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とある世界の重力掌握

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愚痴を言いながら走るのはクリス・エバーフレイヤ。学園都市暗部組織『ウォール』の構成員である。

「文句言っても始まらないわよクリス姉さん。今は美希さんや哀歌さん達を信じて護さんの無事を祈るしかないわ 」

「ああ、リーダーがそんな簡単に死ぬわけねえよ。きっと美希や哀歌が見つけるさ。だから俺たちはその間、自分達の役目を遂行するんだ。リーダーもきっとそう言うと思うぜ 」

クリスの言葉にこたえるのはクリスの妹で同じ『ウォール』の構成員、セルティ・エバーフレイヤと、同じく暗部構成員の高杉宗兵である。

そんな2人の言葉に不承不承ながら一応頷くクリス。

学園都市にいくつか存在する暗部組織の1つである『ウォール』の役目は外部組織要員の掃討、討伐及び学園都市内部への侵入者への対処である。

そんな役目を負って活動する『ウォール』は現時点で大きな問題を抱えていた。

つい先日、学園都市第1位のレベル5『一方通行(アクセラレータ)』と遭遇しその後戦闘に入った『ウォール』リーダーであり学園都市レベル5の第4位『重力掌握(グラビティマスター)』こと古門 護が忽然と姿を消したのだ。

何が起きたのかを知り得ない『ウォール』メンバー達は様々な手を尽くして学園都市内を探し回っているが掴めていない。そんなリーダー不在の状況で『ウォール』は新たな侵入者への対処を求められたのだ。

正直な話、リーダー代理を務める高杉はその求めを却下しようとしたほどだった。だがその求めてきた相手が相手だったのだ。

「それにしても統括理事長(アレイスター)から直々の求めっていうのはホントなの高杉? 」

「おう、ぜひともこの街にいる間に保護してほしいそうだ 」

「保護って……掃討や捕獲じゃないの? 」

「そこが不思議なんだがな…….おおかた魔術師みたいな一般に知られたくない人間なんじゃねえか? 」

会話に当たり前に『魔術師』という単語が混じる高杉だがそれも当然で彼ら『ウォール』はすでに幾人もの魔術サイドの人間と交戦している。

よって『ウォール』は現在学園都市内部に存在する暗部組織の中で (高杉の推測ではあるが) 唯一魔術サイドの存在を認知している組織となっている。

「魔術師か…….思うんですけど、この街って魔術サイドの人間がけっこうほいほい侵入してないですか? 護さんが言っていたアウレオルスっていう錬金術師にしてもそうですけど…….魔術的な侵入に対しては弱いんですかね? 」

セルティの言葉に高杉は首をかしげた。

「よくは分かんねえけど、弱いというより見逃してる感じがするんだよな。実際あの銀髪シスター…….インデックスだったか? あの子それ自体は戦闘力がゼロに等しいのに堂々と都市内部に侵入してるわけだしな 」

「となると統括理事長が何考えてるのかがすごく気になるけど……..そのあたりを護君ならしってるのかな…….. 」

「確かにリーダーなら何か知ってるかもしれないが………行方不明な以上それを考えてもしかたねえ。今は侵入者を早く確保しねえ……. 」

そう高杉が言いかけた瞬間、全員が耳にはめている小型の骨伝導式インカムに声が飛び込んできた。

「ウォールメンバー応答願います! ウォールメンバー応答を願います! 」

どうやら暗部組織の下部構成員からの連絡らしい。

「こちらウォールリーダー代理高杉。なにがあった! 」

「侵入者と遭遇しました! 場所は第10学区の元吉沢大学付属研究所の廃墟付近。現在内部に入った部隊が侵入者と交戦中です! 早く来てく……ん? な….おい….うそだろ? 来るな、来るなぁ! 」

拳銃の発砲音と何かの爆発と思しき音と主に無線がぷっつりと切れた。

「これは本格的にまずいわね……. 」

「第10学区となるとここから徒歩じゃ時間がかかりすぎる。2人とも俺の手を握れ。無限移動で瞬間移動するぞ! 」

両手をがっちりと少女2人が握ったことを確認し高杉は瞬間移動する。


吉沢大学、それは第12学区に存在する私立の宗教大学であり世界各国に分校を持つ学園都市外では有名な大学である。

そしてそんな有名大学が管轄する唯一の研究所が第10学区にかつて存在した『吉沢大学付属研究所』だった。

隣接していないにも関わらず付属なのは不思議であるがそれ以上に不思議がられていたのはこの研究所が行っている研究内容であった。

表向きには『世界各国の神話で語られる建造物などを科学的に検証する』ための研究所とされてはいたもののその内部には関係者以外立ち入ることはできず、研究成果も一度も公表されたことがないという異質な存在であった。

そんな研究所が廃墟となったのは5年前のことだった。大学上層部からの研究所からの連絡が途絶えたとの通報を得て駆けつけたアンチスキルの隊員たちが見たものは半壊した研究施設と炭化した無数の死体の山だった。

一時ニュースなどでも広く取り上がられたこの事件だったが、研究所に何があったのかについては全く解明されず、大学側も特に事件についてのコメントをしないために事件は迷宮入りしてしまった。

その後研究所跡の廃墟はなぜか撤去されぬまま今に至るのであるが、ここにきて侵入者が入り込んだのはこの廃墟だったのだ。

「ちっ! 遅かったか 」

「下部組織構成員たちは残らずやられてるわ……この焦げ方から見て発火系能力者……いや、余所者である以上、未確認の原石かあの魔術師の赤髪神父じゃない? 」

「そうかもしれんが……..だとしたら何のためだ? セルティに関する一件ならもうラミアさんが話をつけてるはずだし、インデックスに関しても今は特に問題はないはずだぜ? 」

「とすると原石ということになりますか? だとしてこんな廃墟に名の用事なんでしょう? 」

首をかしげる3人だがここで立ちつくしていても何も解決しない。

「とにかく俺達も中に入るしかない。レベル4が2人に吸血鬼1人なら敵なしだろうが警戒して進もう 」

「そうね 」

「分かってます 」

こうして廃墟に3人は入っていく。これから起きる驚嘆の出来事を3人は知る由もなかった。
<章=第三十八話 リーダー不在の暗部組織>



研究所は外から見るとまさしく廃墟だ。

だが内部に入ると意外にいくつかの部屋はその形を残している。

焼け焦げた廊下の両側の壁は黒ずんでおり、かつての火災の様子を物語っていた。

「この研究所って火事で焼けたんですか? 」

「ああ、火元は不明だそうだがここで死んだほとんどの者の死因は火災による焼死なんだとさ 」

「なんていうか怨念やら幽霊やらがでてきそうね…… 」

なにやら微妙に怯えた顔をしつつ進むクリスを見てセルティはニヤッと笑った。

「クリス姉さん、もしかして怖いんですか? 」

「べ、別に怖くなんてないわよ! そういうあんたはどうなのよ? 」

「私は怖くないわ。だいたい本物をみたことあるから別に怖がることなんてないし 」

本物?と目をまるくするクリスにふふんと得意げに鼻を鳴らすセルティ。その時だった。

「静かに…….いたぞ侵入者だ。あそこに影が見えるだろ? 」
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン