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とある世界の重力掌握

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高杉の声に残りの2人は足音を忍ばせ進みつつ前方の部屋のドアから伸びる影に目を凝らす。

「あの影から推測するにハゲで身長160センチぐらいの男みたい 」

「もしそうだとしてそんな奴がなんでこの廃墟に…… 」

そう高杉が言いかけた時、列の最後尾にいたクリスの肩が唐突に叩かれた。

「理由を知りたいですか? 」

突如背後から聞こえてきた声に反射的に後ろを振り返る3人の目に映ったのは黒のショート―ヘアーの美少女だった。

年齢はおそらく17歳前後。
細めの体を赤色のプロテクターで部分的に装甲している。

特長的なのはその両腕だろうか、パッと見ロボットの腕のようでありその掌にはなにかを発射するためなのか丸い穴がある。

「だれなの? ていうかあのドアから伸びてる影は?」

「あの影は人体模型です。私は火野咲耶と言います。あなた達は学園都市暗部組織『ウォール』の人ですよね? 」

「なんでそれを知っている? 」

「あなた達の名は裏側に生きる者たちには広く知られています。学園都市に侵入する者、敵対するものをすべて掃討する統括理事長(アレイスター)の犬として 」

咲耶の言葉に3人の表情が曇る。確かに外から見ればそうなのかもしれない。だが『ウォール』の、ひいては護の目指すものは決してアレイスターのしもべとなることではない。

「私がここに来たのは私の過去にけりをつけるためです…….それを邪魔すると言うのなら例え『ウォール』が相手でも叩きつぶします 」

「それは俺達が全員高レベルの能力者だと理解した上の言葉か? 」

高杉の言葉に咲耶は小さく頷く。

「もちろんです。たとえこの街の能力者全てを相手にしてでも私にはやらなきゃならないことがありますから 」

「だったら俺達にはお前を捕縛する義務がある。お前がなにを為したいにしてもこの街に牙をむいた外部の人間を掃討するのが俺達の役目だからな 」

「そう…..ですか…..じゃあ仕方がありませんね。あなた達を倒して目的を果たします 」

その言葉に高杉が身構えた瞬間、咲耶の前身を円形の炎が包み込んだ。

廊下全体を走り抜ける熱波に思わず腕で顔をかばう3人。

彼女を包む円形の炎が崩れるように消えた、そこに咲耶は変わらずいた。

いや全く変わってないわけではない。むしろその見た目はだいぶ変わっている。

髪はロングヘアーとなり深紅の色に染まっている。髪の奥に見える瞳も深紅。

「どいてよ『ウォール』メンバー。 」

さきほどまでと口調まで変わった咲耶は両の掌を3人に向ける。

「じゃなきゃ燃焼させちゃうぞ? 」

その言葉に3人が身構えた直後、咲耶の両手の掌に空いた穴から強烈な炎が放射された。

「!? 冗談じゃねえぞ! 」

焦りがにじむ声で叫ぶ高杉。本来なら無限移動でさっさとこんなところ早くおさらばしたいところなのだが他の2人に即座に触れられない今の状況では2人を置いてきぼりにしてしまうことになる。

「伏せて高杉さん!クリス姉さん! 」

「マナーン・マクリルの名において、その偉大さをもって我が敵を打ち砕き給わんことを! 」

セルティの叫びと共に突如廊下の天井を突き破りながら現れた巨大な水の帆船が、迫ってくる火炎放射を防ぎながら咲耶に向けて突進する。

「これで時間は稼げるはず…..早く逃げ….. 」

そう言いかけた時、背後からあっけないほどあっさりした咲耶の声が聞こえてきた。

「この程度で防げると思ったの? 笑止……やっぱり燃焼させちゃうから! 」

馬鹿なと振り返ったセルティの目に入ったのはいつの間に持ったのか両手で全長3メートルはあろうかという大剣を振りかざす咲耶の姿だった。

炎を纏った大剣の一撃は迫っていた帆船を一撃で切り裂き、さらにその先にいるセルティに体剣の纏う業火が迫る。

「セルティ! 」

妹の危機を見て思わず叫びながら、クリスは念動力を使った不可視の壁をセルティの前に展開する。

もろに不可視の壁に激突した業火はそこで押しとどめられるように見えた。

「笑止……私を超能力で止められると思ってンのかな? 」

咲耶の言葉にギョッとするクリスは直後に見た。

不可視の壁に防がれる炎の中を通り抜け、巨大な剣がこちらに向かっている光景を。

「くそ! 」

不可視の壁を遠慮なく剣が貫き、クリスを串刺しにする直前にぎりぎり彼女に触れた高杉がクリスを研究所の外に転移させる。

「くそ……クリスは仮にもこの街最強の念動力者だぞ……あの剣は…..いやこいつはいったい何なんだ? 」

「あなた達に教える義理なんてないわよ?ただ一つ言わせて貰うとするとお……科学によって生み出された人が扱えるレベルの『異能の力』で止められるわけないじゃ?ん 」

高杉はセルティに目をやる。

セルティは目を出口の方に向ける。逃げた方がよいというサインだ。

正直なところ高杉もそんな気持ちだった。こういうイレギュラーな存在を相手にするには『ウォール』総出でかかるのが今までの常識だ。

だが現状、リーダーの護は行方不明。もっとも対魔術戦に長けている哀歌は美希と共にリーダーの行方を捜索中。

今いるメンバーの中で対魔術戦を行えるのはセルティだけだが、咲耶はセルティの放った魔術をいとも簡単に打ち破って見せた。

セルティには先ほど放った魔術以外にもいくつか魔術は扱えるかもしれないが、彼女の表情を見る限り先ほどの水の帆船の魔術攻撃はかなり強力な部類に入る攻撃だったのだろう。それをあっけなく破られてセルティは動揺しているらしい。

「(現状じゃ有効な手段はねえ…….正直引くしか手はねえか) 」

そう思った高杉が瞬間移動するためにセルティに近づこうとした時だった。

終始、にやにやと笑みを浮かべていた咲耶が急に表情を変えた。

「わざわざ逃がしてもらったのに戻ってくるとはね……. 」

その言葉にあることを高杉が予感した直後、その予感通り鉄骨が一気に数10本天井をぶち抜いて咲耶目がけて落下してきた。

「ちい! 」

舌打ちをしながら高速で鉄骨を避ける咲耶。

「確かにあなたの力は強力なようだけど……アイルランドの時の奴らのように人外ではなく、体は普通の人間のようね。避けたところから考えるに、今の直撃を受けたら死ぬんでしょう? 」

鉄骨により開いた天井の穴から高杉が逃がしたはずのクリスが中に着地した。

「私をなめてもらったらこまるわ。私はこれでも学園都市最強の念動力者なのよ? 確かに不可視の壁はあなたの剣に貫かれたけど、私の技はあれだけじゃないんだからね 」

クリスの言葉に咲耶は苦笑を浮かべた。

「笑止…….たとえそうだったとしてぇ……..それはあなたも同じじゃないの?」

「確かに私も体はただの人間よ。でもあなたに全くダメージを与えられない無能力者ではないわ 」

クリスは長点上機学園の制服の両ポケットから一つずつ拳ほどの大きさのまるい球を取り出す。

それの正体は小型の爆弾。

「念動力の威力、味あわせてあげる! 」

作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン