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とある世界の重力掌握

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「神化、命名『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの(システム)』 」

その言葉が護の口から出た次の瞬間、彼の体を巨大な火柱が包み込んだ。
<章=第五十五話 とある少年の一大決意>

「!? 」

さすがに驚き、慌てて後方に2メートルほど飛びのいたアクセラレータは目の前で燃え昇る火柱を信じられないといった表情で見つめた。

「(液化爆薬でも仕込んでやがったのか?だがそれにしては爆発の規模がデカすぎンぞォ?) 」

頭の上に疑問符を浮かべるアクセラレータにお構いなしに火柱の演出は直ぐに終わった。

その火柱が消えた場所、そこに立っている人物を見てアクセラレータの表情が驚きに染められた。


「誰だ、てめェは? 」

愚問とも言える質問だったが、それでもアクセラレータは問わずにはいられなかった。

なぜなら、どう見ても2メートル先に立つ人物は先程まで満身創痍でなんとか立っていた第4位と同じ人物とは思えなかったからである。

「そんな分かり切ったことを聞く必要があるのかねアクセラレータ。君の頭脳ならすでに分かっていると思うがね 」

口調がかなり変わっている護だがアクセラレータはそれに気づいている余裕はなかった。

護は自分の姿を確認して満足げに頷いた。

「成る程、確かにこれなら対抗できるかもしれんな 」

彼の手には既に緋炎之護は無かった。その代わりに全身を緋色の炎が包み込み、さながら炎の衣を纏っているかのようになっており、彼自身が神々しい光を発しており、瞳、髪、皮膚さえも緋炎色に染まっている。

まさしく神話の光景。ユダヤ教の預言者であるエリヤ、ギリシャ神話の英雄であるヘラクレス、そして十字教の教祖である神の子、これらの人物の共通点、『人の身から神の身に上がった存在』、それを体現する姿へと護は変貌していた。

「さて.....それでは始めさせてもらおうかアクセラレータ 」

その言葉にアクセラレータは何らかのアクションを予測し、先制攻撃を浴びせかけようとした。だが次の瞬間、衝撃と共にアクセラレータの視界から唐突に護が消えた。

「(なぜやつが......いや、奴が消えたンじゃねえ.....俺が吹き飛ばされて.......! ) 」

その事実に気付いた時には彼の体は、既に操車場までの数キロを吹き飛ばされていた。

彼の無敵を誇るベクトル反射の防御を完全に素通りし正面からの打撃攻撃で容赦なく吹き飛ばされたアクセラレータは無様に地面を転がった。

落下直前に運動量のベクトルを操作し、その衝撃によるダメージを最小限に抑えたアクセラレータだったが、それ以前に護からのどういった攻撃かも見えなかった程の高速打撃によるダメージが彼の体を痛めつけ、全身の筋肉と内臓、骨と血管に苦痛を訴えさせている。

「(あの攻撃は.....何だ?その瞬間すら見えなかった......しかも膜を....素通りして........) 」

アクセラレータが事態を把握するのを待たず、どうやったか数キロを一瞬で移動してきた護の蹴りがアクセラレータに向けて放たれた。

むりやり足を蹴り出し、強引に体を起こして回避するアクセラレータだったが背中を押すような衝撃波に吹き飛ばされた。

直撃で無くてもそれだけの威力......だがアクセラレータはそれに対してではなく別の事実に驚愕していた。

「(さっぱり理屈は分かンねェが、あの正体不明の攻撃が防御を素通りするのは理解してた........だが、地面との高速での接触で発生した衝撃波にまで防御をすり抜ける効果があンのはおかしいだろうがァ!) 」

膜をすり抜けてくる直接打撃に関してはまだ『何らかの法則でベクトル反射膜を素通りする能力』を使っているからだとなかば強引ながらも納得させることができる。

だが本来、能力(チカラ)と無縁の筈のただの地面がいくら能力攻撃との接触により衝撃波を発したところで、それに能力の効能が添付されることは基本ない。

そんな事実を踏まえた上で、それを覆す事象に混乱するアクセラレータにお構いなしに神化した護の追撃が襲いかかる。

「逃がさない!御坂の為にも! 」

護の速さに避けきれないと判断したアクセラレータはあえて正面から相対することを選んだ。敵の能力(チカラ)が自分の能力に対抗しうることを認めた上で、それを自分の力で打ち破るために。

「(ナメてンじゃねえぞォォォォォォ!!) 」

急激に運動量のベクトルを操作したアクセラレータの右拳の一撃は正面から突っ込んできた護の顔を捉えた。

接触は文字通り一瞬、軽い感触があった次の瞬間には護の姿は今度こそ本当にアクセラレータの前からかき消えた。

刹那、遠方に積み上げられていたコンテナの集団がバラバラに崩れていき、派手に地面に激突し中身をぶちまけていく。

「(攻撃は.......通じた......となると奴の攻撃は俺の防御を素通りしてダメージを与えるが逆にこちらからの攻撃も一応ダメージを与えられるってわけかァ?.
.......) 」

そう考え視線を変えたアクセラレータは思わず全身を硬直させた。

なぜなら、先程自分が確かに吹き飛ばしたはずの人物。古門護が目の前にいたからだ。

「残念だなアクセラレータ。あの程度では、まだ私は殺せない 」

あまりの事実に絶句するアクセラレータに護は瞳を向ける。

「神化、レベル1 」

そう呟きながら護が繰り出した拳はアクセラレータの胸に直撃した。だが先程までのような威力ではない。

その威力はあくまで人に殴られたのと同じ。違う所があるとすれば、その攻撃がアクセラレータの防御を無効にしていることである。

だがそれでも、先程の高速打撃によるダメージが蓄積しているアクセラレータの身体は悲鳴を上げた。

「(なぜだ?確かに俺の拳は奴を吹き飛ばしたはず......) 」

そんなアクセラレータの内心を表情から読んだのか護は彼に答えを提示する。

「不思議そうな顔をしているなアクセラレータ。単純なことだよ、君は私を殴ったと錯覚しただけだ。君は実際は私を殴れていない。君が正面から来た私に攻撃を当てようとした時、実際は私は高速で君を飛び越えることで君の攻撃を回避していた。君が攻撃を当てる直前に視界に捉えていたのはいわば私の分身.......残像だったのだよ 」

「馬鹿な!? ならあのコンテナはなンで......... 」

「私がやったのよアクセラレータ 」

思わぬ人物からの言葉にアクセラレータの視線がそちらに向く。

そこに立つのは学園都市レベル5の第3位、発電系能力者の頂点に立つ少女、御坂美琴である。そのそばには肩を上下させて呼吸を整えている上条当麻とアクセラレータに油断ない視線を向ける高杉がいる。

「私は彼女に向けての言伝を高杉に頼んだ。私がアクセラレータに向けて御坂の名を叫んだ数秒後に遠い位置にあるコンテナを崩してほしいとな 」

「アンタは、その自作自演にまんまと引っ掛かったというわけよ 」

御坂と護の言葉にアクセラレータの表情が屈辱と憎悪に歪む。

「ふざけンじゃねェェぞォォォ! 」
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン