とある世界の重力掌握
その光景に声もあげることもできずに腰を抜かしている強盗たちを黒子が素早く拘束しているのを見て護は安堵のため息をついた。
群がって一部始終を見ていた、ギャラリーから歓声がわく中、護は子供を抱いたままぼうぜんとしている佐天のもとに駆け寄る。
「佐天さん。大丈夫?」
「へ?はい、私は大丈夫ですけど...... 」
「自分に能力がないからダメとか思わないでよ? 」
思わぬ言葉に佐天は思わず護を見つめた。
「佐天さんが子供を助けようとした時のあの行動は、そうそう誰かがマネできるもんじゃないよ。僕があの場所にいて、こんな能力を持っていってもきっと動けなかった.....すごいよ佐天さんは 」
「あ.....あの....」
佐天はまだよく状況を理解できていなかった。
「どうして、私を助けてくれたんです?」
この質問に護はしばし沈黙し、やがて思い切ったようにこう言った。
「なにか特別な理由があったわけじゃない。ただ、君が傷つくのを止めたかった 」
一瞬、その場のときが止まった....ような気がした。
「あの....それって...... 」
佐天が何か言おうとした時だった。
「佐天さん!」
遠くから美琴が走ってきた。
「まずい!彼女の性格上、間違いなく勝負を仕掛けてくるにきまってる。ここは逃げるしかない!」
猛ダッシュで人ごみの中に突入し、姿を消す護。
佐天は、護が消えた人ごみをみながらぽつんとつぶやいた。
「古門 護さん.....か.....にしても、なんで私の名前を知ってたのかな?」
<章=第六話 とある出会いと事件発生>
「ふわぁぁぁぁ......眠い..... 」
護はかすむ目をこすりつつ、ベットから体を起こし時計を見る。
「まだ、5時か......どうせなら2度寝しちゃおうかな..... 」そう言ってベットに戻ろうとしたが、直前で思いなおして起きることにした。
(元の世界でも、そうやって起きる時間を延ばしたあげく遅刻してたからな.......さすがにこっちで同じことをするわけにはいかんよな)
「さて、朝飯何にするかなーってうん? 」護は郵便受けに白い封筒があるのに気づいた。
「そういえば、昨日帰った時には来てたっけ。異様に頭が重くて、読む気にもなれずに、そのあとベットにバタンキューだったから。さっぱり忘れてたけど。 」
封筒をとり、確かめる護。封筒の差し出し人は『学園都市統括理事会』。
「あそこから、来たってことは順位付けと名前が決まったってことか 」
手で、封筒を破り、なかから小さなコピー用紙を出す。そこには......
「本日付で、第7学区在住生、古門護を学園都市レベル5、第4位とする。なお能力名は『重力掌握(グラビティマスター)とする 」と書かれていた。
「『重力掌握(グラビティマスター)』か.......なかなかカッコいいじゃん。にしてもレベル5の第4位か.....まあ一方通行(アクセラレータ)や垣根帝督の末元物質(ダークマタ―)にはさすがに及ばないと思っていたけど、美琴より下だったか........ 」しばし落ち込む護だったが、逆に利点もあると思いなおすことにした。
「もし第3位とかなってたら、プライドをズッタズタにされた電撃姫(みさかみこと)が雷の槍とかぶつけてきそうだし......そういう点ではラッキーだったと思うべきかな?」
だが考えてみれば、そもそも新参者で、記憶喪失としている護が同列に並ぶことは、どの道、彼女のプライドを傷つけることになるかもしれないことに気づき、なんだか暗い気持ちになってしまった護だった。
「まあ、気を取り直して。朝食食って準備して散歩でもして学校に行こう。今日が初の登校日だし。」
その後、朝食を食い、散歩に出かけ、(なぜか)アパートの近くにいた美琴に追いまわされ、何とかまいて上条といろいろと雑談しながら登校し、教室で紹介され(また偶然に上条たちと同じクラス)、土
御門と青髪ピアスを始め、クラスの生徒に質問攻めにされ、なんだかんだいって学校生活初日を楽しんだ護だった。
「ふう.....昨日とは対照的に今日はなかなか有意義な一日が過ごせたな。上条や土御門もいい奴だし....まあ青髪ピアスも悪い奴ではないしな........ 」初日ということで居残りなどもなく護は帰り道を急いでいた。
「えっと......話の通りにストーリーが進んでいくとすると、次に起こるのは『連続虚空爆破事件』のはず......あれは最終的に上条さんがその右手の幻想殺し(イマジンブレイカ―)で打ち消して防いだおかげで事なきを得たけど......僕が原作に介入した以上、なにか原作どおりにいかない事情が生まれてもおかしくはないはず.....だったら自分からも何か動くべきだよな 」
とはいっても護に、犯人を捕まえるあてがあるわけではない。そもそも『連続虚空爆破事件』の犯人の名を護は知らないのだ。『メガネをかけたウラナリ』とは覚えているものの名前は覚えていなかった。
「それでも、分かっていることは幾つかある。まず、やつは風紀委員(ジャッジメント)を標的(ターゲット)にしてるってこと。そして幻想御手(レベルアッパー)を使っているということ...... 」
レベルアッパーを使っている彼は、外に出歩いているときは、うつむいて歩きながらヘッドホンを常に耳にかけて歩いていたはず、人相はアニメでしっかり覚えているのでこの特徴をもつもので、風紀委員に敵意をむき出しにするやつを探せばいいのだ。
「と盛り上がってみたものの.......そんだけじゃ当てはまる人が多すぎて絞り込めないよな.....」
一機にテンションが落ちる護。
「となるとやっぱり、作品の流れが正しいことを信じるしかないか.......でも、それまでに大勢の風紀委員が傷つくのを防ぐぐらいなら、完全じゃないけどできるはず......それでいくしかないな。」
「あの....... 」突然背後から聞こえた声にびくっとなる護。
だが直後に聞き覚えのある声だと思いだす。
「第4位の古門 護さんですよね?昨日はありがとうございました 」
後ろにいたのは、昨日自分が助けた少女、佐天涙子だった。
「びっくりした.....佐天さんだったんだ.....いいよお礼は。僕が自分でやったことだし。」
「でも、あの時護さんが助けてくれてなければ私怪我してたかもしれません。それにあの時言ってくれたこと嬉しかったです 」
護としては、あんなこ恥ずかしいセリフ早く忘れてほしいところなのだが、それを自分の口から言い出せるわけがない。
「ところで、護さん。何をうんうん唸りながら歩いてたんですか?」
「え?見てたの? 」
「はい、護さんを見つけて話しかけようとしたんですけど、なんかそんな雰囲気じゃなかったんで、すこし距離を離しながら話しかけるころあいを図ってたんですけど...... 」
(まさか、連続虚空爆破事件とかの話しも全部聞こえたりしてないだろうな.......)と心配になる護だったが、佐天はそんなこと知る由もない。
「ところで、時間あいてますか?護さん 」
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン