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とある世界の重力掌握

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自分の思うことを槍を通して現せ。いまだ実感は湧かないが、そういうのならばやるしかない。

護は己の槍の銘を頭に浮かべる。『緋炎之護』自らの名が入った銘が意味するのは『炎の護り 』。

「(なら.......!) 」

無言で再びルーがブリューナクを放つ、空中で5つに分かれた真紅の稲妻に向けて護はこんどこそ明確に緋炎之護を向ける。

「第壱の技、緋炎剛壁! 」心に浮かぶままに、正確には槍が示すままに護は技の名を叫ぶ。

そのとたん、迫り来るブリューナクに対して護の緋炎之護の槍先から放たれる緋炎が炎の壁を作り上げる。その壁が迫る5つの稲妻を5つとも防ぐ。

「第弐の技、緋炎斬波! 」護の叫びと共に槍の穂先が緋炎を纏い、その緋炎之護を護が全力で横に振るう。

槍から放たれる緋炎が鋭さという本来炎が持ちえない特性を宿しと波となる。

新たにブリューナクを構えなおすルーを緋炎の斬撃が切り裂く。それと同時にルーの体も切り裂かれる。

「見事だ少年。これで正真正銘、その槍は君のものだ。緋炎之護は君の強い力となるだろう 」

ルーの体が透けて行く。

「槍は君の中にある。君が呼べば君の力となる。 緋炎之護を君が信じるものの為に使うがよい。 訓練は終わりだ少年。現実世界に戻すぞ 」

護がなにか言う前に彼の意識は問答無用で途絶えさせられた。

「..........部屋.....か 」

護は唐突に意識を取り戻した。とっさに部屋の時計に目をやれば訓練を初めてから30分もたっていない。

「あんだけ訓練して現実は、30分もたってなかったのか 」

護は自分の両手に目をやる。

「(ルーは銘を呼べば、槍が力となると言っていたけど本当にできるのかな? ) 」

護は右手で宙を掴みながら、その銘を呼んだ。

「緋炎之護 」

そう呟くのと同時に護の右手は槍の柄を握っていた。

「.....どうやら、本気でこの槍は僕のものになったらしいな 」

護が戻れと念じると、緋炎之護は光となって消えて行く。


「さて、なんだかんだで新たな力を手にいれられた訳だけど......なんか怖いな。僕はいったいなんなんだ? 」

超能力と魔術は本来相入れないはずの存在である。

超能力者には魔術は使えず、魔術師には超能力は扱えない。それが原則だ。では超能力と魔術を扱えることになった護はなんだというのだろうか。

「なんだかおかしいぞ。僕はあくまでも元の世界では一般人だったはずなのに 」

考えて見ればおかしな事はいくつもあった。こちらに来た直後に発現したレベル5級の能力。自分をなぜか支援する統括理事の1人。自分が異世界から来た事を知っていたアレイスター。

「うう.......考えれば考えるほどますます混乱してきた......まあ、今はそれは後回しにして......そうだ! 哀歌たちの事すっかり忘れてた! 」

そうである。護は個室サロンに仲間2人を置き去りにしたままなのをすっかり忘れていたのだ。

その後、2人にたっぷりと絞られた護は何度も謝り、なんとか解放されたのは1時間後だった。

「うう......疲れた、もう動けない..... 」

「私たちを置き去りにしたまま、忘れた護が悪いんだよ?罰なんだから、最後までやってもうからね 」

護は2人のお叱りを受けた後、セルティの荷物を学生寮に運ぶ仕事をさせられていた。学園都市に移る事になったセルティは霧ヶ丘女学院に通うことになった。

セルティはてっきり姉であるクリスと共に住むと思っていた護だったが彼女的には色々な意味で姉には迷惑をかけたくなかったらしい。

だが、それは別に結構なのだが部屋に入れる荷物を入れたダンボールの数がとにかく多い。

生活用品や下着などはまあ普通だがその後に続くなにか良く分からない縦に長いダンボールや微妙にオカルト的な物品が飛び出しているダンボールまでかなりの数なのだ。

凄く気にはなるのだが触らぬ神に祟りなしのことわざにのっとり護は深く触れず作業を進めた。

こうして引越し作業を終えた護は爆睡していた高杉をむりやりたたき起こして自分のアパートに瞬間移動させ、気絶するように眠りについた。

その後2日間はいつも通りすぎていった。

どこからか侵入してきたロシアの工作員の捕獲やら、なぜ侵入できたと首を傾げたくなるぬいぐるみを抱いた少女の保護などという護たちからすれば比較的平凡な日々が過ぎていった。

そんな2日間が過ぎさり3日めとなった時だった。

朝からまるで予告のよう一面の曇り空にカミナリが鳴り響くなか護の携帯にメールが来ていた。送り主は美琴。

「なになに.......まじか、本気で8割がたの施設を再起不能にしたのかよ。つまり残りの2割の破壊に協力してほしいってことか 」

メールには施設の場所も記されていた。

「ならさっそく行くとするか 」

今回はウォールの仲間たちは連れていかない、これはあくまで個人的な用事だからだ。

稲光が走る曇り空の下を護は目的地へと走っていた。



「ふわぁ......超暇ですね 」

とある研究施設の内部を1人の少女が歩いていた。

外見はへたすると小学校高学年にみえる少女だが彼女も普通の人間ではない。彼女も暗部の人間なのだ。

「第3位の襲撃の可能性を考慮して防衛しろっていう命令でしたけど超だれもこないじゃないですか 」

彼女の名は絹旗最愛。能力者であり名は『窒素装甲(オフェンスアーマー) 』。

「まあ、この脳神経応用分析所に襲撃が来ないのは平和ってことで超ありがたいんですけど 」

そう絹旗が呟いた直後、すこし遠くでなにかが吹き飛ぶ音が響き、同時に建物の全域で警報がなり出した。

「残念ながら平和は超簡単に崩れましたね......とりあえず空気の読めない超不届き者を成敗しにいきますか 」

掌から数cmの窒素を凶器に変え、絹旗は敵の侵入箇所、分析所正門へと歩みを進めた。


「この単調な動きから見て短期警戒用の無人装甲車か...... 向こうにあるのは駆動鎧(パワードスーツ).......たった一施設になんて過剰な警備態勢だよ?........だが僕の攻撃は防げない! 」

護は目標である研究施設に正面から強襲をかけていた。要は正門を重力操作によって盛大に吹き飛ばし堂々と内部に侵入したのだ。

迫ってくる無人装甲車及び駆動鎧達に対して護は超重力砲を放ちまとめて吹き飛ばす。

「さっさとこいつらを退けて施設の中心を破壊しなきゃならないんだけどな...... 」

護がため息をついた時、唐突に周りに展開していた装甲車や駆動鎧達が一斉に動きを止めた。いや、停止したのだ。

「? 」

「退屈してるなら超相手しますよ侵入者。いや、第4位の重力掌握(グラビティマスター)。いったい何のつもりかは超分かりませんが、ここで止めますからね」

「絹旗......最愛? なんで.....そうか.....『アイテム』も計画に関わってたんだ! くそ、迂闊だった! 」

「なんでその名を知ってるか超疑問なんですけど。 まあ、それは置いといて.....行きますよ第4位 」
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン