とある世界の重力掌握
だが、神裂は当たり前のように右手でそれを防ぎ、左手でカウンターの一撃を放つ。
その一撃を再び瞬間移動で避わす高杉。広い地下空間で拳と蹴りの応酬が繰り広げられる。
「なるほど、前回を教訓にすこしは改善してるようですね......ですが能力者とはいえただの『人間』が私に勝つことは出来ないですよ? 」
正面にたつ高杉の瞳に神裂のもつ刀『七天七刀』の放つ反射光が突き刺さる。
「七閃! 」高速の抜刀術に偽装した7本のワイヤーを放つ技。まともに食らえば肉など切断されてしまう。だが高杉は瞬間移動の能力者である。
「んな攻撃当たるわけねえだろうが! 」
再び能力を使用した高杉が移動したのは、神裂の......両足の間だった。
「!! なにを..... 」
驚愕し、混乱する神裂に高杉は少し苦笑いする。
「こんなところクリスに見られたら絶対鉄骨ぶつけられるだろうな.....だが仕方ない! 」
神裂の両足をがっちりとつかみ高杉は告げる。
「どうだ? 奇跡は起こせるもんだろ? 」
瞬間、神裂はその空間(フィールド)から消え失せた。
そのとたん、入り口の扉を蹴破る勢いでクリスが部屋に突入してきた。思わず身構える高杉だったが予想に反してクリスからの拳は無かった。代わりにクリスは高杉に思いっきり抱きついた。
「バカバカバカバカ!なんで私達を巻き込まないように1人で飛び込んじゃうのよ! わたしたちはチームなのよ!一緒に戦うのが当たり前でしょ! 」
「まったく.....私とベネットさんで抑えていたけど、戦闘音が消えたとたん無理やり振り切って飛び込んじゃったのよ。余程、高杉が心配だったみたい。普段は死ねしねいってるくせにね 」
呆れながら言う美姫だったが、その口調にはバカにする響きはない。むしろ羨ましい響きがあった。
「悪かったよクリス。だからそのさ.........すこし離れてくれねえか? 」
そう指摘されて始めて、自分が高杉に完全に密着していることに気づき思わず真っ赤になるクリス。
「仲のよろしいことで、良かったですなお嬢様。ところで高杉さま。先ほど戦ってらした相手はどこに消えたのですか? 」
高杉は宙をさす。
「飛ばしたのさ。俺らがこの国に降りたった場所。ダブリン空港へ 」
「あそこから、ここまではかなり遠いんですが........ 」
「それが俺の『無限移動』なんだよ。正確な座標と風景さえ覚えていれば、たとえここから日本へでも飛べる。ただ精神状態や体力に影響されれば海にドボンもありえるけどな 」
高杉はやっと離れたクリスや美姫と肩を寄せ集めた。
「俺が戦った相手は、前に護の奴が言ってた『魔術師』という奴らの1人だ。あと『アイルランド聖教』の依頼を受けてるとか........これはよく分からんけど、クリスの母さんが死んでいるということを否定するような素振りを見せてた 」
「それ、本当なの!? ねえ高杉!母さんが生きてるかもしれないの!? 」
「詳しいことは分からない。でも、なんでそんなに驚くのさ? 」
「........あのね、私の母さんは元々IRAの1人だったの。でもアイルランドが独立を果たしてからは、IRAの穏健派に所属してたの。過激派だったお父様とはそのころ知り合って、すぐに付き合い始めたみたい。でその後、私が6歳ぐらいまではなにごともなく過ぎて行った。でもある年、IRA過激派が穏健派の要人を片っ端から襲撃する事件があったの。事前に父さんから連絡を受けていた母さんはなんとか家からは逃げたんだけど、通りに車で出たとこらでトラックに追突されて海にドボン。ひき逃げだったから、見つかったのはだいぶ後、おかげで母さんの遺体も見つからなかった。私が母さんの薦めもあって学園都市に通うようになった直前だった 」
クリスは少し目を伏せた。
「私は母さんの遺体を見ていない。だからもしかしたら生きているかも知れない。そんな希望を抱いていたの。もし高杉と戦った相手が嘘つきじゃなければすこし希望が見えてくるってことなのよ 」
思わぬクリスの辛い過去に触れるこになってしまった2人は黙って聞くしか無かった。
「確かにな......ここを狙ってる『聖騎士団』だっけ?そいつらを捕まえて喋らせれば真実が分かるかも......... 」
「それはいけません........お姉さまは、知ってはならないのです 」
突然の声に一斉に振り向く4人の前に立っていたのは、見たところ13?14歳の少女たち2人組。
「私は、アン・エバーフレイヤ 」「私は、セレナ・エバーフレイヤ 」
2人は声を揃えて言葉を放った。
「「お姉さま。お父様の為にお姉さまの保護と同行者の排除を開始します 」」
<章=第二十三話 とある地下での二人少女>
高杉たち4人は異常な状況に混乱していた。
目の前に現れた2人組の少女、アン・エバーフレイヤとセレナ・エバーフレイヤ。その姓『エバーフレイヤ』が示すのはただ1つ彼女たちがクリスの関係者ということである。
「なあ、クリス........お前に妹っていたのか? 」
「ええ、確かにいたわ。でももう何年も前にIRAのテロで2人とも亡くなってるのよ! あんたたち妹の真似なんかして、なんのつもりよ! 」
「お姉さま......私達は間違いなくお姉さまの妹です。あの事故で確かに私達は1度死にました。でもお父様が生き返らせてくださったのです。力を与えるという方法で........ 」
「そんなはずないわ! お父様がスピリチュアルな事柄にすごく詳しいのは知ってるけど、いくらなんでも.......まさか! 」
「ふふ......お姉さまはやはり信じられませんか。だけど関係ないです暫く眠っていてください 」
アンの目が赤く光る。その光は否応なくクリスの瞳に突き刺さり.......その意識を奪った。
「クリス!? くそ! なにをやった! 」
「なに.....すこし寝てもらっただけです。だって......これから始まる戦いはお姉さまには刺激が強過ぎますから 」
ニヤリと笑うアンとセレナに思わず身を引く高杉。2人の表情は狂気じみていた。
「さて、まずはお姉さまの気にかけるあなたから、血祭りにあげて、お姉さまの心を閉ざしましょう 」
「なら私はそっちの子を片付けるわ。良いかしら? 」
「ええ、構わないわ 」
2人の少女はそれぞれ右手を前に突き出す。
「バブドよ! 」「マハよ! 」
「「わが身を用いてこの地にいでよ! 」」
その途端、2人の体を膨大な闇が包み込む。
「これはまさか......魔術!? 」
「そうね.......これは、少なくとも科学の範囲には入らない。なによりこの圧迫感......少なくともこの姉妹。普通の人間じゃないわ 」
「よく分かっているようですね。ですが分かったところで私達に勝てるとは思わないでくださいよ? 」
巨大な闇を払い姿を現した2人は異形の者へとなりはてていた。
「驚きましたか?この姿が運命女神であるバブドとマハの象徴たる姿なんですよ 」
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン