とある世界の重力掌握
「必然......君達との戦いで気付いたのだ。彼女の過去のパートナーの1人であり今は彼女の記憶の中には残っていないにも関わらずたった一つの誓いの為に今も彼女を守り続けているあの神父のように私も影であの子を守り続けるべきなのだとな。今彼女は学園都市で保護されている。であれば私もこの街で彼女を守る必要がある。そこで街に残る代償として君に協力させて貰いたいのだ 」
「アウレオルスが残る理由は分かったけど火野咲耶の方は? 」
「それは彼女自身に聞くと良い 」
アウレオルスが目くばせする方に護の視線が移るがそこには病室のスライド式のドアがあるだけだ。
「いないけど? 」
「そのドアの向こう側でさっきから彼女は待っている 」
なに?と驚愕した護の前で扉が横にスライドしていき、開ききった扉の前に件の火野咲耶の姿が現れた。
その両脇にはウォールメンバーの御坂美希と高杉宗兵が付いている。
「美希! 高杉! 無事だったんだ! 」
「そこのアウレオルスの偽物と交戦していて連絡できなかったんだ。すまんリーダー 」
「結構苦戦したのにまさか偽物(ダミー)だったとはね。あとでアウレオルス本人から聞いて卒倒するかと思ったわよ 」
苦笑しつつ語る2人の姿に安堵しながら護は目の前の火野咲耶に意識を向けた。
その姿は護と戦ったときとは大きく変わっており、ロングヘアーはショートヘアーになっており、赤髪は黒髪になっており体の各所に取り付けられていた深紅のプロテクターは外され、今は入院服を着ている。
その瞳に護と戦った時のような好戦的な光はないように見えるが、哀歌に重傷を負わせたような相手。しかも言うならば今回の事件の苦戦の原因を作った黒幕的な存在相手に警戒しないわけがない。自然と護の体に緊張が走った。
「心配しないでウォールリーダー。今の状態の私には能力は一切使えないです 」
そんな護の気持ちを察したのか咲耶は遠慮がちに言った。
「どういうことなの? 」
「私が能力を使うには第2段階に変化しないといけないんです。通常の状態、つまり今の状態の私は民間人となんら変わらないんです。多分街の不良程度にもやられちゃうと思います 」
そう咲耶は言うが、仲間を殺しかけた相手にそうやすやすと心を開けるわけがない。
「たとえ君の言うことが本当だとしても、僕は君を信用できない。君がしたことによってクリスは『僕』の手で死にかけ哀歌は重傷を負った.......それになんで君が敵だった僕に協力するんだ? 」
咲耶は無言でうつむいた。
だがしばらくして意を決したように顔を上げて話し始めた。
「護さんの仲間を傷付けたことは一方的に私が悪いです.........本当にごめんなさい! 」
そういって頭を下げた彼女の両目から涙があふれてきたのを見て護は困惑した。声の調子やしぐさ。そしてその表情は本当に本心から悔み後悔しているように見えたからだ。
「私はただこの街で再開されようとしている計画を止めたかっただけなんです........」
「計画って.......お前の中にいるっていう別人格みたいな奴が言ってたやつのことか? 確か人造神計画とか.......」
「その通りです高杉さん。ウォールリーダーをはじめとした皆さんがみたとおり私は神の力をもつ人間なんです。そしてそんな力を持つ人間を作り出すための計画が『人造神計画』という名なんです 」
「その人造神計画とやらを吉沢大学が行ってたってのか? じゃあ研究所が突如廃墟になったのはおまえさんが? 」
「ええ、そうです 」
「じゃあお前はあそこで生み出されたのか? 」
「いいえ、違います。私が生み出されたのはここじゃない。場所は正確に覚えてはいないけどここじゃないどこかだと思います。山の中にある研究所でした 」
高杉と咲耶の会話を聞いていた護が口を開いた。
「それじゃあ、なんで付属研究所を廃墟にしたの? 」
「そこでも研究がおこなわれていたからです。それも言葉では語れないようなむごい研究を行っていたからですよ 」
「それを止めるために研究所を襲撃して廃墟にしたと? じゃあ、なんで壊滅させたはずの研究所にまた来たの? 」
「それは.......この街でもう一度研究が再開されようとしていたからです。私のかけがえのない相棒(パートナー)を利用して 」
「相棒......というと、つまり君以外に存在する人造神の一人ということなのかな? 」
「ええ、彼も人造神の1人。そして私を研究所から連れ出してくれた仲間なんです 」
「その相棒さんがなんでその計画を再開した奴らに利用されようとしているんだ? 人造神というからには君と同じような力をもつ存在なんだろ? 敵に利用されるなんて 」
「彼は自分から彼らに協力してるんです 」
「ちょっと待て! 」
高杉は思わず声を張り上げた。話が良く理解できなくなっていたのだ。
「お前をその研究者達の研究施設から逃したその相棒さんがなんでその敵に協力してるんだ?話がおかしいだろ! 」
「私にも分からないんです。ただ様々の所から伝わってくる情報を集めると近々彼を利用して人造神計画に関わるあることを始めるという可能性が浮かび上がってきたんです。だから私はこの街に来たんです。彼らがそのなにかを行おうとしているという情報があった吉沢大学付属研究所跡に........ですがその情報は誤りでした。あそこは本当にただの廃墟だった。そこでもう一つ行われる可能性のある施設として挙げられていた三沢塾に向ったんです。そうしたらそこはすでにアウレオルスさんが制圧していた。私はアウレオルスさんに接触し恐らく来るであろうあなた達の情報を伝えました。私は三沢塾の占拠状態をできるだけ長く続けておきたかったんです 」
「だがそれは僕達により阻止されてしまった........」
「はい。でもかえって良かったのかもしれません。あの一件で三沢塾は閉鎖に追い込まれたそうなので彼らの計画を一時的にせよ頓挫させることができたわけですから 」
咲耶はそこまで話しおえて護の瞳をじっと見つめた。
「ですが私の相棒がやつらの手にある限り、彼らはまた計画を再開させようとすると思います。そしていまその組織はおそらく学園都市内部にいると思います。だから私はまだこの街にいなければいけないんです。でもこの街にいるには理由がいる。だから護さんの手伝いということでウォールに協力させて貰えないかと思うんです 」
一気に喋った咲耶に対して護はしばし無言だった。
数刻後に護が口にしたのは重い言葉だった。
「僕は君の策略によって仲間を失いかけた.......そんな僕が君に守りたいと願った人のお守を任せられると思う? 」
その言葉に咲耶は下を向いた。護の言葉はその通りだったからだ。
「復讐は先見の明をなくさせる 」
突然クリスが放った言葉に全員の視線が彼女に向いた。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン