とある世界の重力掌握
「さっき話したようにセルティは『3女神』の最後の一人……女神『モリガン』の特性を持っているわ……『モリガン』は『3女神』の内でもっとも力を持った神とされ……神話によってその姿を変える三相一体の女神でもあったの。豊穣の女神である『乙女アナ』。永遠に生命を生み出す『母神バブド』。幻影の女王、死母神である『老婆マハ』の三相を持っているとされているわ…….このうちの『ハブド』と『マハ』の名はあなたにも覚えがあるんじゃない? 」
バブドとマハ。この2つの女神の名を確かに護達は耳にしていた。なにしろその名は、クリスの2人の妹達が持つ女神の名であるのだから。
「つまり、神話によって差はあれど、モリガンは他の2人の女神より上位に立っているの。よってモリガンの特性を使えば他の2人の女神の特性が使われるのを止めることができるのよ 」
確かにモリガンが上位の神であるなら、他の2神を止められるだろう。だがここで一つ疑問が残る。クリスはまだ敵のもとにあるのだ。つまり……….
「『主導神ダヌ』の特性を持ったクリスの体が敵の手にある以上、たとえモリガンの特性を使って一時的に2人の女神を止めたとしても無意味になるのではないですか? 」
いくらモリガンが他の2神より上位の立場に立つとはいえ、さらに上位の女神であるダヌには勝てない。
「確かに『主導神ダヌ』の力を使われればモリガンでは抗しきれない……..でもね、モリガンには他と一風変わった……..それでいて決定的に違う『特性』があるの。その『特性』は、『戦いの結果と死を予言する』というものなの…….神話では戦いの前に死んでいく兵士の血に濡れた衣服を川で洗うことで結果を知らせると言われているわ。用は民間伝承における『死神』などの原型なのだけど『予言』するというよりは『宣告』すると言った方が近い………..女神モリガンはその戦場のおける戦いの結果と人の生き死にを自在に操れる……..そう考えてくれれば良いわ 」
もし、モリガンにラミアの言う通りの力があったとすれば、それを特性にもつセルフィはまさしく最強と言える。ただし、強大な力には必ず代償がつくものである。
「その代わり……..代償として、その特性を発現させた時点でその人間の寿命は止まってしまう……..発現したままの姿でとどまり続ける。それは不老不死ではなく、ただ定められた寿命が来るまで同じ姿なだけ……… そして特性を利用するためには自らの血液を相手に付着させなけらばならない。戦場で『死ぬ前』のはずの人物の衣服がなぜ『血まみれ』なのか………考えれば当たり前でその血とは『モリガン』自身の血なの。すなわちモリガンは自らの血で相手の衣服を濡らすことによってその所有者の生死を操ってるのよ。また、一番強力な特性………『戦いの結果を宣告する』という能力は発動できるのは1回だけ。その能力は、第一に『戦場』でなければ発動できない。第二にその『宣告』は特定の人物に特定されるわけではなく戦場にいる全員に適応されれてしまう。それもその1回のために記憶、性格、力、能力、そう言ったものをことごとく失うことになる………… 利点もある代わりに危険な特性であることは間違いないの 」
「その代わり上手くいけば、その特性を使ってジェラルド達『タラニス』の計画を十分に阻止できる。ですよね? 」
頷くラミアを見て護はふっと口元を緩ませる。
「分かりました。あなたの代わりに僕と哀歌と美希で行ってきます…….本当なら高杉の奴持つも連れて行きたいけど………あいつはまだ寝てるみたいだし…….. 」
「「ちょっとまったぁ!!」」ここで2人の声が重なったのを聞いて首をかしげる護。この場に男は上条と自分しかいなかったはずなのだが?
「俺だけ置いていくってのは薄情だぜリーダー。俺は『ウォール』のメンバーなんだ。厄介事には最後までついていく 」
「俺もついていくよ。俺の『幻想殺し(イマジンブレイカ―)』がどこまで役に立つかは分からないけど………『禁書目録(インデックス)』を助けるためにも元凶倒さなきゃいけないわけだしな 」
高杉と上条の2人の参加によって、セルフィの捜索隊は数を増やすことになった。
「それでセルティって子はいったいどこにいるんですか? 」
護の言葉にラミアは部屋にかけられている世界地図の一角を指し示す。その指の先あるのはアイルランドの隣の島国。すなわち………
「グレートブリテン北アイルランド連合王国、イギリスにセルフィはいる……..正確にいえばイギリス清教、第零聖堂区『必要悪の教会』管轄下の倫敦(ロンドン)塔にね 」
その言葉が意味するのは……….
「つまり………. 」
哀歌がその言葉の意味をストレートに言い表す。
「私達にイギリス清教と……..真正面からガチンコをやれっていうの? 」
<章=第二十六話 死からの目覚めと最後の特性>
「なんだかんだでここまで来ちゃったけど、あそこに入るのって本当に可能か? 」
イギリス清教における暗部とも言える『必要悪の教会』管轄下の倫敦(ロンドン)塔まで高杉の『無限移動』でやってきた護たちだったが、来たのは良いが中に入ることができずにいた。
別に、警備が厳重すぎるとか、魔術師と出くわしたとかいう訳ではない。そうではなく、当たり前すぎることで護たちは足止めを喰らっていた。
「考えてみれば......倫敦(ロンドン)塔は表向き、普段は一般に公開されてるんだったっけ 」
ロンドン塔は、中世に立てられた城塞であるが、同時に数々の人々の血を吸った処刑場、牢屋でもある。そんな血なまぐさい城ではあるが、その歴史的価値から世界遺産に登録されていてるため、普段は一般公開されており、世界中から観光客が訪れている。
確かにその血なまぐさい歴史はともかく、歴史を感じさせる外観は多くの人を魅了する。
ただし、それはあくまで表向きの話であって実際は現在でも、対魔術サイド専用の牢屋、処刑場としてこの城は使われているのだ。
「確か『禁書目録(インデックス)』の頭の中の資料によると、この塔の中の『隠し部屋』にセルフィは捕らえられてるんだよな? 隠し部屋って.......フレイヤ城にあったやつみたいなものか? 」
上条の言葉に哀歌は首を振る。
「あの城の隠し部屋は純粋に『部屋』だったけど.......この城における隠し部屋とは........『隠し牢屋』と言ったほうが正しい.......表に出せない者達を封じておくための部屋になるから 」
この城塞は敷地の中にいくつか建物を備えており、城だけで成りたっている訳ではない。
血染塔(ブラッティータワー)、黒塔(ブラックタワー)、ミドル塔、ベル塔、塩塔(ソルトタワー)、ビーチャム塔などの塔と、兵舎、礼拝堂などの施設に加えて、本丸の城にあたる『白塔(ホワイトタワー)』を加えた全てが倫敦(ロンドン)塔となるのだ。
「それで、その隠し部屋がこの敷地のどの建物の中にあるかなんだが........そればっかりは禁書目録(インデックス)にもわからないらしい。おそらくイギリス清教にとって不利に成りかねない情報は記憶として残してないんだろうな...... 」
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン