とある世界の重力掌握
「バブドは大カラス。マハはカラス。それぞれ戦場ではカラスの姿を取るんです。そして人という容器(いれもの)にそそがれた神が人を通して象徴の姿を取れば......この姿になるんですよ 」
2人の体を黒き羽毛が包み込み、その背からは漆黒の黒き羽が大きく広げられていた。
「さあ、始めましょう 」
アンとセレナは声を揃える。
「「血塗れの歓迎会(カーニバル)を!」」
アンとセレナはそれぞれの相手に向かっていく。一直線に明確な意思をもって。
「くそが! ベネットさん!クリスを連れて上に逃げて! こいつの狙いは俺たちだ! ベネットさんまで巻き込まれる必要はない! 」
「他人の心配をしてる場合ですか? 」
白銀に光る剣を一気に突き入れてくるアンに対して、高杉には得物はない。だが、高杉には能力という武器がある。
突き入れてくる直前に瞬間移動しアンの背後から鋭い一撃を放つ高杉。だが...........
ガギン!と、いう甲高い音とともに高杉の足は黒き翼に防がれた。
「鉄板入れてるのに、ふせぐのかよ! 」
舌打ちするた高杉に向けてアンはニヤリと笑いかける。
「ふふふ.......勝てるかしらね? 」
瞬間、アンの体を覆う羽毛が一斉に舞い散った。
「つっ!? なにを.....ぐわぁ!? 」舞い散った羽毛の1枚1枚が漆黒の短剣となって高杉の体に突き刺さる。瞬間移動のおかげで全ては刺さらずに済んだが、すでに左肩、右足、わき腹に短剣が突き刺さっている。
「ふふふ......そんなていどでお姉さまを守れるつもりだったなんて、片腹痛いですわね 」
「そうかよ。だが俺もがっかりだぜ? この程度の攻撃とはな。こんなもの気をつければ簡単に避けれるぜ? 」
高杉の言葉に口元を歪めるアン。
「私の全力はこんなものなはずがないでしょう? 」
アンの翼が振るわれた先はクリスを抱えて逃げるベネット。
容赦なく振り下ろされた翼は、ベネットの体を吹き飛ばし、同時にクリスの体を包み込む。
「お姉さまはいただいたわ。じゃあ、ちょっとお姉さまに協力してもらって手品でもやりましょうか 」
その翼が離れた時、そこに広がる光景に高杉は目を疑った。
「そんな、馬鹿な! 」
信じられないのも、当然だ。なにしろそこにはクリスが10人いたのだから。
「先にタネ明かししておくと10人中、9人は偽物よ。1人だけが本物。ただし能力は同一。性格は全員があなたへの敵意しかない。もちろん本物(オリジナル)も今は『敵意』しか残らないように調整してある........さあ、守ろうとした人間に攻撃されるなんて......最高のシチュエーションじゃない? 」
アンの言葉を合図に、10人のクリスが一斉に高杉に襲い掛かる。
一方、姉妹のもう一方、セレナと美希との戦いは、ほぼ互角に進んでいた。
「しつこいわね! いいかげんに倒れなさいよ! 」
「うるさい!この程度の電撃で倒れてたまるか! 」
「だったら砂鉄で切り刻んであげようか!? 」
「私の翼に通用さないことはさっき実証したんだけど! 」
閃光と爆音、土煙と轟音、いつのまにやら2人は高杉たちのいる場所からかなり離れた場所まで移動して戦っていた。
「うん? そういえばここは、どこなの? 」
「ふふ.....やっと気づいたか。ここまでお前を誘えれば私の勝ちは決まったようなものだ! 」
なにをと言いかけて美希はあることに気づいた。この部屋には無数の『棺』が置かれていることに。
「この部屋の名は『霊安場』 」
セレナは告げる。
「そして、私に宿る神、マハは広大な埋葬地を統治していたとされている.......この言葉の意味わかるかしら? 」
美希がなにかを言う前に異変はおきた。部屋に無数に置かれている棺のふたが一斉に開いたのだ。
「さあ、起きろ!死人(アンデッド)ども!お前たちの倒す相手はすぐそこだ! 」
次の瞬間、部屋一面に置かれた棺から、無数の死人(ゾンビ)が襲い掛かった。
高杉と美希はまさしく最悪な状況に追い込まれようとしていた。
<章=第二十四話 とある姉妹の女神特性>
「くそが......これで、どう対処しろって言うんだよ?! 」
高杉は10人のクリスが放つ無数の鉄球をひたすら避けながら下を噛んでいた。
「(どれが本物か分からない以上、迂闊に攻撃はできない.....俺の能力じゃ、相手を飛ばすことはてきても動きを止めることは.......くそ! こういうのは護の奴が1番向いてるんだかな! 」)
舌打ちしつつ宙を移動する高杉の視線の先には10人のクリスと1人の少女。魔術師姉妹の姉、アン・エバーフレイヤだ。
「ふふふ......お姉さまを傷つけるのをよほど警戒しているようですね.......ならやる気を起こさしてあげましょう 」
アンは、羽毛の一枚を剣に変え、近くに立つクリスの腹を突き刺した。
「!! クリス! 」口から血を吹き出し、地面に倒れていくクリス。高杉はそちらに向かおうとするが、倒れた瞬間、クリスは羽毛に変わった。
「良かったわね?。こいつは偽物よ。でも、次に刺すのも偽物とは限らないわよ? 」
悪魔の笑みを浮かべるアンに高杉は苦々しげな視線を向ける。
今のままでは完全に手詰まりだ。普段意識しない護や哀歌たち仲間の存在を高杉は嫌というほど思い知らされていた。
「はは! やっぱり手も足もでないようですね! そんな甘い気持ちで私達に勝てるわけないんですよ! 」
アンの翼から放たれる無数の羽毛が剣となって高杉を狙う。
「さあて、どこまでもつか楽しみですね! せいぜい仲間に狙われる苦しみを....... 」
アンの言葉は最後まで続かなかった。なぜなら、地下の扉をぶち破り、少女が入ってきたからだ。高杉が待ち望んだ仲間の1人。
『竜崎哀歌』が。
「待たせたね.......助けにきたよ.....ここは任せて上にいって高杉.......クリスは上よ 」
「な......なにを言って....お姉さまはここにいるのですよ? 」
「私にまで小細工が通じると思った?......そこのクリスはあなたが羽毛を変化させて作った偽物........女神バブドの特性の1つである戦場での同士討ちをさそうことを利用してるみたいだけど......同じ魔術師の私には一瞬で分かるほど雑な術式ね 」
唇を噛み、睨みつけるアンに対して哀歌は明確に言葉を叩きつける。
「debita935.....この魔法名に誓い、私はあなたを逃がさない! 」
瞬間、哀歌は自分がぶち破った扉を片手で持ち上げ、ブーメランのように『放り投げた』。
「!? こいつ、化物!?」慌てて避けるアンを掠めて巨大ブーメランと化した扉は容赦なく9人のクリスを薙ぎ払う。
「まじか.....全部本当に偽物かよ! クリスを、俺の仲間を利用しやがって! 」
「高杉! あなたが怒りをぶつけるべき相手はこっちじゃない!今はクリスを助けることに集中して! 上に急いで!クリスは父親と共に隠し部屋にいる! 場所は護が教えてくれる! 早く行って! 」
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン