とある世界の重力掌握
「これは僕の予言として聞いて欲しいだけど、ある男がある少女を救う為に吸血鬼を欲した。だが、吸血鬼などそう簡単に見つかるはずがない。そこで男はその立場を利用して知った『吸血殺し(ディープブラッド)』の少女を確保した。 だけどその男は自分の所属していた組織を裏切って行動していた為に魔術サイドが介入しづらい科学の街である学園都市(ここ)に拠点を持ったんだ。その男の名は、錬金術師アウレオルス・イザート。 」
「だとしたら、私もそこに引き寄せられるってことよね? でも今は別段なにもないけど? 」
「そこばっかりは僕にもよく分からないんだけどね.......ただこれは推測だけど吸血殺しの効果が及ぶのは一定の範囲だと思うんだ。現に彼女が消してしまったのは吸血鬼化した村の人であって遠くから引き寄せた訳ではないという事だし 」
護たちがいるのは、学園都市特有のサービス職の一つである個室サロンの中である。護たちのような暗部組織の人間は仮の拠点をいくつも用意する。護たちのような学園都市全域においての活動が想定されるような組織は必然的に各学区内に最低1つの拠点を持つのは珍しくない。
「それで護さんは、その少女を救おうとしているんですか? 」
「まあ、それもあるけど......上条さんに万が一がないようにするという目的もあるんだ 」
護が警戒しているのは、作品の流れとの違いの発生だ。その例がグラビトン事件の時の一件である。
「(いったいなにが原因で流れが変化するのかがいまいち分からないけど......もしかしたら上条さんがアウレオルスに破れるという展開だってありえるんだ)」
護からすれば上条が死ぬということは、佐天さんが死ぬことにも繋がるので嫌でも避けなければならない。
その為に自分の作品知識を使って最悪の事態を避けるべく、先手を打つことで展開を変えようとしているがはたしてそれが可能かどうかについては護にも分からない。
護という異物をかかえたこの世界がどんな変化をするかについて護が知れるわけがない。
「それで具体的にはどうする気なの? 」
机におかれているポテトフライの山に手を伸ばしながら哀歌が言う。因みに彼女はこれで3皿めである。
「とりあえずアウレオルスが潜伏している場所は分かっているから内部に入って調査するしかない。 だだその為には僕らが生徒になるしかない 」
「生徒って.....とうしてなんですか? 」
「アウレオルスが潜伏しているのは三沢塾という進学塾なんだ 」
「進学塾? なんでそんな所を拠点にするんですか? あからさまに目立つと思うんですけど 」
「人が多くいるあの場所だからこそアウレオルスはあそこを選んだんだ 」
アウレオルスが三沢塾に潜伏した訳は実現不可能と呼ばれた錬金術『黄金錬成(アルス・マグナ)』を執り行う為だったのだが護はあえてそこに触れようとは思っていない。
本当の理由は、後で分かることだし今はそれより優先する事があるからである。
「民間人が多くいる場所なら、自分を狙う組織から攻撃されにくいからだと僕は思うんだけどね 」
とりあえずもっともな理由でごまかし護は本題に入る。
「僕の調べでは、あの三沢塾っていう塾は科学崇拝を行うオカルト結社みたいになっているらしいんだ。 それで本来ならアレイスターが処理を命令して終わりの筈なんだけど、そこでアウレオルスが乗っ取ってしまったもんで面倒なことになっているらしいんだ 」
「そのアウレオルっていう奴はどんな戦い方をするんですか? 」
「戦い方というか.....彼は錬金術師だから当然錬金術を使う訳なんだけど、その中でも実現不可能と呼ばれ、錬金術の到達点である黄金錬成(アルス・マグナ)という錬金術を使うんだ。その効果は『考えたことをそのまま現実にする』というもので事実上無敵かつ反則な力なんだよね 」
「それって......反則っていうかチートだね......そんなの相手にして勝てるの? 」
哀歌の言葉に護は即答できない。正直な所、護は上条さんがいない限りアウレオルスに勝つのは無理ではないかと思っている。
なにしろ作品中ではステイルと上条さんが協力して、重傷を負いながら『黄金錬成(アルス・マグナ)』の欠点を突いてようやく勝てた相手なのだ。
自分がどこまで戦えるかと問われると護は正直自信がないのである。
「僕もなんとも言えないけど『無敵』な人間なんて存在しないんだからなんとかなると信じたいね 」
「時に、先程護は生徒となって潜入すると言ったけどウォール全員で忍び込むわけ? 」
「いや、アウレオルスに魔力を探知されるとまずいから今回は潜入組は僕と高杉と美希とクリス。哀歌とセルティは万が一に備えて外で待機していて欲しい。特にセルティは今回は吸血殺しが関わっている以上気を付けなきゃならない 」
護の言葉に微妙に頬を膨らませるセルティ。彼女としてはせっかく姉と同じ組織の一員となったのだからもっとチームの一員として働きたかったのだ。
とはいえ、今回はそう簡単に現場に連れていける訳ではない。
「セルティにも哀歌と一緒に万が一の時のバックアップという大事な役目がある。 しっかり頼むよ? 」
「分かりました...... 」
渋々ながらセルティが了解した時、護の携帯電話からレクイエムの着信音が流れ出した。
メールの差出人は『御坂美琴』。
護は一瞬、心臓が飛び出るかと思った。
美琴とは木山をめぐる一件以来、まったく会っていない。
アイルランド旅行などに出かけていたせいもあるが、美琴自身が遭遇するのを避けているようなのだ。
その美琴からのメールの内容は至って簡潔だった。
『アンタのアパートの前に行くから待っていて 』
それがメールの内容だった。
それから数10分後、護は哀歌たちを個室サロンに残し、1人アパートの前に立っていた。
メールには時間が指定されていなかったためになるべく早く着こうと急いで来たのだが、まだまったく姿は見えない。
「面と向かって、どう話せば良いんだろう...... 」
あの一件の後、偶然顔を合わせてしまったりした時の美琴の表情には怯えが感じられた。
正直、前のように話せる自信が護には持てないでいるのだ。
「は?......ん? あ、来た 」
前方から走ってくる常盤台の制服を着た美琴。外見は別段焦りや恐怖を感じられるわけではないがだから護が安心できるわけがない。
走ってきた美琴は、護の前に来るないなや開口一番こう言った。
「お願い。 協力して 」
「.......はい? 」
「だから協力して! 」
てっきり、なんか問い詰められるのかと思っていた護は予想外の言葉に拍子抜けした。
「あのさ.....一体なにを協力しろっていうの? 」
「ここじゃ話せないから、ついて来て 」
有無を言わせずにすたすたと歩いていってしまう美琴の後を慌てて護は追った。
美琴の後に歩きながら、護は今の状況を訝しんでいた。プライドの高い美琴がわざわざ他人に頼むのは珍しい。
だが護には今の時期に美琴が自分に頼みごとをする理由が検討つかないのだ。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン