とある世界の重力掌握
「じゃあ10032号は? 」
「まもなく始まる実験の為に所定の場所に待機しています、とミサカは説明します 」
「じゃあどうしてここに? 」
「実験を阻止しようとするあなたに会う為です。とミサカは説明します 」
「なんでそれを!? 」
驚く護の手をミサカ19090号は握った。驚いて彼女を見る護はミサカ19090号の瞳が涙で潤んでいることに気づいた。
「(妹達(シスターズ)には感情の起伏がないはずなのに......) 」
「他のミサカたちが見たあなたの行動や、布束砥信の言葉から判断しました。間違ってはいないですよね?とミサカは確認をとります 」
少し感情に揺れる声で話す19090号の表情には悲哀と懇願の色が見てとれた。
本来ならなぜ19090号が、こうなっているのか聞くところだか今はそんなことをしている時間ではない。
「間違ってはいないよ。確かに僕たちは計画を止めようとしてる。だから案内してくれ、アクセラレータと10032号がいる場所に 」
護の言葉に頷き、走り出す19090号の後を護たち3人はついて行く。
闇が生み出した計画をめぐる戦いは最終局面を迎えようとしていた。
<章=第五十二話 とある二人の女子寮探索>
護たちが現場に到着した時、すでに実験は開始されていた。
アクセラレータに対してミサカ10032号が電撃を浴びせている。
その閃光が闇に包まれている操車場に一時的な光をもたらしている。
「やばい、もう始まってる! ナタリーさん、アクセラレータの意識を少しでもこちらに引きつけておく必要があります。あなたの魔術でできますか? 」
「分かった。やってみます 」
ナタリーはポケットからカードを取り出す。その色は白。
『民草はエジプトより導き出されん、導くは神の力、実行するは天使の加護、天火の柱を持ってして我らを導かん! 』
言葉はヘブライ語の為、護たちはさっぱり分からなかったが次の瞬間護たちは度肝を抜かれた。
突然アクセラレータの足元に魔法陣が現れる。
そのことにアクセラレータが疑問を持つより早く彼に向かって天より火柱が陣に導かれるように一直線に落下し全身を包み込んだ。
凄まじい熱風が周りを包み込む........がアクセラレータには例え魔術であってもベクトルが伴う攻撃は完全には通じない。
一瞬火柱に呑まれたように見えたアクセラレータだったがすぐさまその炎を後方に逸らし、周りに警戒した視線を向ける。
斜め後方に吹き飛ばされた炎は、砂と風と水と火の粉に変わり空中を漂う。
その光景を見てアクセラレータが忌々しそうにつぶやいた。
「なんだァ? なんで反射が正しく働かねえんだァ? 」
周りに苛ついた目線を向けるアクセラレータ。
その視界に護たちは映らない。
よって護たちは次になにをするかを考える時間的余裕がある........はずだったのだが.......
「一方通行(アクセラレータ)! 」
ミサカ19090号が飛び出していってしまったためそんな暇は無くなってしまった。
「くそ、あいつ勝手に飛び出しやがって! 」
ミサカを追って飛び出した高杉が腰に差し込んである機能性炸裂弾射出機を構える。
狙うのはアクセラレータではない。アクセラレータに向かって走るミサカ19090号である。
放たれたのは麻酔弾。
その弾は19090号の全身に命中し一瞬で彼女の意識を奪った。
意識を失った19090号の体に触れて高杉は彼女を戦場から遠ざける。
その一連の行動を眺めていたアクセラレータが始めて動いた。
周りの大気のベクトルを制御したアクセラレータは竜巻のように渦巻いた強風を高杉に向けて放つ。
もちろん、その攻撃は高杉の瞬間移動に避けられないはずがない。
「馬鹿なのか、アクセラレータ! 」
軽くアクセラレータの攻撃を瞬間移動により避けて護のそばに着地する。
「リーダー、あの女は拠点に送っといた。だがこうなった以上アクセラレータとの対決は避けられないぜ 」
「分かっているよ高杉、上条さんがくるまでの辛抱だ。それまで僕らが時間を稼ぐんだ 」
コンテナの影から姿を現した護たち3人にアクセラレータの視線が向く。
「なンだ、なンだ、なンですかァ? 前回俺に敗れた第4位様が敗者復活戦(リベンジ)に来たってかァ? 」
口裂女の如き笑みを浮かべるアクセラレータに護は静かに語りかける。
「確かに僕は一度君の能力の前に敗れた。はっきり言って僕では君に勝てるとは思わない.......だけど、そんな僕でも、戦う力がないわけじゃない。だから僕は......... 」
護は手のひらをギュッと締める。彼とて17歳の少年である。正直怖くないはずがない。だがそれでも護はアクセラレータを真っ直ぐに見つめた。
「再び抗らう。自分の命が尽きるまで君を止めて見せる! 」
「イイねえ.......じゃァ見せてもらおうか! 」
アクセラレータの力はベクトル操作。即ちこの世界の物質の大半に働く普遍的な力である『向き』を操る能力である。
そんな力を持つアクセラレータはベクトルを反射に設定させることで核ミサイルの直撃すら跳ね返す無敵と呼べる防御力を持ちベクトル操作により多彩かつ強力な攻撃を相手を扱う。
そんな学園都市最強のレベル5の戦いはまさしく一方的な虐殺。
この時点でアクセラレータと戦うものにまつのは虐殺という終幕しかない。
だが護はそんな流れをこの先も続けさせる気はなかった。
今まさに飛びかかろうとベクトル操作により足元のベクトルを変化させて護に向けて高速で突き進むアクセラレータ。
だがアクセラレータは護に辿りつけなかった。
ズン!という音と共にアクセラレータの体が地面に押しつけられた。
「ゲホ!? 」
自分の身になにが起こったのかを理解できていないらしいアクセラレータが目を白黒させる。
「アクセラレータ。確かに君のベクトル操作、ベクトル反射は最強と呼べる力だよ。正直、僕の技の殆どは君に通じない。なにしろ僕が君に前回出した技は周りの重力を集めて『向き』を変え相手に放つ技だったからね 」
真上からかかる力に地面に縫い止められたかのように動けないアクセラレータに向けて護は目線を向け続ける。
「だけど君の能力にも穴がないわけじゃない。君が無意識に常に設定している反射、これがあるかぎり誰も君に攻撃を与えられない........だけど君は反射に2つの例外を設けている。自分が当たり前に生きる上で必要なもの。即ち酸素と重力だ。君はその例外を操る僕の力で今、地面に縫い付けられているというわけだよ 」
「.......そうか、確かテメエは重力を操るレベル5だったンだよなァ 」
「そうだ、アクセラレータ。今君がその状態から開放されたいなら重力を反射するしかない。だけどそれをしたら君は大変なことになる。そのくらい学園都市最高の頭脳を持つ君なら分かるだろう? 」
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン