とある世界の重力掌握
そんな2人の後ろでドアがいきなり開かれた。
「!! 」
「!? 」
慌てて後ろを振り返る護と高杉。その視界に入ったのは........手を膝にやりながら荒い息をつきやっと立っている三国希だった。
「まさか......手前の仕業か! 」
殺気立つ高杉を護が手で制する。
彼女が犯人の可能性もゼロではないが、だとしたらこの場に戻っている理由が分からない。
「希さん......いったい何があったんだ? 」
「ここが襲撃されて......あなたの仲間2人が応戦して........私にも最低限自分の身を守るようにと数珠丸を渡して........私はクリスというメンバーに携帯電話を渡されてあなたにメールを送るように言われて......あの拠点から離れつつメールを送った.......それで今様子を見るために戻ってきたのよ 」
「その襲撃した奴は誰なんだ? お前の仲間か? 」
高杉の問いに希は首を横に振った。
「私の仲間じゃないわ。少なくとも私に見覚えは無かった。パーカーを着た10代の女の子だった 」
「女の子? 」
「うん......突然ドアが切断されて内側にたおれて.......パーカーを着た女の子が入ってきて......その女の子は長い髪の毛を宙に浮かばせていたんだけど........その内のいくつかの髪の毛の纏まりが急に光を反射して光る刀の刀身みたいに変化して....... とっさにクリスっていうあなたの仲間が部屋にあった机を不可視の力で投げつけたんだけど一刀両断にされて........顔色を変えた2人は私を外に逃がしたの 」
「そして戻ったら2人の姿は無く、代わりに俺たちがいたってことか......... くそ、誰なんだその女の子は? うちの美希とクリス2人を相手取るなんて....... 」
「とにかく一度メンバーを集めなきゃいけない。高杉、お前はセルティに連絡してくれ。僕は哀歌に電話する 」
ウォールの主要メンバー2人が敵と遭遇し消息不明になった。
これは2人が攫われた可能性を示している。
となるとこれを仕掛けてきた何者かが何らかの形で接触してくるはず。
そうなった場合、バラバラに分散しているのは得策ではない.......そう考えての護の判断だったが少々遅かった。
「リーダー.......セルティに繋がらねえ 」
「もしもし? 哀歌? 」
「護.....! 私は敵と交戦中.......! ここは私で何とかするから護は早く上条当麻の所に行って! 敵は彼を知って....... 」
哀歌からの電話はそこで切れた。
通話が切れた携帯電話を持ったまま立ち尽くす護。
「リーダー.......どうする? 」
「とにかく......哀歌との最後の通話記録から哀歌の居場所を探ろう。あの哀歌はそう簡単にはやられないはずだ.......だから知人の協力を借りて居場所を割り出す 」
「知人? 」
「別働班SASの中にはそういった事について天才的な友をもつ人がいるんだよ 」
「割り出して......どうするんだリーダー? 」
「本当は僕自身が助けに向かいたいけど、哀歌の言っていた事が正しいなら上条が危ない可能性があるから僕は彼の所に戻るよ。高杉また送りを頼む。それが終わったら高杉だけSASに向かって欲しい 」
「SASへ? 」
「哀歌の方に増援が必要だからね 」
そうして護たちが自分たちを狙う敵を探り出そうとしていたころ....... 狙われた当人である哀歌は襲撃者である少女と戦っていた。
奇しくも2人が戦っていたのはアクセラレータと上条がぶつかり合うことになる操車場であった。
「ツ!.....せや! 」
廃材となって処分待ちの廃車を勢いよく投げつける哀歌だが目の前の少女は自分の髪が変質した刀で自分の手前で迫る廃車を切り捨ててしまう。
「大した怪力.....でも私にその攻撃が届くことはないから 」
「あなたは......誰? 」
「私は刀山鞘(トウセンサヤ) ......この街で保護されている原石の1人だから 」
「やけに......素直に話すのね.......」
「だって聞かれたってここであなたを倒せば問題ないから 」
その言葉に身構える哀歌。
現状、敵は良くは分からないが髪の毛を刃物のように変化させて戦っている。
哀歌は普段大抵の刃物使い相手なら竜人化した状態の両腕のみで対処しているが目の前の少女の理屈が分からない力で作られている刃物にそれで通じるかは分からない。
となるとこちらも得物を使うしかないわけだが........
「(正直、毎回、破壊大剣を使うのは........リスクが高いのよね....... ) 」
哀歌の得物であり切り札とも言える破壊大剣(ディストラクションブレード)は威力は絶大なのだがそれは出現させるたびに周りに余波を撒き散らすので毎回軽々しく使えるものではないのだ。
哀歌は己の右手を宙に掲げる。その動作に鞘 が首を傾げた直後哀歌の口から詠唱が流れた。
「聖なる龍は加護を授ける。しかして両の腕は抵抗の証、龍の加護はそこに宿らん! 」
次の瞬間一瞬で哀歌の両腕を不思議な武器が覆った。
金色に光輝き篭手の部分に龍が彫られているそれは剣身が篭手と一体化した攻防一体の剣。
17世紀から19世紀にかけてインドで使用された剣、パタである。
「?......いったいどこから? 」
目を丸くして驚く鞘はどうやら魔術を知らないらしい。
哀歌はその両腕に装着したパタを目の前でクロスさせる。
「あなたがいったいどんな力を持ったいるか分からないけど.......簡単に私を倒せるとは思わないことね 」
哀歌はその両手の刀をハサミのように構えながら鞘に向けて駆け出した。
「(あの髪を変質させた剣......刃物の切れ味はかなり鋭い..........だけど魔術的な武器に対してはどうかしら? ) 」
哀歌が突き入れる2本の剣を鞘は前で結んである髪の毛を変質させた刀で止めた。
「私の髪刀で......斬れない? 」
驚く鞘に向けて哀歌は続けざまに斬撃を浴びせかける。
だが鞘の方もそれまでのように何でも切り裂くことこそ出来ないものの哀歌の様々な方向から仕掛けられる高速の斬撃をいくつもの変化させた髪刀で防ぐ。
このままでは平行線のまま進むと考えたのか鞘は哀歌が2本同時に振り下ろしたパタを2つの髪刀で受け止め同時に残りの髪の毛を纏めて作り上げた巨大な杭を哀歌に向けて突き入れる。
ズゴン!という鈍い音と共に哀歌の体が吹き飛ばされ3メートルほど先の地面を転がる。
痛みは想像を絶した。
「う.......があぁぁぁぁ!? 」
激痛にのたうつ哀歌に向けて一歩一歩進みながら鞘は呟く。
「別に私にあなた達を殺す意思はないから。ただあなた達ウォールの主要メンバーを捕らえて善人のあなたのリーダーと交渉したいだけだから。だからいい加減抵抗しないでほしい 」
「........... いったい誰の....... 」
「既にあなたのリーダーは推測しているかと思うけど、学園都市統括理事の貝積継敏だけど 」
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン