とある世界の重力掌握
彼の右手が触れたとたん『グラン』の力を支える『銀の腕』はバラバラに砕け散る。
「きさま......これで......勝ったと思うな.......俺は始まりにすぎん....『タラニス』という『組織』を相手に貴様になにができ..... 」
「関係ねえよ 」上条は力強くグランの言葉を否定する。
「んなこと関係ねえよ。相手がどんなものでも俺は逃げない。自分が『助けたい』と決めた奴の為なら、俺は地獄の底でも突き進む。それが俺の.....『上条当麻』の信念だから! 」
上条の言葉に目をみはるグラン。グランは悟る、こいつは予想もしなかった強敵だったと。
「あなたの敗因は、武器の力に頼った上に、その武器が完全でなかったことよ。しかも一点の攻防に特化しているあなたは面の攻撃には不利だった。つまり、私相手には相性が悪かったってことね 」
「だまれ.....この化物......が.....どこまで行っても......貴様らの『一族』の定めは変わらん.......ぞ 」
「それが最後の言葉? 意外に小物だったのね。一族の定め? そんなもの私が知ったことじゃないわ。とっくに『一族』から追放されてる私にとっては 」
護は、目の前で繰り広げられるやりとりにただ唖然としていた。
分かってはいたことだが、この作品世界のキャラたちは『凄い』。
そんなことを改めて自覚させられた護だったが、同時に戸惑いも感じていた。本来なら『ラミア』も『グラン』も.....そしてクリスを始めとする「ウォール』のメンバーも、作品には登場しないはずの人物である。それが出た理由は1つしか考えられない。すなわち護が異世界からこの世界に『介入』したから......である。
すなわち、もしも『仲間』や敵が死んでしまうとすれば、それは自分のせい........
そんな護の心中などつゆ知らず、ラミアは護に向き直る。
「早めに加勢できなくてごめんなさい。この『ゲイ・ボルグ』はいつも手元に置いとくわけじゃないから 」
「それは仕方ないです。でも、そいつは『グラン』はどうするんです? 」
「うちの部下たちで、こいつの実家に届けるわ。こいつの親はIRAとリアルIRAの区別はつかないだろうし、IRAの一員として国に貢献したと伝えさせる。こいつは『敵』だったが、その親は違うからな 」
既にものいわぬ死体となっているグランを聖騎士団のメンバーが運んでいる間に、護たちはラミアからクリスの父親がリーダーを務めているという組織『タラニス』について概要を聞かされた。
『タラニス』とは、かつてアイルランドがイギリスと争っていた時代に、アイルランド聖教会直属の魔術勢力である『聖騎士団』とは別に民衆の手で作られた魔術結社のことをさすのだという。
「IRAが長きにわたるイギリスとの戦いをえて、最終的に独立を勝ちとれたのも魔術勢力である『聖騎士団』や『タラニス』の暗躍があったからなの 」
「じゃあ......なぜ、『タラニス』は今も戦う.......の? 」
哀歌の質問は当たり前のことで、戦いが終わった以上『タラニス』の役目も終わるはずである。
「アイルランドは確かに独立を果たしたのだけど、そのさい、北アイルランド6州はイギリスのものとなったの。その時にこれ以上の闘争を避けたい『聖騎士団』とアイルランド全土を取り戻すまで戦う意思をもつ『タラニス』が対立したの。結果としてタラニスはわれらとは袂を分かち、表向きはリアル IRAとして、未だイギリスに対して戦いを続けているの 」
「なるほどな.....まあ、それはそれとして.....どうやってクリスを助け出すんだ? 」
上条は、いますぐにでも動きだしたい表情をしていたがラミアを首を横に振った。
「今すぐには、動けないわ。まず『聖騎士団』のメンバーを集めなきゃいけないし......... 」
「僕らは先に行きます! 」護はラミアの声に被せるように叫んだ。
「早くしないと手遅れになるかもしれない。それはそうですよね? 」
「確かにそうだけど......あなたたちだけで行かせるわけには....... 」
「心配になる気持ちも分かります!だけど、今はクリスが......僕の『仲間』が危ないんだ! 早く助けたいのは当然です! 」
ラミアはしばし考える素振りをしたのち、ポケットから何やら丸めた紙を取り出さし、それを護に向けて投げた。
「それは地図よ。アイルランド語で書いてあるから哀歌って子ぐらいしか読めないだろうけど、クリスの家の場所が書いてある。いいかい? 絶対に死なずにまってて。できるだけ早く私達も駆けつけるから」
ラミアの誠意に感謝し、護は深く頭をさげた。
「じゃあ、いこうかみんな。前回はクリス命名による『迷子のインデックス捜索大作戦』だったけど、今回は『囚われのクリス救出大作戦』だ! 僕らの『仲間』を救い出しにいくぞ!」
おう!という掛け声が古城に響き渡った。
<章=第二十一話 とある女性の戦闘介入>
「なあ.....護たち、いくら何でも遅くねえ? 」
クリスの実家である、エバーフレイヤ家所有の古城、『フレイヤ城』で高杉、美姫、クリスの3人は護たち一行の到着をまっていた。
「ねえ、ベネット。護たちの車に連絡はまだつかないの? 」
「はい......只今、幾度か応答するように連絡を送っているのですが、返ってこないため捜索隊を出して確認を急いでおります 」
ベネットの言葉にクリスの顔が曇る。クリス以外の『ウォール』メンバー達の表情も陰っている。
学園都市の裏側で動く暗部組織の一員である『ウォール』メンバーである3人はどうしても今の状況を悪く考えてしまう。即ちなんらかの『事件』が起きたのではないかと考えてしまうのだ。
「みなさま.....そんな暗い顔をなさらないでください。そのうちにきっと連絡が......つっ! 」
「どうしたのベネット! 」
「ただいま連絡が入りました。捜索隊が山中で放棄された2号車を発見。前部座席に2号車運転手のジェームズの遺体が乗せられていたそうです。また車体にいくつかの銃痕を発見したと...... 」
「なんだって!? じゃあ護たちは誰かに狙われたってのか? ていうか護たちはどうなったんだよ! 」
高杉の言葉にベネットは首を横に振った。
「護さまたちの姿は無かったそうです。その行方については捜索中......ですが、同時に『追跡者』達からこんな情報が..... 」
なにやら、クリスに耳打ちするベネット。その行動はすこし表には出せない情報だということを意味していた。
「そう.......そっか、『あれ』が関わってるかもしれないんだ..... 」
「はい.......私兵部隊を動かしましょうか? 」
「今の状況でお父さまが許すはずがないわ......... 」
2人の会話にまったくついていけてない高杉とクリスだったが、とにかく今は対策を立てなければならないと話に入ることにした。
「なあ、私兵部隊ってクリスの家が独自に保有する兵隊のことだろ? なんでそんなものを出すってんだ? だいたい『あれ』ってなんなんだ? 」
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン