とある世界の重力掌握
「なんで.....あなたの.....第4位の重力掌握(グラビティマスター)の力はアウレオルスが封じてる。今のあなたに力が使えるはずはない! なんであなたは力を持っている? 」
「.....そんなの.....簡単だよ..... 」
相変わらず倒れたまま、それでも視線は目の前の巨人たちから離さず護は答えた。
「アウレオルスが上条当麻に負けたから.....だよ。言ったよね上条はきっと勝つって 」
正確には上条の演技力に臆したアウレオルスの自滅であり、そのアルス=マグナのの効力喪失は彼自身が招いたものなのだが護はあえてそれには触れない。触れる必要がないからだ。
「そして....上条が勝てば僕には.....必然的に能力が戻る。これからが本当の戦いだよ『咲耶姫』さん! 」
3体の巨人は一気に高空へと上げられていき、次の瞬間雲の上から地面へと落下した。
そう咲耶姫の頭上へと。
「消えよ! 」
咲耶姫の言葉により彼女の真上に落ちてくる寸前に3体の巨人の姿は消える。
「重力鉄槌(グラビティックハンマー)! 」
護が握りこぶしを振ると同時に咲耶姫を真上から異常な重力が叩きつぶしにかかる。
「私を.....舐めるな! 」
だが咲耶姫はその重力による重圧からなんとか横に逃れ即座に日本刀を構える。
「神名解放! その有りし姿を具現せよ! 」
彼女の言葉と共にその手に握る日本刀が光に包まれ閃光を走らせる。
「く!? 」
そのまぶしすぎる光に思わず手で目をかばった護だったが光はすぐに消えた。
その先にあった光景に護は目を見張った。
彼女が持っていたはずの日本刀は巨大な大剣に姿を変えている。
禍々しい深紅の大剣。全長3メートルをこす巨大な凶器の刀身が光を反射し輝く。
「この得物の名は天之尾羽張(アメノヲハバリ)。日本神話に登場する最上級の神具。わが父大山積神(オオヤマツミ)の属神である山津見八神を生んだ炎の神、火之迦具土神(ヒノカグツチ)を殺した剣。炎の神の体を切り裂いたことでこの剣は単なる神剣というだけでなく炎をつかさどる特性も手に入れた。あの日本刀はこれを隠すための偽装にすぎないわ。神さえ殺せるこの剣を止めることはできるかしら? 」
「なるほど、それが切り札ってわけか 」
「それはあなたが判断しなさい。とにかくこの剣による一撃を喰らって.....」
咲耶姫は天之尾羽張を護に向けて水平に構える。
「ただ済むとは思わないことね! 」
刹那、一瞬という言葉では表現できない速度で咲耶姫の体が移動し、瞬時に護の目の前に移動する。
これを護は避けることは事実上不可能だった。すでに護の体は限界を超えていた。能力が戻ったとはいえ先ほどの斬撃をもろに受けた護の体に蓄積しているダメージはすでに人間の許容量を超えている。
立って能力を使用するだけでやっとな護に攻撃を避けられるはずがない。
だが護の顔に絶望はなかった。目の前の敵に間違いなく殺されるであろう状況で護は唇を歪めて笑いを作っていた。
そのことに違和感を覚えた咲耶姫だったがそこで攻撃を止める道理はない。
炎を纏った大剣が、今度こそ護の体を切り裂くべく横になぎ払われた。
だが、振り抜かれたその剣が護を切り裂くことはなかった。
その剣が護に届くか届かないかのギリギリのところで突きだされた右手が剣を止めていた。
あらゆる異能を問答無用で打ち消す右手。その右手に宿る力は『幻想殺し(イマジンブレイカ―)』。
「悪い、護。アウレオルスの説得に時間がかかっちまった 」
その力を持つ者はこの世でただ一人、その名は上条当麻。
右手に接触した途端、天之尾羽張は姿を崩し元の日本刀に戻っていく。
「馬鹿な..... 天之尾羽張を無効にした? その右手.....その力は.....まさかここまでとは... 」
「火野咲耶だったよな.....神様だか何だか知れねえが他人を利用して傷付け、その上俺の親友を傷付けて、必死に姫神を救うおうとした人間を殺そうってんなら......まずは、その幻想をぶち殺す! 」
その言葉と共に繰り出された上条の拳は、神である咲耶姫の顔をクリーンヒットした。その拳の勢いに押され咲耶姫の体は地面に倒れる。
それと同時に彼女の姿が変わっていった。
古風な和服の姿から、細めの体を赤色のプロテクターで部分的に装甲したスーツを着た黒髪のショートヘアーの少女の姿へと変わっていく。
そのままどっさと地面に倒れた彼女は身動き一つしない。
恐らく意識を失っているのだろう。
「上条、お前腕を失わなかったのか..... 」
「? 何言ってんだよぴんぴんしてるぜ。お前の言葉がけっこう効いたみたいだ。最終的にアウレオルスが自分から術を解いて.....思い出すのも嫌な姿になっていたステイルとかも元に戻った 」
「そうか..... 」
護がこの戦いで避けたかったのは、話の大筋の流れが不確定要素の存在により改変されてしまうことだった。
だが結果的に護はアウレオルスが上条の切断された右腕から生えた竜の顎に呑みこまれ記憶をなくすという事実を改変してしまったことになる。
アウレオルスは記憶を失っておらず、上条も右手を切断されてはいない。
それがどう影響してくるかは護にも予想できなかった。
そして護の思考はそこまでが限界だった。
「おい....しっかりしろ.....? ま....も..... 」
だんだんと遠くなっていく上条の声を聞きながら護は意識を手放した。
<章=第四十六話 とある女神の最終切札>
「......さん.......まも.....さん 」
ぼんやりとする意識の中で護は懐かしい声、久しく聞かなかった声を聞いた気がした。
そしてすぐにその声の正体に気付いた。護が守ろうとした少女、佐天涙子だ。
「佐天さん!? 」
ガバッとベットから跳び起きてすぐに胸のあたりを中心に激痛が走りまた倒れ込む護の手を佐天は握った。
その女の子の感触に思わず赤くなる護だったが直後に彼女の瞳に涙が溢れていることに気付いた。
「(また佐天さんに心配かけちゃったみたいだな) 」
「護さん私のためにまた無茶をしたんじゃないですか? 」
「いやこれはスキルアウトにやられて 」
「嘘つかないでください! あのカエル顔のお医者さんから全部事情は聞きました! なんでそんな無茶ばっかりするんですか! 」
「事情を聞いた?どこまで? 」
「護さんが学園都市の裏側で組織を率いて活動しているっていうところから学園都市の第1位のレベル5と戦っているとこまで全部です! 」
あの医者いったいどうやってそこまでの情報を?と非常に疑問を覚えた護だったが今は佐天さんに対応しなければならない。
「.......佐天さんはその医者の話を信じるの? 」
「護さんがセブンスミスでの事件の後から何度もいなくなったりアパートの部屋が何日も開けっ放しだったりすることを考えればお医者さんの言うこともあながち嘘じゃないかもと思います 」
護を見つめる佐天の目は本気そのものだ。ふと、護は誤魔化しきれないなと思った。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン