とある世界の重力掌握
「僕......は.....自分の信義に.....従う!.......僕が来たことが.....この世界をこうしてしまったのなら....僕が責任を取らなきゃならない.......たとえ、ここで死のうと.....僕は霊となって.....幾度でもクリスを助ける為に戦う! 」
護の言葉にルーは一瞬、怪訝そうな表情を浮かべた。だがそれは一瞬で、その手に構えるブリューナクの狙いを護につける。
「そうか、ならば君の信義に私も全力を持って応じよう! 」
今度こそ全力で、ルーが放つブリューナクは真紅の稲妻と化した上でさらに5つの稲妻に別れる。満足に動けない護に避ける術はない。
非情に迫った稲妻5本が護に突っ込み、部屋全体に轟音が響きわたる。静寂が戻った時、そこに『古門 護 』はいなかった。
<章=第三十二話 とある執事の驚愕正体>
「く! みんな避けて! 」 セルティの叫びに他の4人が反応するより早く宙に浮かぶ棍棒が容赦なく5人の真上に振り下ろされる。
振り下ろされた先にいるのは、美希と高杉。
「高杉! 」 「分かってる! 」
高杉が美希の手を取り、瞬間移動で躱す2人。
「面倒な力だな......攻撃が当たらんではないか 」
「あいにくとあんたの攻撃を受ける義務なんてないもんでな! 」
高杉が放つ拡散弾を不可視の壁で防ぎつつ、ジェラルドは指をパチン!と鳴らす。
次の瞬間、突如現れた3つの棍棒が高杉と美希、セルティと上条、ダビデ1人で分散していた5人に振り下ろされる。
「起きろ第7柱『伯爵アモン』! 」
ダビデの声に応えるように、地中から出た馬鹿でかい手が棍棒を抑える。そのまま地中から這い上がってくるかのように巨大なゴーレムが姿を表す。
それと同時に、上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)によって上条とセルティを狙っていた棍棒は打ち消され、高杉と美希を狙った方は虚しく宙を叩いた。
「行けアモン! 汝が力を全て用い、我の敵を滅せよ! 」ダビデの言葉に従い、巨大なワタリガラスの顔を持つゴーレム『アモン』がその巨体を揺らしながらジェラルドに向かっていく。
「ゴーレム使いだと......そうか貴様が情報にあったユダヤ系魔術結社の構成員か! 」
残っている高杉たちを狙っていた棍棒がゴーレムアモンに向かう。
「俺オリジナルのゴーレムを舐めるなよ 」
その棍棒をアモンは右手に出現させた炎剣で切り裂いた。
「あんたのその棍棒。確かにオリジナルのようだが分身させている以上どうしても力は弱くなるらしいな。俺の使役する72体のゴーレムの内の7番めでも切れるほどに 」
ゴーレム『アモン』がその口を大きく開く犬歯が煌くその奥から真っ赤な業火が迫ってくる。
「そんな単純なことに気づかないのか? それとも気づいてたのに後回ししてたのか? どの道これで1つ分かった。 あんたは倒せるってな! 」
イヌとカラスの混じったような叫びと共に『アモン』の口から真っ赤な業火が放射される。
凄まじい業火に不可視の壁を作る暇もなく慌てて右に転がるジェラルド。
血走った目でダビデを見るが、その使役するゴーレムと共にその場を動かないのを見て、口元を歪める。
「仲間を救いにきてその仲間の存在に縛られて思ったように戦えないとは、ちょっとした喜劇じゃないか 」
その言葉に怒気を放つ高杉や美希だが、どうしようもできない。ハッタリか本当か解らないが、実際問題クリスは十字架に捕らえられている。もしこの十字架に魔術師であるジェラルドが細工をしていれば近づいた時点でクリスが処刑される可能性も無しとは言えないのだ。
「要は近づかなければ良いのよね? だったら! 」
美希が上着のポケットから鉄球を出そうとするのをセルティが止める。
「まって美希さん。 たとえ父さんがクリス姉さんの十字架になにか細工しているとしても、近づいたら自動的に処刑されるというのはハッタリだと思うわ。だってクリス姉さんを失えば父さんの計画は無意味になってしまうもの。だから父さんも無闇に姉さんは殺せないはず。父さんを倒しさえすれば終わるはずよ 」
「ふん、忌々しい娘めもう気づきおったか 」
自分からハッタリを認めた上でなおジェラルドは余裕の表情を崩さない。
「だが、たとえハッタリだったと分かった所で戦況は変わらない。ここに居る限りな 」
「ほざけ! ハッタリと分かった以上貴様を殺して終わりにしてやる! 」
ダビデの怒声に同調するかのように雄叫びを上げ、ゴーレム『アモン』が炎剣を持ちながらジェラルドに向かう。
「確かにそのゴーレムは強い。それは認めよう。だが、ここではそれが頂点となることはない 」
ジェラルドの言葉にダビデが首を傾げたその瞬間、突進していた『アモン』を巨大な拳が一撃で吹き飛ばす。その手は巨大ながらゴーレムのような人工の感じを受けない。まるで生き物のような、それでいて生命を感じさせない。そんな妙な感覚を与える腕。その一撃を喰らわせたのは。
「邪眼のバロル。 巨人の一族フォモールの王にして。死を司る巨神だ。今の私とやり合うということは、こいつを始めとする神話そのものと戦うことを意味する 」
ジェラルドの言葉も終らない内になにもない空間から次々と異形の者たちが姿を現す。
「さすがにダーナ神族を再現させるのは難しかったがフォモール神族なら再現はできた。ここで戦う限りお前たちに勝ち目はない。 神族に勝てる人間など現実には存在しないのだから 」
神話上でダーナ神族に破れ滅びた筈の者たちが一斉に5人に狙いをつける。
「それでも戦うしかない....行くぞ! 」ダビデの声を合図に5人は目の前の敵を潰すため突撃する。仲間を救うという自らが掲げる目的のために。
同じ頃、地下の別の部屋ではアイルランド神話における神であるルーが目の前の光景に戸惑っていた。自分がその全力を持って投げた名槍ブリューナクは間違いなく護に突き刺ささる筈だった。満身創痍の護に力を使う余裕など無く。また避けることも出来ない。間違い無く死ぬ筈だった少年は未だ目の前に存在する。
「少年。君はいったい....... 」
ルーの言葉に護は答えない。ただ瞳を向ける。その時ルーは戦慄した。護の向けた瞳は真っ赤に染まっていた。充血している目ではない。目の細胞全てが赤の色素をもったかのような瞳。
「ウヴォォォォォォ!! 」異次元獣の雄叫びを思わせるような叫びと共に神であるルーの体が一気に後方に吹き飛ばされる。
「く!? 」2、3部屋をぶち抜いて吹き飛んだルーは態勢を立て直そうとするが、それよりも早く護の拳が連続して打ち込まれる。
神であるルーでもその拳による攻撃をまともに視認できないという状況にルーは混乱していた。
しかも、その一撃一撃はルーに物理的のみならず霊的なダメージまで与えているのだ。そんなことはいくら超能力者でも不可能なはずである。
「(この少年は学園都市の超能力者だったはず。だが、そうだとするといったいなぜ? )」
そこまで考えた所で護が突然攻撃の手を止めた。
これ幸いにと離れるルー。
護は己の右手でピストルの形を作る。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン