とある世界の重力掌握
「哀歌たちへ敵の注意が集まっている! 今のうちに血染めの塔へ! 」
護の声を合図に、『救民の杖』戦闘員500人近くと『ウォール』メンバー4人に上条を足した合計505人が血染めの塔に突入する。
血染めの塔にも看守はいたが、その数は少ない。大多数が哀歌たちの迎撃に回されているようだ。
「護さん。この辺りが『隠し部屋』があると思われる場所なんですけど......ここには触れれば即死するレベルの魔術的なトラップが仕掛けられてます! 」
ナタリーの叫びに護は上条を見る。
「ここは上条の力が必要だ。このトラップを破壊してくれ! 」
頷いた上条がナタリーの指さす壁の一角に触れたとたん、触れた部分が唐突に消え、通路が出現する。
「どうやらこの先が『隠し部屋』みたいだな。みんな行くぞ! 」
通路に突入する護たち。その通路はすぐに切れ、目の前に広大な地下の監獄が広がる。
「あの通路は地下に繋がるワープ装置みたいなものだったのか 」
関心する護だったが、今はそれよりやる事がある。
「セルティ!セルティ・エバーフレイヤはいるか! 助けにきた! いるなら返事してくれ! 」
護の叫びに居並ぶ牢屋の1つで影がピクリと動いた。
「本当に!? 本当に私を助けに来たの? 」
少女の震える声が護たちに問いかける。
「私は吸血鬼なのよ!? そんな私をどうして!? 」
「君のお姉さんを、クリスを助けたい 」
護の言葉に、牢屋の中の少女が息を飲むのがわかる。
「そのために君の力が必要なんだ! 」
<章=第二十八話 とある律法学者(ラビ)と突入開始>
倫敦(ロンドン)塔でようやくクリスの最後の妹セルティに出会えた護たち。だが、これで解決とはならない。この塔からセルティを連れ出さねば、クリスを助けることはできないからだ。
「おい、護! 塔の周りに敵が集まり始めてる。早く逃げないとマズイぞ! 」
隠し部屋の入り口で見張りをしていた高杉が叫ぶ。
実際、血染め(ブラッティ)の塔(タワー)の周辺には、事情を察知した必要悪の教会(ネセサリウス)の魔術師たちが集まり始めていた。
「哀歌たちの陽動も限界か.........高杉! お前の『無限移動』で飛ばせるのは何人だっけ? 」
「触れなきゃ飛ばせないから、頑張って2人が限界だぜ? 」
とっさに考える護。2人が飛ばす限界なのなら、まず飛ばすべきはセルティである。問題はセルティと共に行くべき2人目を誰にするかだ。
「この場合は上条さんに行ってもらうべきかな....... 」
上条は『幻想殺し(イマジンブレイカー)』という強力で摩訶不思議な力を持っている。だが、そんな力を持っていても、あくまでも上条は民間人である。
だが、おそらく上条は残ることを決めてしまうだろう。困っている人をほおっておけないのが彼の性格なのだから。
「(だが、上条さんを万が一にも死なせるわけにはいかない。それがアレイスターから課せられた任務でもあるからな )」
護が無理にでも上条たちを飛ばそうと、高杉に呼びかけようとした瞬間だった。
隠し部屋の入り口付近で凄まじい爆発音が響き、同時に護たちのいる牢屋に高杉が瞬間移動してきた。
「さすが高杉! 護の考えを読んでベストタイミングでかけつけるとは! 」
「馬鹿か美希! んなわけねえだろ。入り口に来やがったんだよ、例の赤髪神父が! 」
赤髪神父と言われて、連想されるのはただ1人しかいない。
「高杉! 上条とセルティをラミアさんの修道院に飛ばせ! 早く! 」
護の声に急かされるように、高杉の両手がセルティと上条に片手づつ触れられる。
「おい、護........ 」なにか言いかけた上条に向けて護は頭を下げた。
「ごめん、上条 」
瞬間、吸血鬼セルティと上条は倫敦(ロンドン)塔から姿を消した。
「おやおや、また君たちかい? まったく何度僕の前に敵として現れるつもりなんだ? 」
隠し部屋に堂々と入ってきた赤髪神父こと、ステイル=マグヌスは護たちを一目みるなり言葉を吐き捨てた。
「インデックスの件で君たちには借りがあるから戦いたくはないんだが........なぜ、こんな大それたことをした? 返答しだいでは......... 」
懐に入れてあるルーンのカードを取り出し、真上に掲げるステイル。
「君たち相手でも容赦なく燃やし尽くす 」
轟という音と共に業火が部屋を赤く染める。
「まってくれステイル! こんな事をしたのはインデックスにも関係しているからなんだ! 」
護の言葉ステイルの眉がピクリと動く。
「どういうことだ? 」
「僕の仲間が巻き込まれた問題が、インデックスにも関係してたんだよ! 」
一部始終を話す護。話を聞いたステイルは苦々しい表情を崩さないまま告げる。
「あの子の為に動いているというならば、僕は君たちを処断できない。僕が最大主教(アークビショップ)に事情は説明しておく。君たちはこの塔の裏口から脱出しろ。僕が案内する。そこの魔術結社の奴らも一緒にだ。本来なら、灰にするところだが、今回はそうするわけには行かないからな 」
ステイルの厚意 (インデックスが絡んでいるからだが)に素直に感謝し護たちは、塔の外に出る為、ステイルの案内で裏口に向かう事となった。
そのころ、陽動をかってでた哀歌とダビデはいまだ奮闘していた。
「火竜の怒りは大地を焦がす! 」哀歌の叫びと共に彼女の手から業火が火炎放射器のように放たれ、無数の魔術師たちの体を焼く。
「行け! 我が兵士たち! 汝らが敵は目の前だ! 」律法学者(ラビ)、ダビデの指示の元、次々と現れる石造りの兵士たち、ゴーレムたちがプロの魔術師たちに次々と襲い掛かる。
護たちの突入時から見事な陽動を行っている哀歌とダビデだったがそろそろ、その陽動も限界に近づきつつあった。
「おい、怪力女! 敵の戦力が『血染めの塔(ブラッディ・タワー)』に向きつつあるぞ! そろそろ陽動も限界じゃないか? 」
ゴーレムの兵士たちに絶え間無く指示を出しながらダビデが叫ぶ。
「確かに陽動はもう無意味........本来は護たちの協力に向かうべきだけど.........この状況では向かえない............. 」哀歌がそう言うのも当然で、ダビデと哀歌の周辺を二重三重に魔術師や騎士たちが囲んでいる。
どうやら急を聞いた『騎士派』の人間も駆けつけてきたようだ。
「ダビデ.......あなたは、ゴーレムを使役できるのだから、地に逃げることはできる? 」
突然の哀歌の問いかけに虚をつかれつつもダビデは首を縦に振る。
「確かにできるが.......なぜ、そんな事を? 」
ダビデの言葉に哀歌は薄く笑う。
「あなたを巻き込みたくないから.......これから私の力を全力で行使するわ......でもこの力は制御がききにくい、だから、あなたにこの場にいてもらっては困るの...... 」
「しかし、それを言うなら護たちは....... 」
「大丈夫..... 」
哀歌は血染めの塔を見つめ言う。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン