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とある世界の重力掌握

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その操るゴーレムたちは獅子奮迅の戦いぶりを見せ、巨人たちを始めとする怪物たちと互角の戦いを演じているが、ダビデの魔力も無限ではない。

現にゴーレムたちの動きは鈍り始めていた。

対照的に魔力を気にする様子もなく、怪物たちを倒しているのはセルティ。
吸血鬼であるセルティは不死である為に生命力を変換させてつくられる魔力が涸渇することがない。

セルティは魔力を利用することによって元より人離れししている吸血鬼の身体能力をさらに強化しその細い腕から放つ一撃で、自分の数倍もある怪物たちを軽く吹き飛ばし、倒した巨人が持つ巨大な武器を振るい怪物たちをまとめてなぎ倒している。

また、上条も自らに襲い掛かる怪物たちの攻撃をぎりぎり避けながらその右拳の一撃でダメージを与え倒していく。

だが、5人の奮戦にも関わらず邪眼のバロルを始めとする怪物たちの数はなかなか減らない。むしろ増えている。

「ふはは無駄無駄! ここにいる限り儂の倒すことなど不可能! せいぜいあがけばよいわ! 」

「抜かせ、この空間に仕掛けがあるのなら壊せば良いだけの事だ! おいイマジンブレイカー! どこでも良いから触れてみろ! 」

「お......おう! 」 ダビデに応え、足元の地面を護が触った瞬間だった。

なにかがはじける様な音と共に上条が触れた一定の地面にヒビが入り陥没していく。そしてそれと共に怪物をかたどったらしき銅像が飛び出し空中で砕け散る。

「そうか.....父さんはこの空間の真下に神話を象徴するものを配置することで、この部屋を小規模な神話世界にしていたんだわ! 」

「ということは、上条の右手で破壊して行けばいいんじゃねえか! 」

「ふん、この部屋の構造に気がつきおったか。だが気づいたとしてどうすることもできはせん 」

ジェラルドが指を鳴らすとクリスの周囲から滲み出すように槍を構えた巨人が左右に現れ十字架につけられたクリスにその槍先を向ける。

「次に破壊行為にお前たちが及べば、この娘(こ)は死ぬぞ 」

「父さんには、姉さんは殺せない! 計画の実現の為には姉さんが....... 」

「そう、主導神ダヌの特製をもつ『体』がな 」

ジェラルドの言葉にセルティの表情が強張る。

「まさか....... 」

「そうだ。前にも話したと思うが儂の計画に必要なのは女神の素質をもつ娘たちの体だ。 生きているにこしたことはないが別段それに拘ることはない 」

ジェラルドはその目線をクリスに向ける。

「いっそ、ここで貴様らの目標を砕いてやろうか 」

左右にたつ巨人が槍を大きく後ろに引いた。勢いをつけ敵を完全に絶命させる為に。

「クリス! 」高杉が飛び出そうとするが間に合わない。誰にも止められぬままクリスが殺されようとしたその瞬間だった。

とつぜん、部屋のどこからともなくメロディーが流れ出した。悲しくも厳かなそのメロディーの名はレクイエム。

ガキン! という鈍い音と共にセルティが投げた巨大な斧が槍を構える巨人の一体の体を両断した。

「覚悟! 」巨人が倒れてできた空白を突き、セルティは真っ直ぐジェラルドの元に突き進む。

「こしゃくな娘が! 」

その人外じみた威力を誇る拳を不可視の壁で防いだジェラルドはその手にもつ本物の神剣であるヌアダの剣をセルティに向ける。

「終わったな、我が娘よ 」

「そうね.....終わったわ。 父さんの計画がね! 上条さん! 地面を殴って! 」

セルティの叫びに、ジェラルドが目を見開くが、構わず上条は地面を叩く。

その途端、叩いた箇所に出来たひび割れが瞬く間に部屋全体に広がり、次々と陥没し、象徴物が砕け散る。

「バカな.....いったいなぜだ! なぜ象徴が全て崩される! たとえ『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の力をもってしてもこの部屋全ての象徴を破壊するなど不可能なはずだ! 」

「その理由、教えようか? 」

突然響いた声に、体を震わせ上を見上げるジェラルド。その目線の先、天井をぶち破って降りて来たのは『ウォール』リーダの護だった。

「バカな.....貴様はベネットと当たったはず。あいつと戦って貴様のような若造が勝てるわけがない! 」

「ああ、確かに僕はあの人には勝てなかった。 だがあの人は最後の最後に僕を殺さずクリスを助けることを選んだんだ。あの人はあんたへの義務より美希への忠誠を選んだんだよ! 」

「ふざけるな!たとえそうだとしても、いったいなぜ象徴をすべて破壊できた? 」

「あんたも聴いたはずだ。 流れ出したレクイエムを 」

「それがなんだと....... 」

「そのメロディーが、この部屋の地面に存在する象徴をラインで繋いだんだ 」

「なに!? 」

「執事長であるベネットは、あんたにこの部屋の準備を任された時、密かに細工を行っていたんだ。わずかな可能性を考慮して 」

ベネットが行った仕掛けについて護は知ることはできない。だがベネットと表裏の関係だったルーと一体化している事で護にはその全てが理解出来た。

「ベネットは直属の執事としてクリスに仕えていた。 そして一連の騒動の中でもクリスだけは救いたいと願っていた。だけど執事長という立場にたちあんたへ仕える義務をもつ以上その気持ちを封じ込めるしかなかった 」

だがベネットは護との戦いのはてにルーが護の中に生きることを選択したのを見てその意思を変えた。

「事態が、ジェラルドの計画にとって不利に進もうとしている今なら自分が守るべき人を救える。ならばそれを実行しようと ベネットは決意した」

そして、僅かな希望をもって用意していた仕掛けを発動させた。自らの死という引き金を引いて。

「この部屋の地下の象徴物たちは、一つ一つが独立して構成されていた。だから上条のイマジンブレイカーでもその全てを無効化するのは無理だった。だがそれが魔力的ラインで繋がれてしまえば上条の力で一撃で無効化できるんだ。そうでしょうジェラルドさん? 」

「なぜだ?......なぜ貴様がそこまで知ってる。なぜそこまで語られる!? 貴様は部外者。とつぜん介入してきた余所者のはずだ! なぜ? 」

「僕の中に教えてくれる存在がいるからだよ。ベネットと共にあったもう1つの存在が僕を救い。僕に事実をすべて教えてくれた 」

「まさか、ルーか? そんな筈はない奴は私たちに仕える義務があった。貴様などにつくはずがない! 」

『私が仕える義務があるのは、エバーフレイヤ家にだ。 ジェラルド、お前にではない 』

突然声が変わった護にジェラルドはもちろん周りで見守る5人も十字架から解放され意識を取り戻したクリスまでもが目を見開いて見つめる。

『お前がここまで来るのになにがあったかを私は理解している。お前の行動にある意味では正当性があることも 』

「理解しているなら、もう1度私に仕えなおせ! 」

『家族の全てを、イギリスと祖国の争いの中で失い。その復讐の為にお前は戦ってきた。そしてその中でエバーフレイヤの血を引くラミアと出会い、お前は彼女と結ばれエバーフレイヤの当主となった 』

「そうだ! 私は当主だ! よって貴様は私に仕える義務がある! 」
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン