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とある世界の重力掌握

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だからこそ高杉も油断していたかもしれない。確かに鬼火は高杉に当たることもなく高杉が瞬間移動する前の場所に直撃した。当然ながら高杉自身には当たっていない。

だが、その地面に直撃した鬼火は接触と同時に爆発を起こしたのだ。

1つ1つの爆発はそんなには大きくない。だが同じ個所に連続して鬼火が命中すれば話は別である。

その爆発の規模は一気に広がる。

そして、とにかく当たらなければ良いと考え、それほど鬼火の命中個所から離れていなかった高杉はその爆発に見事に巻き込まれた。

凄まじい爆音と閃光に目と耳をふさがれ状況を把握できない高杉は、脳内まで揺さぶられたかのような気持ち悪さで一歩も動けない状況に追い込まれていた。

このような混乱状態では能力使用のための演算も不可能である。仮にできたとしても壁や地中に埋まるのがオチだろう。

だが、そんな混乱状態の中高杉は1つのことに気付いていた。

「(あれだけの爆発なのに............体へのダメージがほとんどない.........?) 」

そうなのである。凄まじい鬼火の連続爆発を受けたにもかからず高杉の体には傷はおろか熱によるやけどの痛みも感じないのである。

「(まさか...........この攻撃には.........!)」

高杉がそれに気付いた次の瞬間、突如、体を凄まじい電流が走り抜け彼の意識を奪った。

次の瞬間、爆発の炎や轟音、閃光は一瞬で消え去り、場に静寂が戻る。

その爆発の光が消えた後には、地面に意識を失って横たわる高杉の姿があった。

それを眺めるアレプーリコスは、視界にいない誰かに語りかけるように口を開いた。

「横やりは無粋アルよ..........リーダー 」

その言葉に応えるように倉庫の上を構成する梁から1人の少年が舞い降りた。

冬場に誕生した氷がそのまま変化したのではないかと思うほどの肩までの長さの白髪に金色の瞳、顔は端正でその口元はきりりと結ばれている。

服装は、下は黒のジーパン、上は雷が描かれた夏物の着物、そしてその上に使い古された感じの何かの作業服を羽織っている。

「アレプーリコス、今の君では『直接敵を倒すこと』はできない。分かってるだろ?」

そう言われてアレプーリコスは悔しそうに目を伏せる。

「それはそうアルけど...........せめて一人で戦闘不能に追い込みたかったアルよ...........」

「万が一のことがあって、この段階での神裔隊の戦力の低下は好ましくない。計画が実行に移されれば我らが闘う相手はウォールだけではなくなるんだから 」

そう諭されて渋々頷くアレプーリコス。

それを待っていたかのように再び天井の梁から人影が舞い降りた。

年の頃は20代前半、ヨーロッパ系の顔立ちをしており、金髪碧眼、まるで貴族のような端正な顔立ちをしている。

夏だというのに、まるで厳冬の大地にでもいるのかのように明らかに冬ものの黒い毛皮のコートを羽織っており。

上から下まで黒ずくめの服装をしている。

「リーダー.........警告...........ヘレより敵が来る 」

「ヘレ........?ああ、地獄か........いきなりドイツ語にされたから分からなかった............で、そのニュアンスから言うと魔術師か?」

リーダーの言葉に男が頷いた瞬間、倉庫の床をぶち破り巨大な土づくりの手が突き出した。

そのまま地面から這い出るように姿を現したのは、背中に弓入れを背負い腰に山鉈を差し、その手に弓を構えた巨大な狩人。

そしてその後から、赤髪で碧眼の少年が姿を現した。

「おい、あいにくと俺たちも戦力低下は好ましくないんでな。ここで倒させてもらうぞ。お前らの計画はここで終わりだ!」

「その格好にその杖は............ああ、なるほど報告にあったウォールと協力関係にあるオカルト組織か 」

リーダーの少年は興味深そうにダビデを眺めたが、すぐに首を振った。

「残念だけど、今は僕は君に構ってはいられない。まだすべきことがあるんでね。だから、君の相手はヨハンに任せることにするよ..............引き上げるよアレプーリコス!」

「ハイな!」

アレプーリコスはその手元に鬼火を出現させると、2つ同時に自分の足元に向けて放った。

次の瞬間、鬼火が爆発を起こし、その閃光がリーダーの少年とアレプーリコスの姿をかき消す。

「く!? 」

とっさに目を手で覆ったダビデが次に目を開けた時には、すでに2人の姿は消えており、一緒に高杉も消えていた。

倉庫に残っているのはリーダーの少年がヨハンと呼んでいた男とダビデだけである。

「くそ.........これで3人目かよ!........... 」

歯噛みするダビデは目の前に残っているヨハンを睨みつける。

当のヨハンはその視線を何でもないように受け止め、ただ佇んでいる。

2人の視線がぶつかり合うこう着状態の中、最初に動いたのはダビデだった。

「バルバドス!やつを殺れ! 」

ダビデの声にこたえて狩人のゴーレム、バルバドスが片手で弓を構えた状態でその巨大な拳をヨハンに向って振り下ろす。

真っすぐヨハンに向った拳は容赦なくヨハンを叩きつぶす............はずだった。

「なに........! 」

ダビデは思わず目を疑った、巨大なゴーレムの拳をよりにもよって細身の体をしているヨハンが片手で受け止めていた。

「我は.........人造神..........神の力に.........ただ畏怖せよ....... 」

ぼそぼそと呟きながら、ヨハンは軽くバルバドスの拳を押す。

その動作だけで巨大なゴーレムの体が後ろに数メートル下がった。

「馬鹿な、いったい......... 」

絶句するダビデに相変わらず無表情なまま、ヨハンは後方に跳躍して少し距離を取った。

そして、態勢を立て直そうとしているゴーレムを見つめながら一言放った。

「オイサ―スト・エルヒガンテ 」

その言葉が放たれた次の瞬間、突然ヨハンの右腕が巨大化した。

その大きさたるやダビデのゴーレムすら超えるほどである。

そして明らかに動かすことさえ困難なその腕を軽やかに動かしたヨハンは腕を高々と掲げた、その結果として当然ながら屋根が吹き飛ぶが彼はそれを全く気にしない。

一気に容赦なく振り下ろされた腕はダビデのゴーレムを一撃でこなごなに破壊した。

「のわあァァァ!?」

その衝撃はまるで地震のように地面を揺らし、ダビデもまともにたっていられず地面を転がった。

そこへ再び巨人(エルヒガンテ)の一撃が振り下ろされる。

今から部分的にゴーレムを作ろうとしても間に合わない。

なにしろ疑似悪魔であるはずのダビデのゴーレムを一撃で破壊するほどである。

地下に逃げようにも術式を発動させる余裕がない。 

ダビデは覚悟して目を閉じた。 

その時、倉庫に凛とした女声が響き渡った。

「マルクトが示すはセフィロトの左方、その力が示すは地球(テラ)、地の底に生れし輝きによって我らを敵から守りたまえ! 」
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン