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とある世界の重力掌握

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その先の空気が揺らぎ、妙な黒き光の玉が作られていく。

その姿に訝しげな表情を浮かべるルーは直後護の顔を見て驚愕した。

彼は笑っていたのだ。

ルーがブリューナクを投げるのと護が右手から黒き光線を放つのはほぼ同時だった。

ルーが投げたブリューナクと光線がぶつかり合うと思われた時黒い光線と接触したブリューナクの穂先が消えた。そしてそのまま槍自体を消しさったまま光線は突き進む。

ルーが高速移動で宙に飛んだのと同時に光線が今までルーがいた場所を消しさり、そのままの勢いのまま地に綺麗な大穴を開ける。

しかしそれ以上は続かないらしくそれで終わる。

ルーは今の攻撃の正体をすぐに看破していた。

護は重力使いである。そして重力により引き起こされるもっとも強力な事象はブラックホールの発生である。

本来ブラックホールとは太陽などの大質量の恒星が超新星爆発をした後、自己重力によって極限まで収縮されできるものとされている。

だがそのセオリーを目の前の少年は全く無視して小規模ながら形をとったブラックホールを作り出している。

それはもはや人の域を超えている。

そこまで考えてふとルーは先程護が叫んだことに思い立った。

『僕が来たことが.....この世界をこうしてしまったのなら....僕が責任を取らなきゃならない 』

この言葉を文字通り受け取るとしたら目の前の少年は『この世界の住人』ではないということになる。

ルーは直感した。この少年は異世界からの来訪者ではないかと。

異世界でどんな存在であったかは解らないが、今の少年は明らかに人間の定義から外れている。

そして、今の護には、なにかをしようとする意思が感じられない。ただ『目の前の敵に対し力を行使する』という本能のようなものに従い、力を解放させているに過ぎないのだ。

このまま放置していれば少年はこの世界の全てにとって害悪となり、世界を牛耳る者たちによって排除されてしまう。

それを止める方法はただ1つ。護が備える霊的及び科学的力の核を強力な力で押さえ込みコントロールすることである。

それによって今回のような瀕死になったときの暴走を抑えられれば護はまだこの世界で生きられる。

だが潜在的ながら強力な護の力の核を抑え、コントロールするのは並み大抵のことではない。

それをすることは、人には不可能だ。そう人には。


「私なら、恐らく少年の核を制御できよう。だがその行為は主人に対する反逆を意味している 」

護が連射するいくつものブラックホールをかわしながら、ルーは呟きつづける。

「だが、そもそも私は祖父を殺し、一族を滅した反逆者である罪人.....主人への反逆は私の運命(さだめ)なのかもしれん。ここで彼と出会ったこともまた運命なのかもしれんな。彼の中に生き姿なき神となることは私にとって最良の選択なのだろう。私はこの姿を保ちすぎた 」

ルーは己の周囲に護により消されたはずのブリューナクを複数出現させる。その数8本。

「封じよ! 」

ルーの声に応じ8本の槍が稲妻に転じ護を囲むように周囲8箇所に突き刺さる。

その途端、8本の槍から8つの真紅の光が伸び護の動きを抑える。

ルーは、自らの体を輝かせ、自分の体を目的に最適たように変えていく。

「少年。 今のままの君ではこの世界で生き続けるのは不可能だろう。だから私が手を貸す。君が元の世界に戻れるまで私が君を支えよう。だから君は君の信義を貫き通せ。クリスを助けるのだろう? 」

聞こえるはずもない問いを呟き、ルーは自らの体を真紅の光玉に変える。

そのまま光玉は真っ直ぐ護に突き進み護の体に入り込む。

一瞬、顔を歪め雄叫びを上げる護だがそれはほんの一瞬だった。

護の目を染めていた赤は消え、『古門 護』が戻ってくる。

「いったい......僕は...... 」

護は周りを見渡し、自らに止めを刺そうとしていたはずのルーの姿を探すがどこにも姿を確認できず首をかしげる。

その護の肩がポンと叩かれた。

慌てて後ろにふりかえる護の目に映るのは執事長ベネット。

「なぜ、その姿に? まだ僕に止めを刺してもいないのに..... 」

「あなた様は、気づていらっしゃらないのかも知れませんが、私とルーとコインの表・裏のような物でございます。私はエバーフレイヤ家によって神であるルーに付属された『作られた人格』なのです。いわば私は本来姿を持たない神の『器(うつわ) 』と言えるでしょう。そしてルーがその器から離れあなたの中に入ったことによりわたしの存在意義はなくなったのでございます 」

ベネットはゆっくりと右手を上げる。その途端、彼の右手にフラガラッハが現れた。

「ここで私の役目は終わります 」

その言葉を合図にベネットはフラガラッハを振りかざし護に斬りかかる。

その時、護の右手はとつぜん槍を握った。真紅の槍。その槍の名はブリューナク。

驚く間も無く、まるで操られているかのように腕が動きブリューナクを突き出す。

突き出されたブリューナクはフラガラッハを貫通しベネットの体に突き刺さる。

「なぜ...... 」

「これは....私の希望でもあるのです。私がお使えしたエバーフレイヤ家第1継承者であるクリス様の為に動きたい気持ちもありましたが、私は......あくまでも器。ルーがジェラルド様に......忠誠を誓う以上私がクリス様をお救いすることは不可能でした。ですが.........今ならそれが出来ます 」

ベネットは、その震える右手で執事の燕尾服のポケットからなにかを取り出す。

その小さな箱のような物の名はオルゴール。

その蓋がひとりでに開き、メロディが流れ出す。そのメロディはモーツァルトの『鎮魂歌(レクイエム) 』

「私があの方にしてあげられる最後の御奉仕がこれです........護さま。約束してください.......クリス様をこれからもずっと『仲間』として守ってくださると.....お願い致します..... 」

その言葉がベネットの最後となった。その体が地に倒れ伏せ、その魂を送るレクイエムが悲しき音色を響かせる。

「なんで.....こんな,...僕にどうしろって言うんだよ.....自分だけでは仲間の1人も救えない僕に.....そんな約束果たせるわけがない......なんでこんな風に終わらせちゃうんだよ! 」

護の叫びに答える声はなく、ただ悲しげなレクイエムの音色だけが流れ続けた。


時間を遡ること数分ほど前、護以外の5人はジェラルドの使役する神話上の怪物たちと戦闘を続けていた。

「消えされ怪物! 」

美希が放つ『超電速射(レールバルカン) 』が一度に複数の巨人の頭を貫き絶命させる。

だが倒したそばから新たな巨人が空間から滲み出るように現れる。

「これじゃあ....きりがないじゃない! 」

「まったくだぜ! いったい何体倒せば良いんだよ!? 」

「喋っている暇があったら戦え! 」

ため息をつく2人をダビデが怒鳴りつける。

彼はすでに10体以上のゴーレムを同時に操って戦っている。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン