とある世界の重力掌握
言葉と同時に槍の穂先に現出した巨大な光球は瞬時に爆発し、発生した凄まじい衝撃波が迫る暴風とぶつかってその攻撃を相殺する。
だが、その隙をついて近づいてきていたアクセラレータの運動力を操作した蹴りを護はもろに受けてしまった。
そのまま凄まじい勢いで川に向けて吹き飛ばされる護。そんなち水深が深いわけでもない川に頭から落ちて行ったら護には命はない。
だが、そうはならなかった。
なぜなら川に落ちる直前に、かけつけてきた高杉が瞬間移動を使って護を抱きかかえて難を逃れたからだ。
「ああ? なンなんですか、奇跡の救出劇ってかァ? だが、あいにくそりゃあ無理だな 」
嘲笑いながら、なんらかの攻撃を加えようとしたアクセラレータだったが、それは叶わなかった。
なぜなら、アクセラレータの周囲、360度全方向を砂鉄の壁が囲んだからである。
「別にアンタがお姉さまの無知のせいで生まれた、そこの妹たちを殺すのはかってなんだけどさ。 私を私にしてくれた護に手を出すのは許せないんだよね 」
砂鉄を展開させたのは美希。学園都市レベル5第3位と同じ力をもつ少女。
「アンタが第4位じゃ満足しないってのなら 」
美希はその手にパチンコ球を握りしめる。
「第3位と同一の私が相手をしてやるわ! 」
<章=第三十六話 とある鉄橋の第1位>
「なんだァ、お前は? 」
「私の名は美希。あなたが殺しまくってる妹達(シスターズ)の姉に当たるかしらね 」
「姉?.......なるほど、お前もこのクソ気持ち悪いクローンどもの1人か。それにしちゃあ、やたらと感情表現が豊かだな 」
「私は彼女たちとは別ラインで生まれたからね。 当然ながら感情表現能力は他の妹達(シスターズ)と比べて豊かよ 」
美希は、その右手に握っていた複数のパチンコ球を空中に放り投げる。
「無駄話は命取りよ、第1位! 」
空中で超電速射によって放たれた複数のパチンコ球は音速を超える速度で砂鉄の壁をぶち抜いてアクセラレータに向けて突き進む.......が、常時全方向にベクトル反射を適応させているアクセラレータに通じるはずもなく、その全てが反射され、美希の後方にある地面に大穴を開ける。
「そンな程度じゃ、相手になンねえぞ? 」
「まだ私は全ての手を使っちゃいないわよ? 」
ニヤリと笑う美希は能力で砂鉄を操作する。そう、アクセラレータを囲む砂鉄の壁を。
アクセラレータの目の前で、彼を囲む砂鉄の壁が一斉に崩れ、彼からすこし離れた複数の場所。合計6箇所に纏まって展開する。
その動きに訝しげな視線を向けるアクセラレータに向けて、美希は歪んだ笑みを向ける。
「喰らいなさい、第1位 」
6箇所に展開した砂鉄の球から一斉に高速振動する砂鉄の塊、すなわち砂鉄弾がアクセラレータに向けて撃ち込まれる。
当然の如く、アクセラレータのベクトル反射に美希のこの攻撃は通用しない。
放たれた砂鉄弾は即座に反射され、渦を巻いて纏まっている6箇所の砂鉄球に直撃し、その中に『戻っていく』。
つまり、放たれ反射されても砂鉄球はダメージを受けず連射し続けられるのだ。
「てめえ......なにを企んでやがる? 」
「アンタに答える義務がある? 」
あいかわらず歪んだ笑みを浮かべ続ける美希。だが状況は良くはない。実際美希の攻撃は未だアクセラレータには一発も当たっていない。
にも関わらず美希の顔から笑みは消えない。まだ余裕を持っている。
「ねえ、第1位。 アンタ、灯台元暗しっていうことわざ知ってる? 」
「それがなンだってんだ? 」
「つまり、人は意外なほど自分の足元に転がる危険や罠に気づかないってことを言いたいのよ。ちょうど今のあなたがそうだから 」
美希の言葉にアクセラレータがなにか言葉を返そうとするが、それはなされなかった。
なぜならアクセラレータの立つ位置の周囲が突然切り取られアクセラレータの体はぽっかり開いた穴から地の底に落ちて行ったからだ。
美希が狙っていたのはこれだった。第1位のレベル5のアクセラレータに正面から攻撃しても力負けするのは火を見るより明らかである。
そこで美希はあえて派手な攻撃を連続して加え、そこにアクセラレータの意識を向けさせつつ密かに砂鉄を操ってアクセラレータの保護膜の恩恵を受けない足元の地面を狙ったのだ。
念のためにアクセラレータが落ちていった穴の内部に砂鉄を流し込み蓋をする美希。
「早くここを逃げましょう護。あの1位相手じゃ、私がした抑えも時間稼ぎにしかならないわ 」
「確かに第1位相手に、今の状態では不利だぜリーダー。 ここは引き上げてウォールの全員で対策を立て直した方が良いと思うぜ? 」
「まあ、確かにな。 話してる間にもまた来そうだし.....よし、総員A10に移動し集結だ! 」
そう言って、動こうとした護の腕を哀歌が掴んだ。既にその容姿は普通の少女に戻っている。
「護、私が時間稼ぎになる。あなたの技での効果を見る限り、多少にせよあの反射に異常を起こさせることができるのは魔術攻撃しかない。完全変化......私の第3変化を使ってアクセラレータを足止めしてみるわ 」
「無茶だ! たとえ魔術攻撃を使っても、あの第1位には通じなかったんだぞ! 」
「護の攻撃はね。だけど人の魔術と人外の魔術は違うでしょ?私なら効くかもしれない 」
「だけど......! 」
「あの1位は学園都市という科学サイドのトップを象徴する怪物よ。怪物と当たるのは怪物が良い。 それにリーダーにはウォールの皆と共にいる義務がある 」
「それなら、なおさら..... 」
「現実を見て!今の状況じゃあどうやっても生贄がいるのよ。 護は優しすぎる.....暗部に生きる組織のリーダーとして、もう少し冷徹に、部下の1人くらい非情に見捨てるような思考を持ちなさいよ! 」
哀歌の言葉に、護は唇を噛むが、噛んでなにか状況が変わるわけではない。
「.........分かった。逃げることにするよ 」
その言葉に安堵の表情を浮かべる哀歌に護は続けて告げる。
「ただし逃げるのは哀歌だ 」
哀歌が問い返す前に護は手に握りしめている緋炎之護の石突で哀歌のみぞうちをつく。
「! 」
驚愕に目を見開きながら、意識を失っていく哀歌に護は告げる。
「ごめん哀歌。 僕は暗部にいても闇にも悪にもなりきれない半人前だよ.......だから僕には哀歌を生贄にするほど非情にはなりきれない 」
護は空気を読んで、行かずにまっていた高杉に手で『連れていけ』というサインを送り、高杉は一瞬迷う素振りを見せたが即座にグーサインを送り護の前に倒れる哀歌を抱えて瞬間移動する。
高杉が瞬間移動した直後、まるで図ったかのように砂鉄の蓋を突き破りアクセラレータが地の底から復活する。
「おやァ? お仲間には見捨てられたかァ? 」
「そういう風にしか考えられないのか。 哀れだな第1位 」
護はアクセラレータに本当に哀れみの目線を向ける。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン