とある世界の重力掌握
「過去にあった何かを恐れて、人を傷つけるのを恐れて、最強になれば周りに利用されて誰かが傷つくのを無くせる。そう思ってるのなら大間違いだ。この都市(まち)は、アレイスターはそんな考えが通用する相手じゃない! ますます人を傷つけることになるだけだ! 」
「知ったような口をたたくンじゃねえ! 」
激高し、近くに積み上げられていた鉄骨を次々と飛ばすアクセラレータ。
「第弐の技、緋炎乱舞! 」
護の叫びに答えて、槍の刃が緋炎に包まれ光を放つ。
迫る鉄骨をまるで踊るように槍を振るって切り捨てる護。
切り捨てられた鉄骨の切断面は真っ赤に加熱している。高熱を発する槍の刃に焼き切られたのだ。
アクセラレータの放つ鉄骨を全て切り裂いた護は続いて新たな言葉を紡ぐ。
緋炎之護が護の手の中で凄まじい閃光を発しながら緋炎を纏わせ巨大な姿を作り上げる。
「なんだと? 」
アクセラレータが見上げる先にあるのは、まさしく炎龍。緋色の炎に形作られたこの世のものならざる怪物だった。
「第伍の技、緋龍炎撃! 」
創造者の言葉に従い、巨大な龍が疾風の如く、凄まじい勢いでアクセラレータに襲い掛かる。
辺り一体に響き渡る轟音と龍の咆哮が鳴り響き、土煙と閃光が
広がる。
「ぐ.....かはっ! 」さすがにアクセラレータも今回は反射をもってしても防ぎきれなかったらしく口から地の塊を吐き出し、荒い息を繰り返している。
だが、それでもまだ立ち続けられていること。それ以前に生きていられることが彼の能力の高さを簡潔に示している。
周りの地面が完全に焼き払われている中でアクセラレータは立っている。
「まったくまだやる気なのかい。今ので最強にも防げない分野があることは分かったろう 」
「うるせえ! 無駄口たたいてんじゃねえよ! 」
怒りのこもった叫びを放つアクセラレータだが、その手が微妙に震えているのを護は見逃さなかった。その震えが示すのは怯えかはたまた武者震いか。
「強がっても、僕の攻撃を今の君では防げない。なんならもう一度喰らわせようか? 」
護の挑発にアクセラレータは地面を踏み鳴らすことで答えた。踏み鳴らした箇所から地面がささくれ立ち、いっきに護の足元まで迫る。
「第参の技、緋球爆散! 」
真上に跳躍した護が呟くと共に現出した緋球が炸裂し衝撃波で護の体を宙高く舞いあげる。
「第弌の技、緋炎.....! 」
護の言葉はそれ以上、続かなかった。突然全身にくまなく均等に走るように奇妙な激痛が襲ったからだ。
「ぐわぁぁ!? 」
痛みに絶叫し、空中でバランスを崩した護の体はそのまま重力に引っ張られ地面に容赦なく叩きつけられる。
それでも死なずにすんだのは緋炎之護の加護があったからだと言えよう。とは言っても死なずにすんだというだけで護は重傷だった。
「デかい力ほど暴走した時のリスクもデかい.....今のオマエはまさしくその典型例ってわけだ 」
地面に倒れ伏す護をみて笑みを浮かべつつアクセラレータは護までの距離を一瞬で詰め、衝突の衝撃でさけた皮膚の傷口に指を差し込んだ。
怪訝な目線を向ける護にアクセラレータは愉快そうに告げる。
「さあて、問題です。オマエの体の血を全部逆流させたらどうなってしまうでしょォ? 」
護は半分赤く染まる視界に捉えているアクセラレータの言葉に全身の毛が逆立つような錯覚を覚えた。この言葉はすこし内容が違うがシスターズの一人を殺すさいにアクセラレータが放った言葉である。つまりアクセラレータは明確に護を殺すつもりなのだ。
「(こいつは、本気でマズイ.....だけど、体....が.... ) 」
完全に意識朦朧としている護を見て歪んだ笑みを浮かべたアクセラレータはベクトル操作によって目の前の不可思議人間の生命を絶つはずだった。
その時、アクセラレータは奇妙な風を感じた。自らの足元から風がふいて来ているのだ。だがはたして風が『下から』吹くものだろうか?
アクセラレータが疑問に感じた次の瞬間真下から吹いた強烈な風がアクセラレータの体を上空に舞いあげた。
いかなるものでも通さないはずのアクセラレータのベクトル反射の膜を素通りして。
「(いったい、どうなってやがる?) 」
自らの能力は消えていない、なのになぜ風は膜を素通ししたのか。背中からベクトル操作で作り出した小さな竜巻のようなものを使って上空に滞空しながら周りを探すアクセラレータはその視界に奇妙な少女を捉えた。
なんというか印象を一言で表すとすれば『緑』と即答されそうな少女だ。上から下まで見事に緑だ着ている服装だけでなく髪の毛も、よく見れば瞳までグリーンだ。
「(また、第4位のお仲間か? )」
思案を巡らすアクセラレータだったが、それは続かない。なぜならまるで目の前の少女の腕に合わせるかのようにアクセラレータに向けて緑色をした風が竜巻のようになって向かってくるからだ。
向かってくる竜巻に対して働くはずの反射はここでもなぜか機能しない。もろに竜巻に巻き込まれたアクセラレータはそのまま、さらに高空に舞いあげられる。
もはや呼吸をすることもキツイはずの高度でも少女は平然としている。
言葉を発することもできないアクセラレータに対して少女はなにかを告げた。竜巻内部の轟音の中でも不思議なことにはっきり聞こえた。
「最強の意味をもっと知りなさい第1位。いまのあなたでは、永久に最強にはなれない 」
なにかを問い返す前に竜巻の中に突っ込んで来た少女の拳がアクセラレータの首筋をうち、彼の意識を奪い。
2人を包んだままの緑の風はそのまま地面に向かい、静かに着地する。
意識を失ったアクセラレータを地面に寝かせ、少女は瀕死で横たわる護の方に向かう。
「古門護。学園都市第3位の『重力掌握(グラビティマスター) 』。こちらではそう呼ばれてるみたいね 」
聞こえるはずもないのに少女は護の体に右手を触れつつ囁き続ける。
「やっとあなたに会えた。やっとあなたを見つけ出せた。だから私はもう迷わない。たとえ貴方が全てを忘れているとしても私はあなたの為に生きて死ぬ。だから、こんな所で死なせはしない 」
少女の手が緑色に淡く光り、触れられた箇所の傷が癒されていく。
「あなたは私を信じた。私を変えてくれた。だから私は、ミストラルはあなたを救う。それがたとえ、かつてのあなたじゃないとしても 」
太陽が沈み暗闇に包まれた橋下に淡い緑の灯火が静かに静かに灯り続けた。
<章=第三十七話 とある一位と最強真理>
学園都市は世界でも例を見ないほど厳重に警備されている。
交通の遮断に加えて周囲が高さ5メートル・厚さ3メートルの壁で囲まれている上に、
街全体を三機の監視衛星が常に監視している。
もっとも現時点ではそのうちの一機がインデックスの暴走によって破壊されているために2機しかないわけだが、それでも街の警備は世界一厳しいとされている。
だがこの世の中に完全なものなどなかなか存在しない。それを証明するかのように今日も学園都市は正体不明の余所者の侵入を許していた。
「まったく! 護が行方不明なこんな時に! 」
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン