とある世界の重力掌握
「悪いけど、今からちょっと用事なんで無理よ 」
「用事って研究施設を襲撃することだろ? ならすぐには攻めないほうが良い。 第5位のレベル5が率いる奴らが守っているはずだ 」
「は!? なんでアンタがそんな事知ってるのよ? 」
「そのメンバーの1人とお前が指定した研究施設で交戦した。 敵はお前が襲撃する可能性の高い施設を守備している可能性が高い。無闇に突っ込めば怪我するぞ! 」
「そんな事.....ごめん。少し遅かったみたい。 アンタの言う通りそれらしき奴が見えてきたから 」
護が問い返す前に無数の爆発音が巻き起こり通話が唐突に切られる。
「くっそ! 」
舌打ちしつつ護は部屋にある金庫から、外部銃器であるFNファイブセブン拳銃を取り出し弾倉を装填する。
5.7ミリの特殊弾を使うこの拳銃は護が比較的良く使う銃器であった。ただ大概使用するのは訓練用のプラスチック製衝撃弾だった。
「拳銃程度であの第4位......いや、今は5位か.....に敵うとは思えないけど他のメンバーにはある程度効くはずだ 」
拳銃を腰のホルスターに差し、ドアを開けた護の眼に映ったのは.......部屋の前で座り込んでいる哀歌だった。
「.......... 」
「........... 」
なんだか妙な空気が2人の間に流れ、一体を沈黙が包んだ。
「なあ、なんか悪い事したのなら教えてくれよ 」
「別になんでもない.....護は気にしなくても良い 」
なんだか不機嫌な哀歌を連れて、護は美琴の携帯を逆探知して割り出した研究施設に急いでいた。恐らくすでに美琴は麦野たち『アイテム』と交戦している。作品の流れ上、ここで美琴が死ぬというのは考えられないが万が一に備えて駆けつける必要がある。
護はすでにウォールのメンバー全員に連絡をとっており拠点の1つである高級マンションの最上階の一室を集合場所にしていた。
目標の高級マンションに行くためにはとある橋を渡る必要がある。
「この橋だよな......美琴と上条さんが戦ったりした場所は 」
なんだか感慨深い思いを抱きながら橋を渡ろうとした護は直後微妙に違和感を覚えた。
周りに人がいない。自分たち以外の人間の姿が。
「まさか、人払い.....! 」
「違う、護。魔術が使われた感触はない。これは人為的に作られた無人空間..... 」
哀歌の言葉に考えを巡らす護は次の瞬間、最悪な風景を見た。
美琴が一方通行と戦っていた。
「美琴! 」
橋の上で叫ぶ護に目線を向ける美琴。 その額には暗視ゴーグルが.......そこまで見て護は気づいた。
「お前、妹達(シスターズ)か! 」
護の叫びにミサカはなんの反応も示さない。代わりに反応したのは一方通行(アクセラレータ)だった。
「なんだァ、こんな場所に用でもあるってかァ? 」
護の思考は一瞬停止しそうになった。なぜここにあの第1位がいるのか?
「私たちは通りかかっただけ......あなたになにかしようとは.....思っていないわ........ 」
哀歌の言葉に対して、アクセラレータは冷笑を浮かべて答えた。
「たとえそうだとしてもよォ。 実験を見られた以上そのままにする訳にはいかねえよなァ。 大体それ以前に怪しすぎるンだよ.....お前らァ、どうやって封鎖線を通り抜けてきたンだよ? 」
そう言えば.....と護はここにくるまでに見かけた警備員(アンチスキル)らしき集団を思い出した。特殊部隊風の服装をしていたが特に気にしないで通り過ぎた。だが良く考えれば警備員(アンチスキル)の一般部隊は共通の装備をしている。特殊部隊風の装備をしている一般部隊など存在しない。となるとあの特殊部隊風の集団は暗部組織ではなかっただろうか?ではなぜ自分達は当たり前のように通ることができたのだろう?
「答えねえつもりかァ? まあ、そういうことならとりあえず.....スクラップ決定だ! クソ野郎! 」
いきなり叫びを上げた アクセラレータに対して護は行動を取れなかった。
それでも護は死なずに済んだ。間一髪の所で哀歌が護を弾き飛ばしアクセラレータの攻撃から避けたのだ。
「現出せよ! 破壊大剣(ディストラクション・ブレード)! 」
叫びと共に全方向に光を放ち数刻後には人外の姿になる哀歌。その姿にアクセラレータも興味深げな視線を送る。
「そいつは、肉体変化(メタモルフォーゼ)かァ? 見るのは初めてだが、少しは楽しませてくれんだろォな! 」
嬉しそうな叫びをあげながらベクトル操作によって空中に飛び上がりつつ拳を放つアクセラレータ。
その拳の勢いに押されて地面に激突する哀歌。
「アクセラレータ! 」
両手から重力波を.....つまりは両手版の『超重力砲(グラビティブラスト)』を放つ護だが即座に反射されてしまいこちらが自分の放った技を止めるハメになる。
「なんだァ? この能力......噂の第4位のじゃねえか! はっ、たまんねえなァおい! 」
歓喜の声を上げるアクセラレータに護は背筋が凍るような錯覚を覚えた。
作品知識をもって分かっていたことではあったがアクセラレータの存在や力は間違いなくチート級だ。
「やはり僕の能力では通用しないか 」
「そんな分かり切ったこと聞いてんじゃねェよ。分かりきったことだろォが 」
嘲笑うアクセラレータに向けて護は明確にその目線を向ける。
「確かに第1位と第4位......位でも能力でも僕が不利だ。でも、僕にはあんたにはないものがある! 」
その言葉にアクセラレータが首をかしげる前に、護はその名を呟く。自らに宿る超能力以外のその力を護は出す。
「緋炎之護 !」護の叫びと共に、その手に槍が握られる。緋色に輝く十文字槍が。
「(多重能力者(デュアルスキル)だとォ?) 」
心中で首を傾げるアクセラレータに向けて護はその槍先を向けた。
「第弌の技、緋炎斬波! 」
勢いよく横薙ぎに振るわれる緋炎之護から、緋色の波が勢いよく放たれる。
「! 」さすがに驚き、身を固くするアクセラレータだが、一応反射は効いているらしく、アクセラレータの周囲を覆っているだろう能力による保護膜に接触した緋炎は、斜め後方に逸れ、巨大な光球となったかと思うと強烈な光を発っし、刹那に消滅した。
「(作品知識通り、アクセラレータの反射は一応、魔術にも効くってことか) 」
舌打ちしつつ、攻撃を警戒して後ろに下がる護。
一方のアクセラレータは自分の反射が正確に適応しなかったことが腑に落ちないらしく、苛立った様子で護を睨みつける。
「お前......なんなンだ、その能力 」
「わざわざ言う必要がありますかね? 第1位さん? 」
「そりゃあそうだよなァ........ならちょいと変更だ.......言いたくなるまでシメテやる 」
その言葉に身構える護。次の瞬間、アクセラレータの周囲がかき乱され、すさまじい台風級の暴風が渦となって護に襲い掛かる。
「つっ! 第参の技、緋球爆散! 」
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン