔色が変わる。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン